俺コミュ障。なんか異世界に召喚された (短編)
F
……人選まちがってません?
俺コミュ障。あだ名はカオ◯シ。
コミュ障なんだがどういうわけか俺の周りの人々はやんややんやとよく盛り上がる。どういうわけかいじめられたりもない。人には恵まれてる。幸運だと思う。よく宝くじの下から二番目のやつ当たるし。たまに下から三番目のやつも当たるし。微妙だって? でも幸運だろ?
類友という言葉があるがあれ絶対嘘だ!
俺あんなしゃべんねぇもん。むしろ真逆だもんよ!?
例えばこうだ。
目の前を歩いていた女子が、ひょんなことからハンカチを落とすというベタな場面に遭遇した俺。
拾って、ぽんぽんって汚れ落して、制服の肩を叩きます。
はいここまで普通ね。親切心があって、この場にいたら誰でも通る道だろう。でもこの先で俺はエラーが起こる。
「え、なんですか?」
「あ…あの」
振り返ったその子にハンカチを見せる。
「え、あ! それ私の? あ、ない! 拾ってくれたんだ? ありがとう!」
「…あ」「あ! リッちゃん! 探してたよー! 君ありがとねー! じゃ!」
あ、いや、どういたしまして。
とがんばって言おうとした俺の気持ち、わかってくれますか。
言い始める前に友達見つけて立ち去っていく会話相手の背中を見つめる俺の気持ち、わかってくれますか。
俺だって想像力くらいある。きっともじもじおどおどして、第一声の「あ」をなんとかひねりだしてる俺の言葉を最後まで聞くのめんどくさくなったんだろう。ふつうの発話速度と俺の発話速度のタイムラグの間に別のことに興味いったんだろ。わかる。想像つく。だからいいんだ。これは俺が悪い。
でもさ
でもさー
いきなりパァアアって光って異世界にご招待してきた国の説明係さんまでそれってないんじゃないの。
待ってよ。話させてよ。勇気ふりしぼってんの。俺の会話発表会を開催させてくれ。勝手な事情だけれども!
「あ…」
「おお! 成功だ! やったぞ! これで世界は救われる!」
キラキラのエフェクトが消えたと思ったら、なんか周囲に人だかりができていた。見慣れない感じの、なんかファンタジックな衣装を着た、大人だらけ。
コミュ障の俺、とりあえず緊張を強める。
ローブ着た魔法使いっぽいじいちゃんが演説みたいにしゃべってる。
「…あ、あの」
「おお、勇者どの、いきなりのお呼び出し申し訳ございません。しかしどうかご理解いただきたいのです! 我が国は、いいえ、人類は、今危機にひんしておるのです!」
「あ」
「分かります分かります! ええ、そうでしょう! 異世界の人間を巻き込むな!と、そうおっしゃりたいのですね!? しかし、しかしですな、これにはふかぁーい事情があるのですよ! 聞いてくれますか!?」
「…え、あ」
「そーうですか! そうですか! ありがとうございます! ささ、ここでは何ですので、別の部屋へ移りましょう! ささ、食事も用意してありますから! さぁさぁ」
さぁさぁさぁさぁと押しの強いじいさんに背中を押されて、連れてこられた部屋には確かにご馳走の山。フルーツもいっぱいあったけど日本のより甘くなかった。
もりもり食べながらじいさんの話を聞く。なかなか美味い。フランス料理から繊細さを引いた感じの料理。
なんでも、隣の国が魔王軍に攻め落とされて、次はこの国がやばいんだと。
なんでも、この世界の人間には魔物の放つ瘴気が毒で、戦おうにも一人につきだいたい20分くらいで離脱しないと毒で体がやられるんだと。しかも20分戦ったら2日は毒出ししないといけないらしい。うん、俺でもわかるよ。負け戦だねそれ。
なんでも、その瘴気が異世界の人間だと毒にならないということが、異世界人召喚魔法を作った魔法使いの研究書に書いてあったらしい。なにしてんだよ魔法使い。そんな魔法つくれるんなら瘴気が効かなくなる魔法開発しろよー。
まぁそんなこんなで、異世界から、この世界にいきなり呼んでも「まぁいっか」って思ってくれる人で、戦闘の才能がある人を勇者として呼び出しているらしい。あと言葉はこちらの世界の言葉を脳みそにぶち込んでるそうだ。何それこわい。
魔力の都合で、高魔力保持者を全員集めても一年に一度しか召喚術は使えないうえに、失敗もあるとかで、世界の果てから魔王軍が侵略をはじめてから八年、成功したのは俺で五人目。他の四人はすでに実戦にも出ていて、交流も深めているらしい。
そして世界の果てから最も遠いはずのこの国の、隣の国が侵略された。
次が人類最後の召喚になるかもしれないという状況で呼び出された俺。なにその高すぎる期待値。やめてくんない。
そんな俺には先の四人と協力して、最後の抵抗をしてほしいとのこと。
おいおいおいおい、コミュ障になんつー最強のハードル用意してくれちゃってんの。
友達の輪が出来上がっているところに後からのこのこやってきて「俺も仲間にいーれて♪」なんて出来るのは真のコミュ強だけだぞおらぁああ!コミュ障なめんな!まじ無理。無理無理。戦いよりそっちがまず無理! 帰らせて!
