第12話 心からの愛を
朝に花を摘みに行ってから、エリイシャは毎日せっせと同じことを繰り返している。
今では山歩きにも慣れて、アイガンの鍛錬が終わる前に寝室のベッドにもぐりこむことができている。筋肉痛もなくなって、むしろ体力がついたのではないかと思うほどだ。
ただし、疲労がたまっているのか体調がすぐれないことと寝不足なのか日中もいつまでも眠たい。
アイガンとはいつも通りの日常を過ごせているが、やはり彼の筋肉は輝きを失ったままだ。
責任感の強いアイガンは夜をどれだけ拒んでも押しきってくるのでエリイシャもそちらは諦めた。跡継ぎを優先させたいと彼が考えているのなら、それ以外に心労を少しでも減らそうと足掻く日々だ。
筋肉の質量は変わらないのが唯一の救いではある。
物置部屋の正面にアイガンの少年時代に使っていた剣を飾りながら、エリイシャはふうっとため息を吐いた。
部屋の片づけもだいぶ進んだ。年表か?と思われるような目録づくりも進んでいる。
だが、心は晴れない。
夜毎行為に及んでもエリイシャは孕む気配がない。結婚して二ヶ月ほどで急ぐこともないだろうが、早く子供を生んでアイガンを気鬱から解放してあげたい。
跡継ぎさえできれば、その後に彼が自分を抱かなくても義父も文句は言わないだろう。
物置部屋の整理をしていてバナード伯爵家が、どれほど古くから続き権威のある家なのかがよくわかった。
そもそもの祖は隣国の侯爵家の縁者でこの国で武功を立てたことが始まりだ。
古い手紙から、何かあれば隣国の侯爵家にも力を貸すとの盟約も結んでおり、この国に仕えながら力を蓄えているようだった。
確かに義父が跡継ぎを、と切望するのもよくわかる。その割にアイガンは想い人一筋で、異性と浮いた話一つもない。成人はとっくに過ぎ、むしろ結婚適齢期もとっくに終わっている。このまま家が途切れるかもしれないと義父が焦るのもよくわかる。
なぜ自分だったのかは未だ謎で推測するしかないが、結婚を申し込む気にはなるほどには気に入ってくれた。だからこそ家格が劣る娘でも義父は快く受け入れてくれたのだろう。
その想いには応えたいが、体はやはり孕む気配はない。ガデルには妊娠は気付き易い人とそうでない人がいるとのことだ。それなりに兆候がでるには個人差があるらしい。どちらにしても時間が必要ということだ。
エリイシャはぺたんこの腹を撫でながら、深々とため息をつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます