第3話
冒険者ギルドの中に入ると甲冑を身に着けている者やローブを纏っている者達で溢れていた。
「今日は一段と人が多いわね」
「人が多いのはいつも事だが……今日はやけに騒がしいな。これは高額の依頼があるかもしれないな」
騒がしいのは高ランクの冒険者がギルドにやって来たか高額の依頼が舞い込んで来たかのどちらかである。賑わっている理由を探るために受付の女性に話を訊くことにする。
「すみません。いつもより賑わっているようですが何かあったのですか?」
「ラリーさんにザックさん、それにリーナさんもいらしていたのですね。実はメタルリザードが北の森に出没してしまい、そのせいで木材の生産が減って困り果ててしまっているのです」
メタルリザードはB級ランクに属する魔獣で全身が金属の鱗で覆われており、生半可な攻撃では傷一つ付かない頑丈な魔獣のため中級冒険者の間では苦戦必須の相手である。
ギルドの話ではメタルリザードは北の森に居座って中々動こうしないため木こりを営んでいる人達は怖くて森に入ることが出来ないでいる。
「メタルリザードは山に生息する魔獣のはずだ。餌場である山から降りることは滅多にない」
ザックの言う通り、鉱物を主食とするメタルリザードは山や岩場と言った場所に生息する魔獣だ。故に餌場を求めて森林を移動するなら分かるが居つく事はないのだ。
「森に誰かが連れ出したかそれとも新たな餌場を求めて山を降りたか、だな」
「後者ならいいけど前者なら魔王軍の仕業?」
「可能性としてはあるね。アレスとサーシャに…ってもうパーティー抜けているんだった」
「仮にパーティーに俺達がいたとしてもあの二人は動かんだろう」
アレスの事だから面倒な事は絶対にしないし彼を崇拝しているサーシャも動かない。そのため基本的に動くのはラリーにリーナが基本でザックは手が空いている時に加入する。
「今回は討伐ですか?」
「はい。このままでは木材に加工する木が採れなくなるため討伐の依頼になります。報酬は金貨三十枚です」
金貨三十枚とは中々高額な依頼だ。しかし、その金額に見合うだけの危険な依頼であることの証明だ。
「どうする?俺は受けようと思うけど」
「私も問題ないわ。逆にやり甲斐があっていいじゃない」
「どのみち、三人分の旅費と生活費を稼がなくてはいかんからな。メタルリザード討伐の依頼を受けよう」
リーナもザックもラリーの意見に異論はないため全員でメタルリザードの討伐の依頼を受諾した。
「陣形はどうする?」
「俺が状態異常攻撃で鈍らせるからザックは攻撃を受け止めつつ攻撃してほしい」
「了解した。しかし、あいつらの皮は堅いから手こずるかもしれんぞ?」
「メタルリザード以上の硬い相手を毎度毎度撲殺か斬殺しているのに?」
面倒だと言わんばかりに溜息をつくザックであったが、ラリーは硬い皮や鱗に覆われた魔獣を盾による殴打で仕留めるか冒険者の時から使っていた大剣で叩き切っているザックを何度も見てきたため苦笑しか浮かんでこない。
「リーナは後方から火属性の魔法を打ち込んでくれ。メタルリザードは火属性の魔法に弱いから」
「分かったわ。特大の魔法をあいつに打ち込んであげるわ」
「俺らを巻き込む魔法は止めてね」
「せめて初級魔法にしてくれ。味方の攻撃でやられるなんて笑い話にもならん」
リーナは以前に調子に乗って放った上級の魔法に巻き込まれたことがあった。放つなとは言わないがせめて、冷静になってから魔法を放ってくれと切に願うラリーであった。
ザックは一回だけ巻き込まれ、多少の火傷を負いながらもなんとか生き残ったことがあってなるべく威力を抑えるか事前に言って欲しいと口酸っぱく注意していている。
「とりあえず、解毒のポーションと麻痺直しのポーションを買ってから討伐に行こう」
このメンバーならメタルリザードの討伐は可能だろうが冒険中は何が起こるか分からないため用心して損はない。
ラリーは毒消しポーションと麻痺直しのポーションを30本ずつ購入してメタルリザードの討伐へ向かった。
――――――――――
メタルリザードが出現していたのは北の森と呼ばれる森林地帯で木々が鬱蒼と生い茂っている。その森ではゴブリンやブラウンウルフ等の下級の魔獣が生息しているため初心者の冒険者が狩場として利用している。
ラリー達は襲ってくる下級の魔獣を倒していきながら奥へと進んでいく。
「やっぱり、おかしいわ。メタルリザードがこんな森の中で出没するなんて可笑しい。餌になる鉱物が転がっていないのに」
「東の山は鉄鉱石が豊富に採れる事で有名だからね。メタルリザードが目指すのならまだ分かるけどギルドの話だとかなりの期間で居座っているらしいし」
「そうなると魔王軍の誰かの仕業と言う線がますます濃くなったな。ラリー、お前はどうする?」
ラリー達はもう勇者パーティーを抜けてただの冒険者として生活すると決めたため魔王軍と戦う必要はなくなっている。
だが、どうしても手を差し伸べないといけない想いに駆られる。
「俺達はもう勇者の仲間じゃないから魔王軍と戦う理由はないけど……」
「今までの旅の記憶が頭から離れられないか」
ザックの言葉にラリーは頷く。パーティーで苦楽を共にしてからこそラリーが悩んでいる事はすぐに察する事ができる。
苦しい思い出が大半を占めているがラリーは中で勇者の仲間と言うものに愛着を持っている。
「ラリー、お前は勇者の仲間に拘りすぎだ。別に拘りに関しては誰にでもあるし否定はしない。だが、拘りすぎると身を亡ぼすことになる」
「ザックの言う通りよ。むしろ、アレスの使い捨ての駒になって命を落とす可能性だってあったんだから」
元々冒険者であるザックはもちろん、サバサバした性格のリーナは自分が勇者パーティーへの愛着は持っていないがラリーは捨てきれないでいる。
「すぐに割り切れとは言わんが今はすべき事に力を注げ」
「そうだよね。……よし、今はメタルリザードに集中しよう」
この想いはそう簡単に割り切れるものではないが、いずれはしなければならない刻が来る。しかし、それは今じゃない。今やるのはメタルリザードの討伐だ。
そうこう言っている鈍色の鱗に覆われた馬以上の体躯はあろうトカゲが目の前でうろついている。
「あれね……」
「かなりの巨体だけどあの色の鱗の色は間違いないよ。メタルリザードだ」
「あの巨体は簡単に見つかるサイズじゃないな」
ザックでも二メートル超えのメタルリザードを遭遇した事は片手で数えることしかなく、ラリーとリーナは始めてのため目を丸くしていた。
「一応、打ち合わせ道理に」
「ラリー、なるべく多く状態異常をかけてくれよ? 盾役を兼任している俺の負担が大きいからな」
「分かった」
ザックが盾を構えてメタルリザードの前に現れて挑発する。挑発されたメタルリザードは怒ったザックに攻撃をする。ザックは大ダメージを受けないように時には回避し、避けられない攻撃は盾で攻撃を弾く。魔獣に対しての戦闘経験はザックの方が豊富だからこそ、ザックはメタルリザードの攻撃を先読みして回避と防御を混ぜて敵を引き付ける。
「作戦通り……」
ザックに気を取られてラリーの存在を忘れてしまい、ラリーが繰り出す短剣による攻撃を鱗に覆われていない腹部に受けてしまった。
ラリーの攻撃は弱いためメタルリザードのダメージは少ないが動きを鈍らせる麻痺を受けてしまった。
「グガッ……」
麻痺状態になったメタルリザードの動きは明らかに鈍っている。それを好機と捉えたザックは盾で殴ってメタルリザードを仰向けにさせる。
「リーナ、火属性魔法を!」
「分かったわ。ファイア―――」
「メタちゃんを殺しちゃダメぇぇぇぇ!」
リーナを行動を遮るように一人の少女が仰向けになったメタルリザードの前に立った。
パーティーのリーダーは勇者。いえ、暗殺者です 茶好き @siro4628
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