第63話ナデシコ転生!【沖縄戦終結75周年特別編】(最終話)

「……そ、それじゃあ、僕自身も?」




「ええ、とても小学生の男の子が耐えきれるはずのない、蛮行の犠牲になられたのです。──ある不逞なる、黒人兵どもの手によって!」




 ──っ。


 ……つまりそれこそが、あの『フラッシュバック』の正体なのか⁉




「ごめんなさい! ごめんなさい! すべては私たちが、力足らぬばかりに、沖縄の皆様を見殺しにしてしまったせいでございます!」


「あなたは凶行を受けた後、米軍基地が沖縄に存在すること自体はもちろんのこと、それを沖縄だけに押しつけている本土に、基地闘争を利己的な政治活動や金儲けのために利用しようとする大人たちに、そして何よりも、何もできない弱い自分自身に、完全に絶望して現実から逃避してしまったところ、神や悪魔等の超常的存在が哀れんだのか、本当に異世界に転生することになったのです」


「──現実を無視して、チートスキルで無双できる、『なろう系』主人公そのままに」


「私たちは、せめてもの罪滅ぼしとして、軍艦擬人化少女としてのスキルを使って、あなたの後を追ってこの世界に転生して、同じパーティメンバーとして、あなたの勇者としての使命のお手伝いをしていたのです」


「……しかし、私たちにできることは、もはやありません」




「「「「──あなたの過去にけじめをつけることができるのは、あなたご自身だけなのでございます!」」」」




 そのように軍艦擬人化少女たち全員で唱和するや、まさにその瞬間僕の手の中に、一振りのつるぎが忽然と出現した。


「……これは」


「『破魔のつるぎ』です。これならば、どのような悪しきもの──例えば、あなた様ご自身の、『弱い心』ですらも、斬り捨てることができるのです」


「さあ、これであなた様ご自身の、忌まわしき過去の具現である、そこな黒人兵たちを成敗なさいませ!」


「それだけが、あなたが現代日本へと帰還するための、唯一の手段なのです!」


「なぜなら、ご自分の弱い心を断ち切らない限りは、再び基本的に現実の世界で、ご自分の意志で前向きに生きていくことなぞ、けしてできないのですから」




 そのように大和たちから、苦言と励ましとを同時に受けるとともに、手の中のつるぎを握り直して、すでに再生を果たしていた黒人兵たちのほうへと向き直った。


 自分を容易く屠ることができるらしい、『破魔のつるぎ』を目の当たりにしても、ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべ続けている、欲望に満ちた漆黒のかんばせ




 怖い──怖い──怖い──怖い──怖い──怖い──怖い──怖い──




 どうしても、『前世の記憶』とやらがフラッシュバックしてきて、僕の心臓はすくみ上がってしまう。




 ──しかし、怖じ気つくわけにはいかなかった。




 僕はこの世界に転生して以来、大和たちの大いなる助けアシストのもと、まがいなりにも勇者として、善良なる人々の暮らしを守るために、悪人やモンスターと闘い続けてきた。




 この無秩序な剣と魔法のファンタジーワールドにおいては、ただの人間であろうと闘わなければ、自分の身も、家族や仲間との日常も、守ることができないのだ。




 そうだ、何もしなければ、何も守ることはできず、奪われ虐げられるばかりの、繰り返しでしかないのだ。




 ──ほんの断片的な記憶フラッシュバックの中の、『沖縄』そのままに。




 ……ただし、『闘う』と言っても、安易な暴力行為に走ることなぞ、もっての外だ。




 大和たちはこれまで、いかなる戦闘時においても、勇者である僕を矢面に立たせたりはせず、頑なに闘うことを禁じてきた。




 ……今思えば彼女たちは、「暴力ばかりに頼っていては、結局何も生まないのだ」ということを、教えたかったのであろう。




 そもそも、彼女たち軍艦擬人化少女たち自身が、大日本帝国海軍という、『暴力の象徴』なのである。




 かつて大日本帝国においては、自ら国際連盟に提案したように、『すべての人種の平等の実現』を目指して、大東亜戦争を引き起こしてみたところ、結局戦争には負けてしまい、戦後においてアジア各国の独立を促すことには役立ったものの、日本国自体は『侵略国』の汚名を被ることとなってしまった。




 特に大和たちは、彼女たち自身が言っていたように、敵の大規模航空兵力と全力で闘いながらも、沖縄を救援するという使命を果たすこと自体は適わなかった。




 ──結局暴力は、何も生み出さないのだ。




 いやそれどころか、下手すると自らの国を滅ぼしかねない、『災厄の元凶』ともなりかねなかった。




 だったら、もしも僕が自分の過去にけじめをつけて、元の世界の沖縄への帰還を成し遂げて、米軍基地の撤廃や、更にはいっそのこと日本からの独立や、それにかこつけて侵略してくる大陸某国への防衛等々を、目指していくとしても、けして暴力に頼るべきでは無いのだ。




 ……というか、沖縄を物理的に独立させるためには、まずは沖縄の人間一人一人が、精神的に自立することこそが、必要であろう。




 沖縄は、現在の日本において──ひいては、世界において、間違いなく『被害者』だ。




 他の日本人だったら、一生被ることのない、被害や苦労や屈辱を、日常的に背負わされていた。




 ──だからといって、『被害者』は、断じて持ってはならない。




 なぜならこれは、沖縄が「精神的に強くなること」から、逃げている証しなのだから。




『米軍基地闘争』もいいだろう、場合によっては『琉球王国の独立』についても、権利がまったく無いとは言えないだろう。




 だけど、それらを行うのに、『被害者意識』を持ち続けるのは、間違いなのだ。




 それは、自分たちが『弱者』であることを認めて、他者に『償い』という名の『お恵み』を強要することに他ならず、そのような体たらくでは何よりも大切な、『精神的自立』なぞ到底不可能であろう。




 そんなことだから、単なる扇動家でしかない『プロ市民』や、虎視眈々と侵略の機会を窺っている狡猾なる海外の諸勢力から、つけ込まれてしまうのである。




 僕たちはまず何よりも、精神的に『真の沖縄人』として、強くならなければならない。




 少なくとも僕自身は、かつて自分の弱い心から逃げ出して、この異世界で勇者になることで、気がつくことができたのだ。




 だから、もはや『前世』についてすべて思い出した今となっては、ちゃんと自分の過去にけじめをつけて、現実世界に戻り、今度こそ沖縄において、自分の人生を闘っていこうと思うんだ。




 ……そのためにはまず、目の前の黒人兵と『闘わなければ』。




 ──おっと、誤解しないでね? これはあくまでも、『非暴力主義』論とは、けして矛盾していないんだから。




 それと言うのも、彼らは別に本物の、『沖縄駐留米軍の黒人兵』なんかでは無い。




 なんなら、この世界のオークが、集合的無意識を介して変化メタモルフォーゼしたものですら無いんだ。




 なぜなら彼らはあくまでも、僕自身の『弱い心の具現』でしかないんだから。




 だから、この手で倒せてこそ、僕は今度こそ本当に、自分の弱さをしっかりと認めて、現実に戻ることができるんだ!




「──うおわああああああああああああああああああああっ!!!」




 そして、ついに意を決した僕は、破魔のつるぎを振りかざして雄叫びを上げながら、黒人兵たちへと向かって駆け出したのであった。

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