ということをあんまり甘くない梨っぽいフルーツかじりながら目で訴えたけど聞いちゃくれないよね。
「それから大変恐縮なのですが、元世界へ帰して差し上げることはできないのです…」
「ふぐぅっ!?」
フルーツのどに詰まった。
ゲホゲホしてたら美人なメイドさんが背中さすってくれた。役得。
って、帰れないだと!?
そこって嘘でも「全て終わったら帰らせてやる。どやぁ」とかするんじゃないの!? 正直かよ! いい人だね!? いやいい人じゃないよね!? まじか!?
「誠に、誠に申し訳ないのですが……しかし、先の隣国での戦いでも、勇者四人は魔王軍に匹敵する働きをみせてくれました。あなたが加われば、人間側にも勝機が……!」
……勝ててから、さらに人間の領土取り戻すってなると、また一年ごとに仲間増えるんだろうなぁ……。
ふ、ふふ、ふふふふ。
ずーんとうなだれて現実逃避している俺の背中をメイドさんがさすってくれる。優しいね。でもこれあれでしょ、アメとムチってやつでしょ。俺ダマされないからな!
えー、つーか帰れないのか……魔王軍に寝返ろうかな。そんで内側で名声あげて、人間の処遇をよくしてくれるように働きかける?
あ、俺コミュ障じゃん。名声あげるとか無理じゃね。諦めよう。
どうしようかなぁ、どーせ帰れないならさぁ、べつにー助けてあげてもいいけどー
でもさー仲良し四人組の中に入っていくのはやだなーやーだーなー。
ちょっぴり気持ちが持ち直してきたんで、うなだれるのをやめ、代わりに四角形の形した黄色いフルーツを無意味に縦に乗せて塔をつくっていく俺。それを痛ましそうに、しかし諦めない目で見つめるじいさん。塔がくずれないか「あっ」とか「わっ」とか「まぁ」とか言いながら見守るメイドさん。かわいい。
というこう着状態の部屋に、バーン! と勢いよくドアを開けて誰か入ってきた。「ここか!?」とか言いながら。
塔がゴロゴロとくずれてメイドさんが「あー!」と俺より悔しがって、入ってきた四人をキッとにらみつける。かわいい。
「お! 君が新しい勇者!? 俺たちは先に来ていた勇者だ! 俺はテオール! よろしくな!」
金髪碧眼という、絵に描いたような勇者なイケイケ男が元気に手を差し出してきた。
握手しようとしたらパシーンって叩かれた。
え、なに、爽やかにいじめっ子なの?
と思ったら、誰もそんな気配ないんでこれがこの人たちの挨拶なのかもしれない。
その後ろには女子が二人と、男が一人。いずれもどっかのRPGに登場しそうなシャキーンとした人たち。
テオールと握手が終われば次は赤毛の女子、青い髪の女子、そして最後に緑の髪の男。全員が手をパシンしてきた。女の子はそっと優しくだけど。やっぱこれ挨拶かー。ハイタッチならぬロータッチってやつ?
「あ」
「君のことは聞いているよ! いきなりで驚いてるだろう? 俺たちもな、最初は戸惑ったんだけど、この国の人たちいい人だからさ。俺は元の世界で政争に嫌気さしてたから、まぁここでやってくのもいいかなって」
テオール君、イケメンな上に元世界の貴族だって。なにその初期能力の高さ。やばくね。
「あたしはねー魔女としてのあり方に疑問があったんだ。元世界の魔女はさ、世界の支配者でさ、一般の民のこと見下してて。あたしが長になったとしても人の価値観なんてそう簡単にかえらんないしねぇ。どーしたもんかなぁめんどくさいなぁって思ってたところで召喚。もう帰れないならまぁ悩まなくていっかーみたいな? あははは!」
三角帽子の魔女っぽい赤毛の魔女さん、マジ魔女さんなのかよ。しかも有能な。
あれこれまさか全員元から有能だったやつ? 一般人俺だけ? まさか、まさかね?
