第4話

「なんと、『たいむましん』……とは?」



 依頼人の頭に、はてなマークが浮かんだように見える。



「たいむましんとは、未来の発明品を、現代に持ち込める魔導書のことです」


 アシャーは依頼人に解説してあげた。


 


 


 依頼人の父親は、この『たいむましん』を使って、「未来から品物を取り寄せて」事業を大きくしたのである。



 未来でヒットしそうな商品を取り出して、自分で使い方を解析して、商品として売っていたのだ。



「たぶん、お父様はそれによって、富を得たんだろうと思います。発明家だったそうですからね」


 


 


 アシャーの想像は、九割方当たっているだろう。



 


 アシャーの想像は、九割方当たっているだろう。




 夫婦には、商売の知識自体はある。


 が、「商品」の知識がなければ、この品々は宝の持ち腐れだ。



 



「第一級危険物なの。未来が見えるから、悪用される魔導書トップ三に入るの」



「どれくらい、危険なんですか?」



 


「持っているだけで処刑されるの」


 残酷な言葉を、ピックは依頼人に告げた。




 実際、かつて『たいむましん』を手放そうとしなかった依頼人は、悲しい末路を辿っている。


 アシャーも、嫌なことを思い出してしまった。


 


 よって、事業家は商品を地下に隠し、封印したのだろう。


 やがて、依頼者の死によって、永遠に『たいむましん』は起動しなくなった。




「じゃあ、魔導書は」


「没収なの。持っていたら一族郎党みなごろしなの」




 依頼人たちは「ひい」と悲鳴を上げて、うなだれる。



「せっかく巨万の富を得て、子どもたちに楽をさせようとしたのですが。我々の夢は断たれたのですね。これからは細々と生きていきます」




 見ていて気の毒になるほど、依頼人夫婦は落ち込む。




 対照的に、子どもたちは「馬を伴わない車」の模型に夢中だ。



「パパ、ボク、大人になったらこれを商品化するよ!」


「わたしは、弟が作った車を売るの!」



 過去にとらわれていた夫妻に対し、子どもたちは未来を見ている。



「アシャー様、我々はどうすれば?」


 依頼人に対し、アシャーは笑顔で答えた。



「持っていたらいいでしょう。国は『魔導書を持っていたら処刑する』のであって、『それで得た恩恵』をどう扱うかは、あなた方次第でしょう」



 依頼者は、深々とシャーに頭を下げる。


 



「アシャーは甘いの」


 あきれ顔で、ピックはアシャーの肩に乗った。


「いいじゃないか。さて、次の依頼先に行きますか」



 次の魔導書も、絶対に読んでみせる。


 と、アシャーは意気込んだ。

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開かずの魔導書 VS 鍵開け魔道士 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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