第3話

 アシャーが地下室で目にしたのは、見たこともない調度品の数々である。



 字が書ける、カトラリーサイズの杖や、数字の書かれたスイッチが沢山付いた板などだ。手鏡ほど小さい。


 


 円形に数字の書かれた箱は、指を入れる穴の付いた板が張り付けられている。



 ダイヤルの付いた箱は、金庫にしてはカンタンに開き、軽い。ダイヤルはひねると自動で回り、止まると「チーン」と音が鳴るだけだった。



「父は美術品の他に、どこで拾ってきたのか分からないガラクタばかりを集めてくるクセがありまして。本人に問いただしても、『きっと役に立つから』と言うばかりで」




 依頼人は眉間に皺を寄せる。



「ねえアシャー、これって」



 ピックの一言に、アシャーはうなずく。



 どうして先に、ここへ連れてきてくれなかったのか。


 すぐに分かることじゃないか。



 


 


「分かりました」




 ヒントを得たアシャーの行動は早い。



 道具の入った袋から、手袋を取り出す。


手袋をはめた両手を、激しく擦る。



「古代の秘伝よ、目覚めよ。オープン!」




 あっさりと、魔導書は目を覚ました。



 板に、並んだ数字が浮かび上がる。


 


「おお、開いたぞ!」


 依頼人が興奮した。



「まだです。まだ入り口です。お爺さまの生年月日は?」


 


「アルタ歴・一四二九年です」


 


「一、四、二、九。と」



 アシャーは、画面に浮かぶ数字の羅列を、慎重にタッチする。



「これで、開くはずです!」



 今度こそ、魔導書が開いた。



「やっった。これで大金持ちだ!」


 依頼人夫妻が、諸手を挙げて喜んだ。



「いいえ、これはもう、使いこなせません。使用者が亡くなっているからです」



「わたくしたちでは、使えないと?」



「原理が分からないでしょ?」



 アシャーが問いかけると、依頼人は「確かに」とうなずいた。


 


「はい。コレは、『たいむましん』という魔導書です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る