「私も聖職者として人々のために奉仕の日々を送りたくシスターとなったのに、実際はただの組織運営の一員という感じで。奉仕活動の時は楽しかったのですが、これじゃない、という感じがしていて。ここで人々のために戦うというのは本来私が望んだ世のため人のための生き方……。私にとっては幸運な召喚でしたが、あなたにとってどうかはあなたが決めること。焦らずに、まずはこの国を知ることからはじめれば良いと思いますよ」
にっこりと笑って言うシスターとかいう青いローブを着た女子。後光がさしてる気がする。
マジでいるんだなこんなシスター。信者になっていい?
「俺は元から剣士を志していたんだが、どうも師匠に恵まれなくてな。雑用ばかりで素振り一つ教えてくれないやつばかり。ここに来て初めて剣を握ったよ。もうそれだけでいい。俺はこの国のために戦う」
なにこいつカッコいいかよ。
まって、俺なんも、俺だけなんもないんだけど!?
ど、どうしよう、なんて言えばいい? 普通の高校生ってどう言えばかっこよさげになる?
高等な学校教育を受けているところだったんだけど、俺の進む道はこれでいいのかとか悩んでた、みたいな? ねぇどうしよう!? 高校で夢持ってる日本人のが少ないと思うんだが!
「あ…」
「君にも事情はあるのだろうが、まぁまずはゆっくり休め! ショック受けている時に考えてもろくなこと思いつかないぞ。明日また会おう! じゃあな!」
「またねー」
「お気を強く持ってくださいね」
「では」
「…あ」
はい、また明日。
と俺が言う前にバタンと扉は閉まりましたとさ。
嵐のような奴らだった。
空気になっていたじいさんとメイドさんも、俺はまず休むべきとういうことで話し合いは終わり、俺は俺の部屋とやらに通されて就寝。次の日には勇者その1のイケメンに連れられて、国王に謁見した。
また俺が何も言うまでもなく話は進んで、国王様が頭を下げてみんながどよどよするという一幕があったりなんだりかんだり。
俺に支援魔法とアイテム作製の才能があるとわかってからは、俺はそっちの勉強をはじめた。
正直楽しい。毎日が理科の実験って感じ。こんな学校ならありだなぁ。
あれ、俺もこの世界に来てよかったって感じになってね? まーいっか。
そしてきたる魔王軍との戦い。新人の俺は幸い後衛な能力なので、守られつつ戦いに参加である。
なお魔女さんは魔女なのに前衛だ。超戦闘派。魔法を次々繰り出して、すぱーんズバーンどっかーんと派手に戦っている。呪文詠唱が必要になっても、すいすい攻撃避けてからどかーんと行くうえに、避けながら敵を前衛のイケメン二人の方へ誘導してサクッと倒してもらってる。まじかっけー惚れてまうやろ。
シスターは護符とやらを前衛三人に持たせてるから、それを通して遠くからでも怪我をすぐ治せるらしい。俺の隣でぱぁあと光ったりして神々しいです。信者になりたい。
イケメン二人は剣と槍で無双している。あれどこの無双ゲーム? すげぇ爽快感。つか疲れないの? ねぇ体力無尽蔵なの? すごくね。いや俺の支援魔法のおかげもあるんだろうけどさ。
俺は、仲間が怪我をしたらすぐ察知できるよう、護符に神経集中させているシスターのとなりで、特に集中することもなくみんなを眺めている。
遠隔で仲間の筋力増強、消費エネルギー低下、消費魔力低下、ダメージ軽減、の支援魔法をかけてるけど、一度かけたらそれっきり。ある程度近くにいないとダメだけど、戦いが終わるまでかけっぱなしだからシスターみたいにがんばったりする必要がない。見てるとなんか俺だけやる気ない感じ。
とりあえず居心地悪さを払拭するためにシスターに回復ポーションを差し出す。俺もアイテム制作得意だけど、このポーションは普通に俺の師匠作だ。アイテムだからね。場所選ばないよね。俺のアイテム制作が役立つのは戦場で不足した時だけさ!
