第23話 琴音ちゃん(2)

 琴音の家も、千明宅に引けを取らない立派なものであった。

「琴音ちゃんって御嬢様だったんだね」

「そうなのかなぁ、でもちーちゃん家には全然及ばないけどね」

「そんな事は無いでしょ」

「ま、どうでも良いじゃん。それより、夕飯にしよ」

 ダイニングには、2mを越える天然木のテーブルがあり、椅子もかなり高級そうだ。テーブルに沿ってライトを設置するなど、凝ったつくりにいる。

「ちーちゃんは、私の隣ね」

 席に着き、料理が並ぶ。

「さあ、遠慮しないで食べて」

「あ、はい。いただきます」

 何か話した方がいいのか?それとも千明宅のように、静に食べる習慣なのか?いつもにぎやかなイメージの琴音だが、やけに大人しい。両親も静かに食している。

 空気を読もうと、不自然な態度になってしまったのか、琴音の父親が話しかけてきた。

「あー、千明君。娘から聞いたのだけれど、君の家では静かに食すと。我が家も同じだから、気にしないで食べなさい」

「あぁ、すみません」

 食事が終わると一斉に質問攻めにあうことになった。特に母親が目を輝かせながら、

「ねぇ、千明君って男の子で良いんだよね」

「えっ、あ、はい。男です」

「でも、綺麗な肌よねぇ。顔立ちもだけど。こんな息子なら欲しーわー。ね、パパ」

 父親は複雑そうな表情を浮かべていた。

「じゃぁ、ちーちゃんと結婚したら息子になるよ」

「そうね!良いわね。そうそう千明君。テスト全て最高点だったんだってね。琴音が自慢気に言ってたよ。将来は何に成りたいの」

 うわー。品定めされているのかぁ、昔を思い出すよ。

「え、いや。特にはまだ」

「でも、千明君なら、アイドルにも成れそうじゃない。ますます息子にしたいわー」

「琴音ちゃんは将来の希望ってあるの」

「琴音はパパと同じ医者よねー」

「えっ、そうなんですか」

「そうだ、千明君はどこの塾に通ってるの」

「いや、僕は塾には行ってません」

「そうなの、凄いわね。琴音は小学生の頃から行ってるわよ」

 琴音が少し不機嫌そうな表情になった。

「ママ。もう、いいから。ねぇ、ちーちゃん。私の部屋に行こ」

 父親は少し複雑そうな表情であるが、母親はにこやかに小さく手を振っていた。

 琴音の部屋は3階にあり、以外にも女の子していなかった。

「なんか、イメージと違う...」

「何々、私の部屋であんな事やこんな事をイメージしてたんだー」

「違うよ。もっとさ、カラフルな感じなのかなって思ってただけだよ」

「そうかー、妄想してたのかー」

「想像です」

「ま、私のこと考えてくれてただけでも嬉しいよ」

 嬉しそうにベットに座る琴音。手招きをしている。

「僕はここでいいです」

「恥ずかしがりやさんですねー。さんざん私の体の感触を楽しんでたくせに」

「人聞きの悪い。それよりも、そろそろ遅いし用事が無いなら帰るよ」

「ちーちゃん冷たいなぁ。ま、確かに時間も時間だしね」

 琴音が本を差し出した。

「これ、千秋ちゃんに返しておいてくれると嬉しいんだけど」

「え、うん。良いけど。それだけ?」

「なにか期待してたのかなー。やらしいなぁ。でも私はいつでもOKだよ」

「遠慮しておきます...」

 道がわからないだろう。と琴音の父が車で送ってくれると申し出た。車内では気まずい雰囲気とまではいかないが、静かであった。

「千明君」

「はい」

「ありがとうな。前みたいに元気になったのは、君のおかげかもしれない」

「え、どういうことですか」

「中学校にあがってから、自信を無くしてなのかしばらく落ち込んでいてな、学校では陽気に振る舞っていたようなんだが、家では自室にこもりっきりで会話もほとんどなかったんだよ。しかし、春休み明けくらいからか、急に前の琴音に戻っていってな、また勉強にも身が入るようになったのだよ」

「そうだったんですか...」

「お、着いたぞ。なー、おじさんとで悪いがアドレス交換してくれないか。琴音に何かあったら教えてほしい」

「はい。喜んで」

 いったい琴音に何が有ったのだろうか。まあ、元気になったのならば心配はないと思うが...。

 玄関に入ると、姉が駆け寄ってきた。

「何、あの凄い車」

「ああ、琴音ちゃんのお父さんに送ってもらったんだ」

「え、琴音ちゃん?お父さん?なんで?」

 面倒を避けるため、姉には黙って出たことを忘れていた。

「いやー、偶然だよ」

 嘘ではないしね。

「お母さん!ちーちゃんがまた隠し事するよー」

「っていうか、お母さんから何も聞いてないの?」

 あー、余計なことを言ってしまったか。

「あら、ちーちゃん。せっかく黙ってあげてたのに」

「なによー!私だけ仲間外れなのー」

「ほら、どうするの?ちーちゃん」

「わかりました。言いますから不貞腐れないで。ふー、琴音ちゃん家で夕飯を御馳走になった後、送ってもらいました」

「何で?琴音ちゃん?」

「え....。あー.....無理矢理?いや、騙された?」

「あれ、ちーちゃんもわからないの?じゃぁ、仕方ないね」

 何が仕方ないのかは不明だが、もう、大丈夫そうだし、遊びに行ったことが隠せたので良しとしよう。

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