男の娘

初瀬四季

第1話

 その男の娘はとてもかわいかった。

 長い髪をたなびかせて佇む姿は、一枚の絵画を彷彿とさせた。

 隣に立つ男はどうやら、その子の肉親のようであった。


「こんにちわ。今日はどうなされましたか?」


「あの、言いづらいことなのですが。この子がその・・・・・・」


 その男はどうやら、言葉に詰まっているようであった。


「その子が?」


「自分の性別をですね。男だと言うんです」


 この男は、一体なにを言っているのだろう。

 ジッと目の前の子供を見つめる。

 退屈しているのか、しきりに長い髪を弄っている。


「えっと、確認しますけど、その子は女の子なんですよね?」


「見ればわかるでしょう?」


 と、男は何を馬鹿な事をとでもいうような表情で、こちらを見る。

 苦笑しながら、再び子供の方に目を向けると、何かを訴えかけるような目でこちらを見ていた。


「あの、一度この子と二人で話をさせてもらってもよろしいですか?」


 男はその子を一瞥すると、渋々といった表情をしながらも了承をしてくれた。

 男が部屋を出ていくと、その子は短く息をついた。


「本当に嫌になる」


 その子は、ポツリポツリと話し出した。

 男への不満を吐き出すように。


「いつも、あんな風なんです」


「あれしろ、これしろっていっつも命令ばっかりで、こんな服なんて本当は着たくないのに。髪だって邪魔だし」


「日頃の鬱憤を晴らすためにちょっとからかってやったんです。そしたら、こんなところに連れて来られて」


 本当に嫌になる。とその子は繰り返した。

 その後、他愛ない話をして、男を部屋に呼び入れる。


「その子は、いたって正常ですよ」


 そう告げると、男は納得いったのか、いかないのかどうにも曖昧な表情で、


「そうですか。ありがとうございました」


 とだけいうと、その子を連れだって部屋を出ていく。

 帰り際、その子にちょっとした疑問をぶつけてみる。


「ところで、君はどっちなんだい?」


 それを聞いたその子は、


「どっちだと思う?」


 といたずらっぽく笑うのだった。

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男の娘 初瀬四季 @hatusesiki

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