パーティーのリーダーは勇者。いえ、暗殺者です
茶好き
追放暗殺者の冒険事情
第1話
「ラリー、お前のような役立たずは俺のパーティーにはいらない。今日でお前はクビだ」
勇者であるアレスは嘲る表情を隠そうともせずに同じパーティーの仲間である暗殺者のラリーに追放を命じた。言い渡されたラリーは目を白黒させていた。
「ちょっと、アレス!どうして⁉」
「リーナの言う通りだ。幾らなんでも勝手が過ぎる。ラリーのおかげで助かっている部分があるのだぞ」
アレスの意見に魔法使いのリーナは噛みつき、
「うるせぇな。こいつがやっているのは偵察に交渉、背後からチクチクと攻撃して毒やら麻痺を付与しているだけじゃないか。これ以上俺らのパーティーに置いておくメリットがない」
「アンタね……」
リーナはアレスの物言いに我慢ならないのか拳を強く握りてアレスを殴る気でいる。そんな彼女に待ったをかけたのは女僧侶のサーシャだ。
「ラリーさんも十分働きました。ですがアレス様の言う通り、このままパーティーに残っていても惨めな思いをするだけですわ」
傍から見れば聖女のような慈悲深い笑みだろうが違う。サーシャも内心ではラリーを取るに足らない存在だと見ている。
ピジョドル王国にあるタウベン教会では『勇者はデマキナ神が選んだ使者である』という教義がある。それ故にサーシャはアレスをデマキナ神の使者として崇め、彼の言う事が絶対であると疑っていないのだ。
「ラリー、貴方から何か言ってよ……」
「分かったよ……俺はパーティーを抜ける」
「ラリー⁉」
まさかラリーがアレスの意見を飲むとは思わなかったのかリーナは驚嘆し、ザックも目を丸くしている。
「薄々気付いていたんだ。アレスのような魔獣を一撃で倒せる攻撃力もないしザックみたいに頑丈じゃない。ここらで潮時なんだよ」
反論したいがアレスの言っている事は正しい。自分の能力ではこのままパーティーにいても足を引っ張るだけだ。ならば、パーティーの迷惑にならないためにアレスの要求を呑むことにする。
「フン、最初からそうしていろ」
そうしてラリーは勇者パーティーから追放された。
翌朝。
借りてきた宿を出て大通りを歩きながらこれからの事を考えていた。少ないながらもこれまで貯めてきた金と愛用のダガーをアレスから奪われずにすんだのは幸いである。しかし、金はあっても無限ではないのでどこかで稼がなくてはならない。
「これからどうするかな。お金はあるけど心もとないし一応、ギルドで冒険者の登録はしているけどソロで受けられる依頼はあるかな」
ラリーは冒険者専用のギルドで冒険者の登録をしているため職がないわけではない。冒険者になる事は勇者のパーティーにとって不要な事なのだがラリーは冒険者ギルドに入ったのだ。その旅の路銀を稼ぐためと魔王に関する情報を得るためだ。冒険者ギルドは各地に点在しているので情報が集まりやすいのだ。
さっそく依頼がないかギルドに向かうとギルドの前に黒い帽子とローブを身に着けた少女と獅子の鬣を彷彿させる無造作の赤髪に顔の傷のある青年が目の前に立っていた。
「やっほー、ラリー」
「昨夜ぶりだな」
「リーナにザック⁉ どうしてここに?」
ラリーは自分を庇ってくれたリーナとザックに会わないためにまだアレス達が目覚めていない時間に宿を出た。それのに何故二人が目の前にいるのか理解できなかった。
「どうしてって私もザックもパーティーを抜けたのよ」
「そういうことだ。俺もアレスの御守はもうたくさんだからな。丁度いい機会だから抜けさせて貰った」
「えぇぇぇぇ⁉」
自分一人の追放によって勇者パーティーは魔法のエキスパートと守備の要を失ってしまったようだ。
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