短編集(仮)

ヤミー

ありがとうと言えない

 夕焼けは寂しい。今は寒くて手が悴む。

 手袋は忘れた。息を何回も吐いて手を暖める。

「…寒いなあ」

 雪が降るらしい。とぼとぼと家まで歩いていると、声をかけられた。

「手袋、忘れたんだ」

 幼馴染みは、いつも陽気だ。

「うるさい」

「貸してあげよっか」

「いらないから」

「ほらほら、使いなよ」

 私に手袋を押しつけて、彼は自転車を勢いよく漕いでいく。ふと、疑問に思う。

「……自転車の音、聞こえたっけ」

 優しいのか、不器用なのか分からない。明日は確か朝練があったはずだ。待ち伏せしてみよう。きっと、あいつは赤くなった顔をマフラーで隠すに違いない。


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短編集(仮) ヤミー @yamiiiiiii

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