一人墓地─ひとりぼっち─
結城彼方
一人墓地─ひとりぼっち─
小学3年生の大野聡太は、両親が離婚し、母親の故郷である荘内町に引っ越してきた。この町唯一の小学校に9月から転校させられたが、クラスにも上手く馴染めず、母親は朝から晩まで働きに出ており、聡太は一人ぼっちだった。昼休みはいつも、外で読書をしていた。自分から輪に入ることができない聡太は、誰か誘ってくれないかと期待して、いつも同じ場所で本を読んでいたのだ。でも、誰にも誘われることは無かった。ある日、いつものように外で本を読んでいると、誰かの話声が聞こえた。聡太は聞き耳をたてた。
「
これを聞いた聡太は
(これだ!!僕が赤いクシを取ってくれば、皆から度胸を認められて仲間に入れてもらえるに違いない!)
そう思った。
その日の放課後、聡太はさっそく
「まって!!」
後ろから女の子の声がした。振り返ると、お墓の前に聡太と同い年くらいの女の子が立っていた。
「まってください。そのクシ、私のなんです。」
女の子が言う。
聡太は思った。
(こんな所に女の子が来るはずがない、ひょっとしてこの女の子はこのお墓の幽霊なんじゃないのか?)
聡太の背中を、冷たい汗が流れた。クシを握る手は震え、身動きが取れなかった。すると、女の子がゆっくりと近づいてきて言った。
「返して・・・もらえませんか?」
差し出された女の子の両手に、聡太は恐る恐るクシを置いた。その
「ありがとうございます。」
そう言うと、女の子はにっこりと笑った。
聡太は赤面し、口が鯉のようにパクパクしていた。そして、どうにかこうにか声を出して聞いた。
「君は、このお墓の幽霊なの?」
すると、女の子は少し困った顔をして答えた。
「はい。そうなんです。」
聡太の顔色は赤から青へと急激に変化した。すると、そんな聡太の様子を察してか、女の子が言った。
「安心してください。確かに私は幽霊ですけど、私はあなたに何もしませんよ。ただ、ある人達を待っているだけなんです。」
聡太は徐々に落ち着きを取り戻していった。そして、女の子の話の続きを聞いた。
「君は、いったい誰をまっているの?」
女の子は答えた。
「私の両親です。私は幼いころから病弱でした。それでも両親は大切に大切に育ててくれました。だけど10歳の時、疫病にかかってしまったのです。私のせいで私の両親まで村の人達から煙たがられてしまいました。それでも、看病し続けてくれたのですが、その甲斐なく私は死んでしまったのです。私の遺体は疫病をばらまくからと、村の集合墓地には入れさせて貰えませんでした。そこで両親は山奥にお墓を立てたのです。そして、その時に約束してくれました。天寿を全うした時、ここに戻ってくると。天国で、また一緒に暮らそうと。しかし、待てども待てども両親は戻ってきませんでした。」
聡太は女の子の話を聞いて沈黙していた。すると、その沈黙を破るように女の子が言った。
「私と友達になってくれませんか?」
女の子の顔は真剣そのものだった。体は震えている。きっと物凄く勇気を要したのだろう。幽霊からの予想外の申し出に聡太は答えた。
「分かった。友達になろう。」
女の子の顔がパァッと明るくなった。そして言った。
「私の名前は『リン』です。あなたのお名前はなんですか?」
「僕の名前は『聡太』です。」
聡太が答えた。
「それじゃあ聡太さん。これから私たち友達ですね!」
リンは聡太の両手をぎゅっと握ると涙を流した。聡太は訳が分からずあたふたしていたが、やがてリンがゆっくりと口を開いた。
「私、ずっと山奥にひとりぼっちで寂しかったんです。誰かが来ても、話しかけたら逃げられてしまうし、動物たちにも嫌われてしまうし、ずっと友達が欲しかったのにできなくて・・・・・・・だけどやっと友達が出来て・・・・・・・・・・・嬉しくて・・・・・・・・」
聡太には痛いほどリンの気持ちが解った。自分もそうだったから、自分も寂しかったから、自分もひとりぼっちだったから。聡太はリンの両手をぎゅっと握り返した。リンは顔をあげにっこりと笑った。
次の日から、放課後になると聡太は毎日リンの所へ行った。聡太は学校であった出来事を話すとリンは興味深々で聞いた。リンもこれまでの経験や出来事を聡太に話した。聡太には信じられないような話もあり驚いた。二人で山奥へ遊びに行ったりもした。虫を捕まえたり、木に登ったり、果物を食べたり、ヘビから逃げたり。二人とも毎日が楽しくて楽しくて仕方が無かった。二人はもう一人ぼっちじゃなかった。
ある日、いつものように聡太はリンと二人で遊んでいた。夜も遅くなってきたので、聡太がそろそろ帰ろうとすると、リンが引き留めて言った。
「帰らないで。」
リンは泣きそうな顔をしていた。
「私、聡太さんが帰った後、森に一人きりですごく寂しいの。すごく不安なの。明日も聡太さん来てくれるのかな?また、ひとりぼっちに戻るんじゃないかって怖くて仕方ないの。」
リンはついに泣き出してしまった。聡太はなんと声をかけて良いか分からなかった。しばらく沈黙が続き、リンが言った。
「ごめんなさい。こんなこと言っても聡太さんを困らせちゃうだけですよね。ごめんなさい。ごめんなさい。だけど本当は、聡太さんに私とずっと一緒にいて欲しいんです。」
リンからの予想外のお願いに聡太は口を閉じたままだった。長い沈黙の後、聡太の方から口を開いた。
「分かった。ずっと一緒にいるよ。」
リンは大喜びした。聡太も大喜びするリンを見て嬉しくなった。二人はもう一人ぼっちじゃなかった。これからもずっと二人は一緒なのだから。
数日後、荘内町の掲示板に新しい掲示がされた。
『探しています。大野聡太 失踪時:小学三年生 9歳 発見にご協力を。』
一人墓地─ひとりぼっち─ 結城彼方 @yukikanata001
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