第18話 警鐘を告げる
グレンは昔からエリイシャを馬鹿にしてきた。
顔の表情がないことをあげ連ねて、何度も可愛くないだの女らしさのかけらもないだのと言葉を重ねる。幼い時はその顔が人形のようで怖いと泣き、長じてからは恐ろしさが増すだのと身を震わせた。
だが、彼はものすごく能天気で、エリイシャが従兄弟を愛しているのだという点だけは信じて疑わなかった。心底、容姿に自信のある彼はいっそ盲目的にエリイシャの愛を信じて疑わない。
どれだけ暴言を吐かれても傍にいた自分も悪いのだろうが、彼の自惚れも相当なものだ。心がひどく鈍感になっていたエリイシャ自身にも責任はあるかもしれないが。
表情の作れないエリイシャは誰といても相手を不快にさせてきた。友人と呼べる相手は少なく、理解を示してくれる者もほとんどいない。そんな中でグレンは言葉にして伝えてくれるだけ、居心地がいいと感じてしまった。悪意であれ、悪口であれ、面と向かって言われれば、さすがに鈍い自分でも理解できるのだから。
それだけ自分の周囲の状況は悲惨だったと言わざるを得ないのだが。
それにエリイシャもただ言われっぱなしで終わるほどお淑やかでも心根が優しくもない。きっちりと対処はさせてもらっていた。
おかげで何度もグレンには鉄槌を振りかざしてきたものだ。
「き、君の愛情表現が苛烈だってことは今、思い出した!」
「愛情表現ですって?!」
「照れ隠しでもいいね。僕はもう少し大人しいほうが好みだけれど…」
「相変わらずのおめでたい頭ね!」
「もう少しお淑やかにしないと嫁の貰い手がないと言っただろうに」
「あなたに心配していただかなくとも、嫁げましたけれど?!」
「それで不幸な結婚生活を強いられた従姉妹を助けたいとこうしてやってきたんだろう。ほら、僕って優しいでしょ。博愛精神に富んでいるからさ」
「あなたのは愛をはき違えているのよ、あちこちで嘯いて、またトラブルを起こしてるのでしょう? いい加減に自覚しなさい」
より強めに腕をねじり上げれば、グレンはさらなる悲鳴をあげた。
「本当に痛い! 折れたら世の中の損失になるぞ。僕は誰からも愛されているんだからな」
「だまらっしゃい! その腐った性根を叩きなおして差し上げるわ」
膝裏の筋肉を軽く蹴り上げて、崩れたところをグレンの首めがけて手刀を落とす。
あっさりとグレンは撃沈した。ガデル直伝の人体の急所をついた女性でも簡単にできる退治法だ。
愛人にならないかと嘯く輩も同様に沈めてきた技でもある。
男二人がぽかんと見つめてくる。
ほほほ、とエリイシャは笑った。もちろん表情筋は今日も仕事をしない。
鉄面皮が声だけ笑うさまは、まさに異様だろう。
「失礼いたしました。不肖の従兄弟がそちらでご迷惑をおかけしたとのこと。詳しくお聞かせいただけます?」
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