第24話 一冊の本

 昨日頼まれた本を返しに千秋宅を訪ねた。

「いらっしゃい。どうぞ」

「いや、ここで良いよ。はい、これ」

「え?なんでせん君が」

「ん?琴音ちゃんに昨日頼まれて」

「昨日?土曜日に?」

「そうだけど....」

「ちょっとあがって」

「あ、はい」

 どうしたのだろうか。千秋が不機嫌そうにみえる。

 手を引かれ千秋の部屋へと入った。

「せん君。そこに座って下さい」

「はい....」

「ふぅ...。昨日、学校は?」

「休みでした...よ」

「では、どの様にして、この本がせん君の所に渡ったの」

 あ!そうだよ。そうだよ。まずいよ。ん?まずいのか?

 腕を組み、正座の千明の前に立ちはだかる千秋。

「あぁ.....」

「あぁ、じゃわかりません」

 どうする。正直に言うしか無いよなぁ....。でも、なんだか怖いし....小出しにしてみようかなぁ...。

「えーと、琴音ちゃんに、会いまして、頼まれました」

「んー。せん君。君の家はどこかな!目の前だよね!」

「そうですねぇ」

「じゃぁ、もう一度聞きます。ど▫こ▫で頼まれたのかな」

「....琴音ちゃんの家です」

「ふぅー。次の質問です。なぜ、琴音ちゃんの家に居たのですか」

「いやー....。なんて言ったら良いのかなぁ...」

「正直に、経緯を言えば良いだけです」

「秋ちゃん.....怒ってる...の、かなぁ....」

「怒って無いですよ!気のせいです。それより」

 もう、駄目だ.....。

 正直に、二人で遊びに行ったこと。遊びに行くことになった経緯。その後、食事を御馳走になったこと。を素直に話すと、

「ふーん。そうなんだ。じゃぁ、せん君は悪くないって言いたいのね」

「いや....悪いどうのこうのでは無くて...」

「じゃぁ、せん君が二人っきりで行きたかった。ってこと」

「えー。なんでそうなるの.....」

「だって、そうでしょ。そうなんでしょ。バカ!」

 千秋は涙を浮かべ、感情的になっている。が、振り上げたぬいぐるみをそのまま静止させて、腕をプルプルさせている。ぬいぐるみに対する愛情が引き留めているのだろう。これはこれで可愛い。なんて考えてる余裕はない。これは難しい。経験上、こうなると何を言っても余計に複雑化してしまう。

「秋ちゃん。落ち着いて。取り敢えずぬいぐるみを戻そうか」

 少し抵抗して見せてるつもりなのだろうか、振り上げたぬいぐるみを、ぎゅっと抱き締め顔を埋めている。

「僕...、帰った方がいいのかな?」

「ダメ!」

「え~。どうしたら良いかなぁ....」

「うるさい!黙ってて」

 しばらく静かに正座させられたままの状態で黙っていると、

「何かしゃべれ!」

「え~」

「いいから!」

「足が痺れたので崩しても宜しいでしょうか」

「なにそれ」

「いや、ごめん。本当に限界なの」

 抱き締めたぬいぐるみを少しずらし、千明の足を確認すると、

「えい!」

「んぁっ!だ、だめ....」

「えい!えい!」

 何度も千明の足を刺激する。悶える千明。それを見て少し機嫌が戻ったのか、時間がそうさせたのかは不明だが、少し気持ちの整理が出来たようだ。

「あはは、ぐすっ」

「いや、もう、やめて。お願いします」

「だーめ」

 千秋の気が晴れるなら、この苦痛を我慢しよう。

「あー......。そうだよね。うん」

「あのー、秋ちゃん」 

「今度は、私ともね」

「え、うん」

「うん。じゃないでしょ」

「はい」

「よろしい」

 もう、大丈夫....なのか?

 ひとまず無事?に帰宅出来た。

 自室に戻るが、やっぱり何か引っ掛かる。考えすぎだろうか?

まぁ、本人に直接聞かないとわからないが、聞きにくい。

 などとしていると、電話が掛かってきた。

「はい。どうしたの」

「昨日、渡した本なんだけど....」

「あぁ、さっき返してきたよ」

「そっか、ありがとうね.....大丈夫だった?」

「ん、あぁ、一応ね」

「ごめんね」

 やっぱり、琴音はわかっていて本を渡したのだろうか?しかし、

「そっかぁ、心配して電話を....。よく考えたら、仲間外れにしたー。って思っちゃうかもしれないもんね。僕も行った後に気付いたよ。まぁ、昨日は色々あったし、しょうがないよ」

「えっ、あ、うん....。ありがとう」

「それより、お父さん。何か言ってた?」

「ん。良い子そうだねって」

「良かった。何か失礼が有ったらとヒヤヒヤしたよ」

「あはは。心配し過ぎだよ」

「そうかなぁ」

「うん。ちーちゃんは大丈夫だよ。じゃぁ、また明日」

「また明日」

 琴音ちゃんも、はっと思い電話してきたんだよね?



 

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