第62話、ナデシコ転生!【沖縄戦終結75周年特別編】(Q転直下編)

 突然、脳裏に『フラッシュバック』する、様々な場面。




 ──夜の砂浜。


 ──泣き叫びながら走り続ける、記憶にない異国の衣裳をまとった、幼い自分。


 ──笑声や奇声を上げながら追いかけてくる、三名ほどの黒い大男たち。


 ──焦るあまり足がもつれて、ついに倒れ込んでしまう。


 ──すかさず、三方を取り囲む、男たち。


 ──そしておもむろに、自分のズボンジッパーを降ろし始めて、


 ──月明かりを浴びてそびえ立つ、漆黒の『凶器』。




 そして、僕の衣服までもが、荒々しく剥ぎ取られて──




「──提督! 提督!」


「──しっかりしてください!」


「──おのれ、ミッド国の、腐れオークどもめが!」


「──25ミリ対空機銃、掃射!」




 忌まわしきを、突如一刀両断にするように響き渡る、少女たちの怒号と、盛大なる爆音。




「「「ぐぎゃああああああああああああああああああっ!!!」」」




 僕のパーティメンバーの一人である、軍艦擬人化少女の浜風の、ワイバーンやグリフォンすらも一発で仕留める、対空機銃をモロに浴びて、爆散四散する黒い男たち。


「提督、あれは本物の、『駐留米軍の黒人兵』では、ございません!」


「小賢しきオークどもが、集合的無意識を介して、『あちらの世界』の黒人兵の形態情報データをダウンロードして、変化メタモルフォーゼしているだけです!」


「すべては勇者であるあなたを動揺させるための、策謀にてございます!」


「気をしっかりお持ちください!」


 何が何やらわけがわからず、大混乱に陥っている僕の許へと駆けつけてきて、口々に更に意味不明なことを言ってくる、パーティメンバーである軍艦擬人化少女たち。


 ……『オキナワ』? 『集合的無意識』? 『黒人兵』?


 それって一体、何のことなんだ?


 しかし、『洗脳』や『精神攻撃』がお家芸のミッド国の最高権力者は、こちらに態勢を立て直す暇など与えやしなかった。


「くくく、いくらご自慢の軍艦の兵装で攻撃しようとも、無駄だぞ? ──さあ、おまえたちも、がいい」




「「「──集合的無意識とアクセス、オキナワ駐留米軍兵の、形態情報データをダウンロード!」」」




「「「なっ⁉」」」


 プーチャン書記長に促されるようにして、今再び新たなる護衛のオーク兵が三名ほど、先ほどと同じような『呪文』をつぶやくや、




 大和たちが『オキナワの黒人兵』と呼ぶ、黒い怪人と化したのであった。




「「「──ヘイ、ボーイ、『鬼ゴッコ』をしようぜ!!!」」」




「うわああああああああああああああああッ⁉」




 妙にシンプルで機能的な軍服をまとった、漆黒の肌をした筋骨隆々たる巨体の、戦士体形の男たちが、こちらへといかにも親しげな表情で語りかけてきた途端、言い知れぬ恐怖心に苛まれて、思わず悲鳴が漏れ出てしまう。




 ……そして再び脳裏に走る、数々の『フラッシュバック』。




「──提督! 提督!」


「──しっかりしてください!」


「──おのれ、ミッド国の、腐れオークどもめが!」


「──25ミリ対空機銃、掃射!」


 浜風たちまでもが、先ほどとまったく同じことを繰り返して、黒い人間たちをバラバラの肉片にして吹き飛ばした。


 ──しかし、


「……だから、無駄だと言っておろうが? 我が護衛に選ばれし特別なるオーク兵たちは皆、不定形暗黒生物である『ショゴス』によって形成されておるのだ。よってある個体をおまえたちに潰されようが、また別の個体を集合的無意識にアクセスさせて、『あちらの世界』の『沖縄駐留米軍の黒人兵』の形態情報データをダウンロードして、それを基に『万物変化メタモルフォーゼ』のスキルによって黒人兵に変身させればいいのだから、いくらおまえたちが目の前の個体を屠ろうが、何度でも再生させることができるのだぞ?」


 いかにもこちらのほうを哀れみの視線で見やりながら、またしても意味不明なことを言い出す書記長殿。


「……そうか、そういうことなのか」


「えっ、大和、あいつの言うことが、わかるのか⁉」


 さすがは前世である、『あちらの世界の記憶』の持ち主だな。


 ──そのように、己のパーティの主力の博識さを感心していたら、むしろ自分の無知さ加減を思い知らされることになったのである。




「彼らが集合的無意識からダウンロードしているのは、『あちらの世界』の人物の記憶──それも何と、提督ご自身の『前世の記憶』なのですよ!」




 ………………………は?




