第一話 原田家

 原田家は士族である。

 したがってゆうはそれなりのところに嫁がせなければならない。

 と、原田家当主の長子で夕の父親の大至だいしは考えていた。たとえ夕が自身の妾の子であってもだ。

 夕の母は夕を生んで間も無く死んだので、夕は幼い時から本家で、なんというかいじめられながら生きていた。本妻の鶴子にしてみれば業腹だったろう。

 だが兄の……鶴子の長男、和成はこの妹をひどく哀れに思い可愛がった。7つ離れた兄はよく夕が泣いているのを優しく叱り武家の女とはというようなことを彼なりに教えている。大至はそういったことには頓着せず、ただ良い家に嫁にやれば自分の責任は終わりと考えていた。

 そういうふうで済んだ。

 夕は女学校に三年ほど通い(これは和成が父に頭を下げて叶った)そこそこ読み書きも覚えている。年は二十歳と若干行き遅れたかもしれないが(そういうふうだ)そこそこに美しい。

 で、原田大至は最近芳しくない家計のために輸出入の事業に手を出していた。

 これが意外なことに(彼は南蛮の国が嫌いだった)儲かった。外国人と商談をすることも多くなり、ある日髪が赤いとびきりに良い商談相手にこんなことを言われる。

「女を手配してもらいたいのです」

「女」

 吉原とかそう言う話かと思えばどうやら違って

「友人に真面目な堅物がいまして」

 赤髪は笑う。

「そいつに、身の回りの世話とかまあそういう……色々とね、若い女性を世話してやりたいんです。

 真面目な子がいい、あいつが真面目くさってるから」

「はあ」

 通訳を介して付けられた注文に、大至は夕を思い出した。

 良い家に、と思っていたがなかなか自分の妾の子は売れて行かなかった。ならば家のために何か為すべきではないか。と思った。

「ではわたしの娘を」

 赤髪はいいんですかーと軽い心配だけして概ね喜んだ。

「行き場のない娘です、貰ってやっていただきたい」

 と適当なことを言った。

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彼の国に雪は降りて きゅうご @Qgo

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