第2話
ラリーが勇者のパーティーを追放された翌日、重戦士のザックと魔法使いのリーナがパーティーを抜けたと言った。
「ど、どうして二人が抜けたんだよ? 俺より役に立つだろう?」
「私はあんな奴の仲間になった覚えはないわ。村長が勇者のパーティーの仲間になれって言われたから入っただけよ」
昨日の事でまだ尾を引いているのかリーナは不機嫌なままだ。普段からアレスとリーナは仲が悪い。自分より下の者を常に見下すアレスと違い、リーナは天才だけどどんなに才能がなくても諦めずに努力する者に敬意を示す。だからこそ相容れないのだ。
それに加えて魔法使いであるリーナは接近戦に持ち込まれると弱いためラリーから奇襲の対処方法を教わっているためラリーといることが多い。
「お前が一足先に宿に戻った後、アレスとリーナが言い争いになったんだ」
傲慢なアレスとそれに歯向かうリーナの喧嘩はパーティーの間では日常的に行われ、それを諌めるのは大体、ラリーかザックだ。
「流石に今回の一件はアレスが悪い」
ザックは不快な気持ちを押し殺して昨日の出来事を思い出す。
ラリーがいなくなった食事の席では不穏な空気になっていた。左には役立たずがいなくなって清々した様子で料理を食べてるアレスがいてその横にご機嫌なサーシャ、怒りむき出しのリーナに顔には出さないがこちらも怒り心頭のザック。
沈黙を破るようにザックがアレスに話しかけてきた。
「アレス……ラリーを追いだしたのは本当に正しいと思っているのか?」
「当り前じゃないか。だってあいつ弱いじゃん」
その言葉を聞いてザックはアレスに落胆し見切りをつけた。
確かにラリーは攻撃力に乏しい。だが、麻痺や毒によってこちらに優位に立てる状況を作ってくれた。
それに戦闘だけが全てではないとザックはそう思っている。物資の調達や金銭の工面、料理等の戦闘以外の仕事は全てラリーが一人で行っていた。ラリーと同じ仕事を自分達にできるかと言われれば無理だ。自分は強面で相手を萎縮させてしまうし雑な料理しか作れない。リーナも同様でアレスとサーシャに至っては論外だ。
「そうか。……なら、俺も抜ける。今まで世話になったな」
そう言ってザックは自分の荷物を持って立ち上がった。国王から勇者の手助けをするようにと命じられたがこの男と共に戦うのは嫌だ。
「ま、待て! 何故お前まで抜けるんだ⁉」
「何故だと?分からないのか? 原因はお前にある。これ以上はお前の横暴に付き合いきれるか」
ザックはアレスが元々横暴なのは知っていた。パーティー結成当初は不満があっても我慢していたが名を馳せるにつれてそのブレーキが緩くなり、しまいには壊れてしまった。今のアレスに何を言っても糠に釘だ。
そしてあるザックの中にある疑問が生まれた。この状態で魔王討伐までパーティーが機能するのかと言う疑問が脳裏に浮かんだ。そしてその答えは否だ。戦場で一番怖いのは強大な敵ではなく慢心だとザックは思っている。慢心すると想定外の攻撃を受けて壊滅する。ザックはこのパーティーの中で一番年上でパーティーに入るまでは冒険者として戦っていたため経験もある。故にこの状態ではいずれ破綻し全滅してしまうと勘がそう告げている。
アレス一人が勝手に自滅するならそれでいい。しかし、それの巻き添えになるのは御免こうむる。だから、この段階で抜けようと踏み切った。
「横暴な奴と一緒だと命がいくらあっても足りん。魔王討伐はお前とサーシャだけですればいい」
「ザック、私も抜けるわ。こいつと一緒にいたら死ぬ未来しかないわ。アレス、今までありがとう! さようなら!」
リーナもさっさと荷物を纏めて出て行った。元々アレスの事が大嫌いなリーナは遅かれ早かれこのパーティーを抜けていただろう。ザックも自身も抜けるのでリーナの意見に異を唱える事はしない。
これ以上のメンバーの脱退は拙いと判断したアレスはリーナを捕まえようとするがザックの拳が顔面を捉え、そのまま意識を失った。
「アレス様になんてことを……この罰当たりが!」
神の使者として崇めているアレスを殴ったザックを親の仇のように睨み付けるがザックは全く動じない。
「好きに言っていろ。俺はお前と違ってデマキナ神を信じちゃいない」
己の力だけで生きなければならない場所にいたザックは神と言う存在を信じてはいない。もし、本当にいるのならアレスのような人物を勇者にしないだろうと思っている。
「そう言う訳だ。俺とリーナはこのパーティーを抜ける」
冷ややかな目で気絶したアレスと憎しみが籠った視線を向けるサーシャを一瞥した後、二人は席を立った。
「それはまた……」
大事になったとラリーは思う。
自分が追放されてもパーティーは機能し、魔王を倒すことができると踏んでいたラリーであったがまさかパーティーの壊滅に繋がってしまうとは思いもしなかった。
「ラリー、お前が気負う必要はない。これはあいつが選んだ結果だ」
ザックはアレスが自分の態度を改めることができたのなら話は変わってくるだろうと思ったがそれはないと否定する。それができればラリーを追放するなんて言い出したりしない。
「はぁ、もう起きちゃったから仕方がないか」
「相変わらず、切り返しが早いわね」
「そうでもしないと俺みたいなひ弱な人間は生きていけないからね。ザックは元から冒険者だから問題ないとしてリーナは登録している?」
「もちろんよ。貴方に言われた後すぐにね」
リーナは自分の首にぶら下げてある銀製のタグを見せる。
このタグは冒険者としての証であり、身分証明書だ。冒険者にはランクがあり、Fランクは鉄製のタグ。E、Dランクは銅製のタグ、C、Bは銀製のタグ、A、Sランクは謹製のタグと振分けられている。現在のランクはラリーとリーナはBランクでザックはAランクだ。
「とりあえず、三人で受けられる依頼を探そう。今なら多少危険でも高額の依頼を受けることができるはずだ」
「賛成だな。むしろ、多少の危険は望むところだ」
「私もそれで構わないわ」
方向性がある程度決まったところで三人はギルドの中へ入っていく。
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