「あの黒い人間が、僕の記憶から生み出されただって?」


 よりによって、何をとんでもないことを言い出すんだ、このロリ大和娘は⁉


 あまりの言われように、つい胸中で反駁してしまう、自分では『前世』のことなんかちっとも覚えていない、エセ『なろう系転生勇者』な僕であったが、こちらへと振り向いた大和型軍艦擬人化少女の表情は、真剣そのものだった。




「……提督、時が来たのです。──さあ、今こそご自身の手で、忌まわしき過去との決着をつけるのです!」




 え。


「な、何だよ、大和、『忌まわしき過去のとの決着』とかって⁉」


 その瞬間、


 僕のパーティメンバーである、大和と矢矧と磯風と浜風との全員が、その場に跪いてこうべを垂れた。


 この戦闘真っ最中での奇行に、びっくり仰天すると、浜風がいかにも『もののついで』と言った感じで、25ミリ連装機銃で『黒人兵』とやらを、あっけなく皆殺しにしてしまう。


「──おいっ! いくら何度でも再生できると言っても、護衛のオーク兵たちだって、生きているんだぞ? 我々にとっては大事は『同志トモダチ』なんだぞ! どうせ無駄だということはわかっているくせに、あっさりと殺すなよ⁉」


 むしろその『大事な同志トモダチ』に対して、非人道的な行為を行っている、諸悪の根源が、自分のことを完全に棚に上げて、更に新たなる『即席黒人兵』を創り出すことによって、猛攻撃を仕掛けてきた。


 ……ほんと、『コミー』のやつらって、自国民に対しては横暴なことばかりやっているくせに、他の国に向かっては何かにつけてイチャモンを付けてくるんだから、タチが悪いよな。


 ──しかし何と、あくまでも昔の話とはいえ、『反コミー』を旗印に戦った、大日本帝国海軍の擬人化少女の最大戦力ときたら、そんな書記長殿の言葉をようなことを言い出したのである。




「……そうですね、いくら私たちが手を下したところで、何の意味も無いでしょう。──なぜなら、提督ご自身がすべてのケリをつけない限り、彼らは何度でも再生してくるのですから」




 何、だと?


「一体全体どういうことなんだ⁉ 僕の『前世』──すなわち、『あちらの世界』においては、何があったと言うんだ⁉」


 僕の疑問──否、『詰問』の言葉に、苦悶の表情を浮かべながらも、ついに覚悟を定めて答えを返してくれる大和。




「……本当に、申し訳ございません。実は『あちらの世界』の世界大戦において、日本はアメリカという国に敗北を喫してしまったのですが、その戦争末期に、提督の前世での出生地に当たる、南国の独立した島嶼部である『沖縄』が戦場になった際に、日本兵どころか住民の皆様までがアメリカ軍に蹂躙されるといった有り様となってしまい、辛うじて健在だった、帝国海軍の残存戦力である私たちが、応急的に艦隊を組んで救援に向かったものの、道半ばの坊ヶ崎にて敵の航空兵力によって、四隻まとめて撃沈されてしまったのです!」




 ──っ。


「そ、それで、その沖縄という日本の領地は、どうなったんだ⁉」


「軍隊はほとんど完全に潰滅させられるとともに、民間人にも多大なる犠牲を生じて、結局は島全体が米軍の支配下に置かれてることになって、そのまま敗戦を迎えました」


「……もしかして、僕がこの世界に『転生』したのは、その時からなのか?」


「あ、いえ、提督は戦後生まれであられるし、そもそも現時点ではお亡くなりになってはおられません」


「……だったら、その話は、僕がこうして転生したことと、無関係というわけなの?」




「いいえ、いいえ、あなた様は、戦後の平和を取り戻したはずの沖縄において、ある意味殺されるよりもむごい仕打ちを受けたのです。──なぜなら、沖縄が日本に返還されてからも、島内には引き続き米軍が大勢して居座り、時には島民に対して、言葉に出すのもおぞましき、凶悪なる犯罪を行っているのですから!」




 ──‼

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