この身に余るスパダリへの転生も辞さない。不遇の推しキャラが救えるのなら

死亡時の行いとその動機が神様にウケて、主人公が愛読していたライトノベル世界(未完結)にチート付きで転生を許されたことから物語は始まります。

主人公の転生世界での目的は初めからはっきりしており、途中で自ら退場した不人気推しヒロインに、勇者に出会う前に干渉し、彼女を口説いて結婚すること。

目的が制限時間付きで明確になっていることで、物語全体が締まってきます。また、目的がただの求婚なので、失敗したところで悲劇は推しヒロインと主人公の人生だけに留まります。この目標設定が微笑ましいポジティブな焦りを生みだしていて、安心して読めるところがオススメ点です。

主人公のチートは転生時に神様に頼んだものではあるのですが、曖昧な発注をしたことからその一つに頭を悩ませることになります。
その名も、「世界一の美少年」という、傾国レベルの常時発動スキルです。身体の成長に従って強化される、素顔のままでは社会に混乱をもたらすスキルです。

また、当然の如く他の固有チートと幼少期からの鍛錬により、戦闘能力は世の冒険者の平均からかっ飛んだ腕前にまで仕上がっています。
さらに主人公の生まれは冒険者ギルドのマスター長男ですが、血筋は上級貴族である侯爵家の近親ということから、血統、人脈面でも隙がありません。まさにスパダリ完備。

それでも現状、主人公ひとりの力だけでは、街崩壊程度の脅威度を持つA級モンスターを倒すには不足する状態ですし、これから登場するであろう原作勇者のチート度にも及びません。
冒険者ギルドで気分に任せて横紙破りをできるほどの実力でもなく、原作の進行と共に起きるかもしれない動乱で安穏としていられる実力でもないことが、戦力のインフレをいいバランスで抑止しています。

原作世界への転生作品にありがちな世界設定の画一化や薄さは見られませんし、原作設定がリアルに適用される理由についても掘り下げているため、後々の展開やスケール感に行き詰まりを感じてしまうことはありませんでした。これは非常に嬉しいです。

物語が序盤を越えたところでこの感想を書いていますが、主人公の抱え込むものが一気に増加し、そして新しい世界に向かっていく展開にハラハラしながら期待をしています。

欲を言えば、世界一の美少年というスキルがもたらす混乱とその対策に腐心する姿ももっと見ていきたいです。無理のないスケールで。