「ありがとうございます」
シスター笑顔が輝いてる。
「あ」
「はっ! テオールさんが!」
物理的に輝くシスター。
と、そんなこんなで初戦は終了した。大勝利である。
魔王軍をたった五人で押し返し、国は今も平和だ。個人的に一番の功労者は魔女さんだと思う。最初に数日前から準備していたという魔法で、集まってきた魔物を綺麗に一掃したのはデカかった。
そういや魔王軍に侵食された国の人々はどうなったん? と聞いたら悲しい顔をされたので考えてはいけないようだ。
今のこの世界の総人口ってまさかこの国の人数と同じ……? 魔王ヤベェ。
「すごいぞ! 支援魔法があるだけでこんなに違うのか! お前天才だな!」
「あ」
テオールが興奮して俺の肩を組んでくる。
あ、いや、そんなことないよ。と言う前に魔女さんが話し出す。
「八年前、魔王軍が活発になるまでどうして平和だったのか不思議だったけど、支援魔法と人海戦術で辺境の国が押しとどめてくれてた。って話は本当だったんだ。その辺境の国を、宝石欲しさに滅ぼした帝国は罪深いね」
「その帝国も今や魔物の瘴気の中。欲は出すもんじゃないな」
「まったくだよ」
「犠牲になった無関係な人たちの無念を晴らすためにも。国土を回復させてあげたいですね……」
「やれるさ! 今の俺たちなら!」
ぐっと覚悟の決まったらしい四人と、あわあわ見守るしかない俺。
一月後、長いこと準備をしていた人類最後の国を守る巨大結界魔法が完成した。
後方の心配がなくなった勇者一行は、魔王軍を壊滅させるため国を後にした。俺は、まぁついて行きましたけど、正直孤立無援でつっこんでく覚悟とかないよ!
こええよ!
食材は現地調達で、魔物を食ったりもする。意外と美味いっていうのがなんとも……。
アイテムもまた素材を現地調達なので、俺のアイテム制作が役立った!
命の危機と隣り合わせだけど、わりと楽しい。
そんなこんなでざっくざっく魔物を虐殺して進む俺たちの前に、魔王軍幹部とかいう、カタコトでしゃべるやつが現れた。魔王が話があるというので、罠かもしれないからと二人、テオールとシスターだけで行くことに。
シスターが行くなら俺が行く! って言おうとしたんだけど
「あの!」
と俺にしてはかなりがんばった発言は、優しいシスターの微笑みの前に撃沈した。
「ありがとうございます。代わりに行くとおっしゃるのですね?」
うなづく俺。
「しかしこの人選は最善のものです。私の回復魔法はあなたの回復アイテムで代用が効きます。不便にはなるでしょうけれど……最悪、失われたとしてもかまわない人選でいえば私」
「そして俺な! 俺よりこいつのが剣士として上だ! 防御が弱いが、それもお前の支援魔法で補える。だろ? むしろ一番の要がお前なんだ。お前は守られとけ」
「あ……」
「俺たち二人なら、二人だけで前衛後衛、一応全部まかなえる。だからまかせてくれ」
「……頼んだよ。でも、帰ってくるんだよ!」
「ああ!」
「行ってまいります」
という感動的な場面があったのに、その数時間後、さくっと二人は帰ってきた。笑顔で。
なんか、大丈夫だから全員で行こう。とのこと。
二人が、魔物が化けた偽物じゃないことは魔女さんが鑑定済み。
そしてたどり着いた魔王城。元帝国の城の玉座にそれはいた。
白いもさもさした、巨大なヤギみたいな二足歩行の生き物。
ヤギが脚組んでるよ。マント羽織ってるよ。これが魔王? へぇー中世ヨーロッパで想像されてた悪魔みたいだな。
「よく来たな」
魔王は普通にしゃべれるのか。
「それで、どうなんだ。魔物用避妊薬は作れそうか?」
「え?」
と俺。
「は?」
と魔女さん。
「な!?」
と剣士。
「魔王、そのことはまだ話していないんだ。俺たちから話すより、魔王が言った方が信憑性があるかと思ってさ」
とテオール。
「なるほど。一理ある」
そして語られる魔王軍の真実。
ようは、頭のよくないほとんど獣の魔物たちは、生殖能力が高い上に行為も大好きなのでどんどんどんどん数が増えて、魔物のもともとの住処だけじゃあ場所が足りなくなった。それでも今までは辺境の国がいい感じに数を減らしてくれていたのだが、その国になりかわった帝国はその辺放置。
