第2話

 遙か昔、魔導書は禁忌となった。



「人が神様に近づかないように」と天使が細工した説、魔王が「自分の脅威を排除した」説、時の権力者が「人に知恵を持たせないように文化を封じた」など、様々な説がある。



「その『開くことさえできなくなった』魔導書を開いて、読めるようにするのが、『鍵本屋』なの。アシャーのお仕事なの」



 妖精のピックが、退屈している子どもたちの相手をする。


 ミルクの上に浮かぶ、クッキーの島に腰かけながら。クッキーは、話を聞かせてくれたお礼にと、子どもたちがくれたものだ。祖父の発明品らしい。


 


「へー、アシャーお兄ちゃんは凄いんだね!」


「じゃあ、あなたは?」


 


「ウチはアシスタント兼・賑やかしのピックなの。よろしくなの」


 ピックはストローで、ミルクをちゅうちゅうと吸う。



「よく言うよ。子守しかできないくせに」


「子守も立派な仕事なの。でないとアシャーが『あそんで攻撃』を子どもたちから喰らうハメになるの」


「はいはい」


 


 



 ピックと出会ったのは、アシャー最初の仕事だった。



「本に閉じ込められた妖精を救ってくれ」と。



「魔導書の解読は、あっという間に済んだの」


  


 だが、現れたのは目当ての妖精ではなく、ピックだった。


 依頼者と、契約していた妖精との間に生まれたのである。



 ピックは元の妖精から力をもらって、産まれてきた。


 しかし、元の妖精は自分たちの世界へ帰ってしまった後。


 


「妖精とか言って、実際はサキュバス召還の書だったんだよね」


 魔導書の解読をしながら、小声でアシャーは言う。


「子どもの前では刺激的すぎるの」


 ピックも、耳元で言い返す。



 事情を聞いた依頼者は喜んだ。


 けれど、依頼者は高齢で、「育てられない」と言い残し、アシャーに託した。


 数日後、依頼者は息を引き取る。



 身寄りのなくなったピックを、アシャーが面倒を見ることに。



「当時一〇歳だったの」



「すっごい! お兄ちゃんなら、この魔導書も開けられるよね?」


 少年の方の食いつきがすごい。



「いやあ、どうだろうなぁ」


 アシャーも、さすがに苦戦している。



 ノーヒントで開けられるほど、魔導書は甘くない。



 コンコンとノックしてみたり、間近で覗き込んでみたりする。


 しかし、何の特徴もない。



「何か、コレに関連する品物か、文献があればいいんだけど」



「だとしたら、あそこに行ってみますか?」




 依頼者が、地下室へ案内してくれた。



 


「今からどこへ連れて行ってくれるんですか?」


 


「父の宝物庫です」


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