一人墓地─ひとりぼっち─

結城彼方

一人墓地─ひとりぼっち─

 小学3年生の大野聡太は、両親が離婚し、母親の故郷である荘内町に引っ越してきた。この町唯一の小学校に9月から転校させられたが、クラスにも上手く馴染めず、母親は朝から晩まで働きに出ており、聡太は一人ぼっちだった。昼休みはいつも、外で読書をしていた。自分から輪に入ることができない聡太は、誰か誘ってくれないかと期待して、いつも同じ場所で本を読んでいたのだ。でも、誰にも誘われることは無かった。ある日、いつものように外で本を読んでいると、誰かの話声が聞こえた。聡太は聞き耳をたてた。


一人墓地ひとりぼっちって知ってるか?畑の先の集合墓地のさらに先にある山道を登って行くと奥にたった一つだけのお墓があるんだ。そこには赤いクシが置いてあるらしいんだけど、今まで誰も取って来れたヤツはいないらしいよ。」


これを聞いた聡太は


(これだ!!僕が赤いクシを取ってくれば、皆から度胸を認められて仲間に入れてもらえるに違いない!)


そう思った。


 その日の放課後、聡太はさっそく一人墓地ひとりぼっちへ向かった。畑を通り抜け、集合墓地を通り、山道へ入った。そのままどんどん奥へと歩いて行った。するとキラリと輝く赤い光が見えた。聡太は光に導かれるように進んでいった。光の場所には、たった一つのお墓があり、その上に真っ赤なクシが置かれていた。聡太は、赤いクシを手に取って振り返り、来た道を戻ろうとした。


「まって!!」


後ろから女の子の声がした。振り返ると、お墓の前に聡太と同い年くらいの女の子が立っていた。


「まってください。そのクシ、私のなんです。」


女の子が言う。


聡太は思った。


(こんな所に女の子が来るはずがない、ひょっとしてこの女の子はこのお墓の幽霊なんじゃないのか?)


聡太の背中を、冷たい汗が流れた。クシを握る手は震え、身動きが取れなかった。すると、女の子がゆっくりと近づいてきて言った。


「返して・・・もらえませんか?」


差し出された女の子の両手に、聡太は恐る恐るクシを置いた。その瞬間とき触れた彼女の手は確かに温かく、想像していた幽霊の手とは違っていた。


「ありがとうございます。」


そう言うと、女の子はにっこりと笑った。


聡太は赤面し、口が鯉のようにパクパクしていた。そして、どうにかこうにか声を出して聞いた。


「君は、このお墓の幽霊なの?」


すると、女の子は少し困った顔をして答えた。


「はい。そうなんです。」


聡太の顔色は赤から青へと急激に変化した。すると、そんな聡太の様子を察してか、女の子が言った。


「安心してください。確かに私は幽霊ですけど、私はあなたに何もしませんよ。ただ、ある人達を待っているだけなんです。」


聡太は徐々に落ち着きを取り戻していった。そして、女の子の話の続きを聞いた。


「君は、いったい誰をまっているの?」


女の子は答えた。


「私の両親です。私は幼いころから病弱でした。それでも両親は大切に大切に育ててくれました。だけど10歳の時、疫病にかかってしまったのです。私のせいで私の両親まで村の人達から煙たがられてしまいました。それでも、看病し続けてくれたのですが、その甲斐なく私は死んでしまったのです。私の遺体は疫病をばらまくからと、村の集合墓地には入れさせて貰えませんでした。そこで両親は山奥にお墓を立てたのです。そして、その時に約束してくれました。天寿を全うした時、ここに戻ってくると。天国で、また一緒に暮らそうと。しかし、待てども待てども両親は戻ってきませんでした。」


聡太は女の子の話を聞いて沈黙していた。すると、その沈黙を破るように女の子が言った。


「私と友達になってくれませんか?」


女の子の顔は真剣そのものだった。体は震えている。きっと物凄く勇気を要したのだろう。幽霊からの予想外の申し出に聡太は答えた。


「分かった。友達になろう。」


女の子の顔がパァッと明るくなった。そして言った。


「私の名前は『リン』です。あなたのお名前はなんですか?」


「僕の名前は『聡太』です。」


聡太が答えた。


「それじゃあ聡太さん。これから私たち友達ですね!」


リンは聡太の両手をぎゅっと握ると涙を流した。聡太は訳が分からずあたふたしていたが、やがてリンがゆっくりと口を開いた。


「私、ずっと山奥にひとりぼっちで寂しかったんです。誰かが来ても、話しかけたら逃げられてしまうし、動物たちにも嫌われてしまうし、ずっと友達が欲しかったのにできなくて・・・・・・・だけどやっと友達が出来て・・・・・・・・・・・嬉しくて・・・・・・・・」


聡太には痛いほどリンの気持ちが解った。自分もそうだったから、自分も寂しかったから、自分もひとりぼっちだったから。聡太はリンの両手をぎゅっと握り返した。リンは顔をあげにっこりと笑った。


次の日から、放課後になると聡太は毎日リンの所へ行った。聡太は学校であった出来事を話すとリンは興味深々で聞いた。リンもこれまでの経験や出来事を聡太に話した。聡太には信じられないような話もあり驚いた。二人で山奥へ遊びに行ったりもした。虫を捕まえたり、木に登ったり、果物を食べたり、ヘビから逃げたり。二人とも毎日が楽しくて楽しくて仕方が無かった。二人はもう一人ぼっちじゃなかった。

 

ある日、いつものように聡太はリンと二人で遊んでいた。夜も遅くなってきたので、聡太がそろそろ帰ろうとすると、リンが引き留めて言った。


「帰らないで。」


リンは泣きそうな顔をしていた。


「私、聡太さんが帰った後、森に一人きりですごく寂しいの。すごく不安なの。明日も聡太さん来てくれるのかな?また、ひとりぼっちに戻るんじゃないかって怖くて仕方ないの。」


リンはついに泣き出してしまった。聡太はなんと声をかけて良いか分からなかった。しばらく沈黙が続き、リンが言った。


「ごめんなさい。こんなこと言っても聡太さんを困らせちゃうだけですよね。ごめんなさい。ごめんなさい。だけど本当は、聡太さんに私とずっと一緒にいて欲しいんです。」


リンからの予想外のお願いに聡太は口を閉じたままだった。長い沈黙の後、聡太の方から口を開いた。


「分かった。ずっと一緒にいるよ。」


リンは大喜びした。聡太も大喜びするリンを見て嬉しくなった。二人はもう一人ぼっちじゃなかった。これからもずっと二人は一緒なのだから。








数日後、荘内町の掲示板に新しい掲示がされた。







『探しています。大野聡太 失踪時:小学三年生 9歳 発見にご協力を。』









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一人墓地─ひとりぼっち─ 結城彼方 @yukikanata001

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