第13話 夢の中では

「せっかく活力がみなぎる効果のある植物を教えてあげたのに、なんで落ち込んでるのさ」

「だって筋肉の輝きが戻らないんだもの…アイガンさまほどの立派な筋肉じゃあ普通の量では足りないのではないかしら? あんな可愛らしい一輪なのだもの」

「え、まだ盛る気なの?! 流石にそれ以上は問題だと思うよ…」


エリイシャはガデルの診療所に来て、昼休憩用のお弁当を食べながら深々とため息を吐く。最近はガデルに相談したいため、診療所に早めにきて休憩がてら昼御飯を食べているのだ。

伯爵家の料理人はどんな無茶にも対応してくれる柔軟さがありがたい。


「キミの旦那さんがいくら頑丈だって限度はあるんだから、とにかく様子を見たほうがいい。ところで、最近キミの従兄弟から連絡はあった?」

「突然、どうしたの?」


ガデルはエリイシャを馬鹿にしているグレンのことを心底嫌っている。嬉しい友情だが、彼の口から従兄弟の名前が出るなど嫌な予感しかしない。


「社交界でよくない噂を聞いた。隣国の由緒あるご令嬢を誑かして、何かトラブルを起こしたようだよ。助けを求められても話を聞いてはいけない」

「嫁入りしたのだから、そう関わることもないけど。何をやっているの」

「アイツはいつか女に刺されると思っていたよ。その時期が早まっただけだ」


大方二股だか三股だかかけて方々の令嬢を怒らせているのだろう。呆れて物も言えない。


「先生、次の患者さんを入れてもいいですか? 屋根から落ちて足を折ったようです」

「ああ、大丈夫だよ」


控え目なノックとナルの少し慌てたような声が重なる。

どうやら急患らしい。


「休憩はここまでのようだね。やって来た患者を見てもらってもいいかな」


筋肉に興味のあるエリイシャは外傷には強い。包帯などを巻くのも上手だ。怪我ならば十分にガデルの補助ができる。

そもそも無表情がデフォルトのエリイシャが淡々と処置するさまは、患者に安心感を与えるらしい。顔色が変わらないほど大きな怪我ではないのだと、勘違いするためだ。

なので、評判は上々で一部にはファンが付くほどでもあるが、エリイシャ自身はそれを知らない。無表情で怖がられているところはたくさん目にしてきたからだ。


「もちろんよ」


手早く弁当を片付けてエリイシャはガデルに大きく頷いて見せた。


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