第25話 名前は?

 校門の前に居るのは....あの子だ。まさかとは思うが、僕を待っているのだろうか。夢の事は千明の記憶だったのかわからないが、確認する術がない。名前くらいは聞いておけば良かった?いや、聞けるわけないよなぁ。一応こちらから挨拶はしておこう。

「おはよう」

「千明君。おはよう」

 どうしよう.....。何か言わないと

「誰か待ってるの?」

「うん。待ってたの」

「そうなんだ....」

 門を過ぎても付いてくる。ということは僕のことか。

 少し気まずいなぁ...と思っていた所に、

「おっはよー。あれ?沙弥ちゃん。千明君と一緒?」

 ナイス!花。名前がわかったぞ。しかし、名前で呼んでいいのかわからない。ま、名前がわかれば後で調べられる。

「う、うん」 

「一緒に来たの?珍しいね。あ、それより千明君。琴音ちゃんと出掛けたでしょ!なんで花も誘ってくれなかったの!」

「え?なんで知ってるの」

「日曜日に遊びに行ったら、言ってたよ」

「え、琴音ちゃんには質問したの」

「したよ。そしたら、なんでだろ千明君に聞いてって」

「えー」

「なんで、なんで」

 なんて答えたら良いのか.....。まぁ、仕方がない。

「えっとね、話があったとき、花ちゃんが気持ち良さそうに寝てたから、起こしたら悪いかなぁと思って。ごめんね。今度は起こすようにするね」

「そーなんだ。今度は起こしてね」

 大丈夫だったよ。

 その後も花のよくわからないトークが続いたおかげで、無事に教室に着いた。

「あ、私ここだから。じゃあ」

「じゃあねー、沙弥ちゃん」

「じゃあ」

 教室に着くと、琴音が珍しく静かに座っていた。

「おはよう!琴音ちゃん」

 花が琴音に飛び付いた。

「ああ、花。おはよ」

 花が琴音にまとわりついている。まるで子犬と飼い主のような光景だ。

「おはよう。琴音ちゃん」

「おはよう」

 やっぱり、変だ。淑やか?な感じがする。元気がないのか?

「具合いでも悪いの?」

「え?なんで」

「や、いつもと雰囲気が違うから」

「そうかなぁ、花と居るときはこんな感じだけど。元気ないの?」

「えー、普通だよぉ」

「なら良いんだけど」

 そうだ、沙弥について聞こう。と思ったけど、花がいるので後にしようかな。

 中休みと同時に、案の定。花はトイレにダッシュ。チャンスだ。

「琴音ちゃん。知っていたらで良いんだけど、隣のクラスの沙弥ちゃんって知ってる?」

「ちーちゃん..。もう、浮気ですか。私がいるのに」

「いやいや、浮気?ま、今は置いといて、花が帰ってくる前に聞きたいの。お願い」

「もう。沙弥ちゃんの何を聞きたいの」

「僕との関係性となんて呼んでたかをお願いします」

「なんだぁ、そういうことか。話しかけられたのね」

「うん」

「私は友達では無かったから、よくは知らないけど、ちーちゃんは名字で呼んでたかな」

 よかったぁ、沙弥ちゃんって呼ばなくて正解だった。

「名字は何と?」

「神野。で、何があったの」

「いや、なんて事は無いんだけど。ただ、話しかけても良いか聞かれただけ」

「ふぅーん、それだけ?」

「た、たぶん」

「はっきりしない言い方ですねー」

「いや、本当にそれだけだよ。ただ、単なる夢なのか変な夢をみたから、少し引っ掛かって」

「変な夢って?」

「あぁ...。変に思わないでくれる?」

「うん。大丈夫だよ」

「あのね、春休みに入る前だと思うんだけど、告白のような」

「それは願望?」

「だから、違うって。夢」

「そうだよねぇ。ちーちゃんはもう私に夢中だもんね」

 いつものようなおちゃらけた発言だが、やはり違和感を感じる。何か有ったのだろうか。

 タイミングよく花が帰ってきた。ナイス!花。

「どうしたのー。あ、どっか行く相談?花も行くー」

「ちがうよ。ちーちゃんが私に甘えてただけだよ」

「そうなのー。琴音ちゃん、お姉さんみたいだもんね。花も甘えるの。ナデナデしてー」

「はいはい」

 花は始業のチャイムが鳴っても、琴音にゴロゴロくっついていたので、先生に叱られた。

 放課後になると、琴音は用事が有ると言い教室を出ていったので、花と帰る事となった。下駄箱に着くと、神野さんがおそらく自分を待っていたのだろう、靴に履き替え立っていた。

「あ、千明君」

 今さらであるが、あらためて思った。自分は呼ぶときに名前と名字を使い分けているが、なぜに自分は皆から名前で呼ばれているのだろうか。今度聞いてみよう。

「こんにちは。神野さん」

「え.....」

「ん?どうしたの」

「んーん。なんでもない」

「沙弥ちゃんのこと、神野さんって呼んでるー。変なの」

「え?花ちゃん、なんで」

「だって、だって、前ね沙弥って名前で呼んでってなって、沙弥ちゃんって呼んでたのにね」

「あ、そー、だったっけ。ごめんね」

「んーん。いいよ、いいよ。呼びやすい方で」

 琴音はこの事を知らなかったのだろうか。

「じゃぁ、沙弥ちゃんで」

「うん」

 笑顔に戻った。仕方無くではなく、花がいてよかった。

「私も一緒に帰っても良いかな」

 花が速答で、

「いいよー。でも沙弥ちゃんあっちでしょ。あっ、どっか行くの、花も行くー」

 沙弥は気まずそうに、もじもじしだした。

「あ...そ、そうかぁ...方向が違うのかぁ.....」

 可哀想に。花が余計な事を言うから、身動きがとれなくなっている。さらに、偉そうに花が、

「うんうん。誰にでも勘違いはあるものだよ。花でさえ良くあるからね」

 花でさえって、言葉の使い方がおかしいのか、自信家なのかよくわからない言い方をするが、花なりにフォローしたのだろう。

「そうだね...。勘違いしたみたい....じゃぁ、帰るね」

「バイバーイ」

 花が元気に手をふった。


 

 

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当直明けに爆睡し、目覚めたら見知らぬ中学3年生になっていました。 亜熱 @anetu

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