辺境に住む人たちも自衛でがんばっていたのだが、国の支援がなければ装備もアイテムも不足する。
そうして魔物は数を増やしていき。
「土地が増えたらまた祝いだといってずっこんばっこん……悪循環だ。我のいうことなんか聞きやしない」
しかし魔物たちは人間の国に来て酒のうまさに目覚めた。
ではこの酒に避妊薬をまぜれば飲んだやつらは子供ができなくなるのではないか。と魔王様は考えた。
どうせバカなので酒飲むと子供できないね? とか絶対に気づかないし。数が減りすぎたら避妊薬をまぜなくすればいいんだし。その辺は賢い魔王様と部下で考えてやりくりするそうだ。せっせと酒ビンに避妊薬をつめる魔王様……シュールな絵面だが平和のためだ。理想を押し付けてはいけない。
しかし魔物はバカなので薬なんて作れない。魔王様は賢いけど、今あるレシピ通りには作れても、新規製造とかは無理。
そこで「魔物用避妊薬つくってくんない?」である。
「……なんとまぁ」
「現実なんてこんなものか……」
魔女さんと剣士の言葉に激しく同意する俺。
とりあえず魔物用避妊薬が作れるか、国に帰って師匠や王様に相談することになった。
結果。薬できました。
副作用も極力ないヤツ。
後々に魔物の生殖能力そのものを破壊するような人間の下心満載なやつは魔王がチェックして却下されたので、ちゃんとしてるやつね。
魔王はレシピを教えてもらったので、これからはせっせと作っては詰める魔王業に精を出すらしい。
配下がエロに興じている裏で、そんなんしてるとかすげぇいい上司な、魔王様。
そういえばなんで魔物で世界征服しないんだ? とテオールが魔王に聞いたら。
「そんなことしてどうするんだ?」
「え、えーと。仲間を殺されなくなっていい、とか?」
「魔物は戦いを求める生き物だ。人間との戦いがなくなったら仲間内で争うようになるだけだろう。結局は同じことだ。なら人間が生きる土地くらい残しておいてやってもいいだろう」
ふっとヤギな魔王は笑った。
「そうだな。人間が堕落して、滅ぼしてやりたくなるまでは手出しせんよ」
魔王って寿命ないのかな。と思いながら見ていたら。
「我にも寿命はあるが、次代の魔王は代々の魔王の記憶や考えを受け継ぐからな。次の魔王も似たようなものだ」
魔王は人の心が読めるのか?
「心は読めんが、お前は顔がわかりやすい」
まじか。
「でも魔王さん?」
と首を傾げて言うのは魔女さん。
「そんなことならもっと早く人間に話持ちかけてくれればよかったのに」
「そもそも人間があの魔物退治の国をつぶしたのが悪いのだろう。自業自得だ。我はここまで攻め入ってきたお主らの行動に敬意を表して呼び出しただけだ。こなかったなら、我も何も提案しなかった」
「……そう」
魔王はなんだかんだやっぱ魔王だね。
そんなこんなでじわじわと魔物が数を減らすのが確実となった。増えた魔物はそのままなので戦いはまだ続くが、この安心感は大きい。ということで人間の国は喜びにわいた。
俺たちは国王から「褒美を授けよう」ってやつをやられた。
みんな思い思いに褒美をもらっていき、最後に俺の番となった。
「さぁ望みを! 叶えられるものなら何でも叶えよう」
「あ」
「さぁ!」
「あの」
「さぁさぁ!」
「あ」
「……」
「あの……も」
「も?」
「も」
固唾を飲んで見守ってくれる人たち。心なしかすごい緊張感。俺が緊張してるだけかな?
「もっと……お、俺にも……しゃ、しゃべらせ、て……」
沈黙が落ちた。
やっべぇ恥ずい、顔あっつい!
「なっ」
「えええええええ」
「なんですって!?」
「まさか」
「あ、あなた……」
その場にいた人々の声がそろった。
「しゃべる気あるの!?」
あるよ!!
その後『勇者を練習台にして聞き上手になろう!』という本がこの国で爆発的に売れた。
著者、俺。
初版本をそっとメイドさんに手渡して、さっそく練習台になった話はまぁ蛇足かな。
俺コミュ障。なんか異世界に召喚された (短編) F @puranaheart
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