第9話 蝙蝠と蠍

大きな音と共に強力なフラッシュが朱莉の視界を奪い、朱莉は反射的に両手で顔を覆う。


 「きゃっ!!」


 朱莉が怯んだのと同時に、怜奈はVz 61を拾い上げリロードを瞬時に済ませ、朱莉がいる方向に銃口を向けた。


「貴方の負けよ。降参しなさい」


 朱莉は沼地のドロドロした地面に膝を付け、悔しそうにしていた。


 「また私は蠍の女王に負けた…」


 あんだけ、何度も負けた時のリプレイを観直して、何度も何度もシュミレーションもして、女王が行く高校も調べて、

ここまで来たのに。こんな単純な行動で負けたんでか……。朱莉は持っている武器を降ろし、右手を振りサレンダーのアイコンをタップする。


 「蠍の女王…相変わらず強いです」


 沼地の地面に座り込んでいる朱莉は

笑いながら言うも、どこか悔しそうだった。


 「あんた、どうしてそこまでして、私を倒そうとしてくるのよ」


 「負けた相手に再戦したくなる気持ちはわかるけど」


怜奈は朱莉の目の前までゆっくり近付き座り込んだ。


 「それは…… あの試合で負けてから私は当時の仲間達からチームを解雇されたです。それが悔しくて、Vz 61……蠍の女王を倒してまた、チームを見返したかったです」


 「学校もチームだった方はソロで調子に乗って、いろんな人に戦いを申し込んでポイントがゼロになってもう、強制的に退学になりましたです」


 朱莉は拳を強く握りしめ俯き、まるで泣いている様だ。だが、この仮想世界はいくら泣いたとしてもヘッドギアの感情表現システムは未完成品とも言われており、涙までは表現する事が出来ない。


 「うっ、もう……二回も女王に負けたらッ…流石にダメですね」


「朱莉! 立ちなさい!」


怜奈は急に大声を上げ、朱莉を睨んだ。


「私に二回も負けたとしても、そんな事で直ぐに諦めないのよ!」


右手を上下にスクロールして出て来た

メニュー画面をまたスクロールして行き、

フレンド申請をタップした。


「えっ……?」


朱莉は驚いた様子で送られて来た

怜奈のフレンド申請画面を見つめた。


「またいつでも戦いに来なさい。 いつでも受けてあげるわ」


対戦終了の鐘が鳴り響き、二人は待機場へ転移されて行き、和樹も観戦ルームから待機場に転移し、2人の元へ向かう。


 「怜奈! 勝利おめでとう!!」


 (流石はBRD地区大会で優勝してるだけあるな。)

 

 怜奈は意気揚々と鼻を鳴らして俺の方へ歩いて来た。


 「こんなの余裕よ。あんたも早く強くなりなさいよ」


 「努力します」


 そんな事を言い、怜奈の後ろを見ると此方をじっと見つめている朱莉がおり、よく見るとめちゃくちゃ睨んでいる。


 (あれ……? あの子怒ってないか?)


 「なぁ、お前。 良かったら俺達とレイドを組まないか?」


 俺の唐突な言葉に怜奈は驚き振り向き、朱莉も理解出来てない顔で俺を見つめて来た。


 「ちょ、あんた勝手に何を言ってんのよ!!」


 両手を上下に上げ下げし、慌て始めた。


 「もう、メンバーもいなくてソロなら俺達のチームに入れようぜ」


 「なんでよ」


 「なんでって、学生同士のレイドを作るのは違反じゃないし、戦略も広がるし、今よりも勝機が上がるだろ?」


 (本当は俺が狙われ難くなるからなんて言えねぇ。)


 和樹は本心を胸の奥深くにしまい、俺は怜奈に説明した。


 「そうだけど…… BRDでのレイドを組めるのは最高で五人までよ。 良く決めたのが良いわ」


 確かにレイドを組むならその考えのがいい。チームで戦うこのゲームではチームワークがないとすぐに全滅してしまうし、なるべく臨機応変に対応出来る奴のがいい。まぁ、現状俺が1番足手まといだがな。


 「それは朱莉がお前の行動パターンやスキルを知っている。だから組んでくれたら俺達も連携も取り易くなるだろ?」


 「はぁ…わかったわよ」


 怜奈は呆れた様に朱莉の方に振り向く。


 「今日からあんたも私の奴隷にしてあげるわ! 感謝しなさい」


 (ツンツンした態度で偉そうな仁王立ちで命令したぞ。コイツ。)


 朱莉はキョトンとした顔で怜奈を見つめた。


 「私が女王の奴隷ですか…… いいですよ」


 「それなら、これからよろしくね朱莉」


 レイド申請を朱莉に送り、通知が届いた朱莉はメニューを開き、怜奈のレイド申請を受け付けた。


 「宜しくです」


 ***


 あれから、俺達は新しく仲間になった朱莉を含めてファミレスで歓迎会を開き、解散後は職員室に向かい、担任の静華先生に三人チーム申請の届けを提出し、寮に戻ったのだがーーー


 ………。


 「…… なぜお前までこの寮にいるんだ…… 朱莉」


 「なぜって今日から私もチームなので当然です」


 何を言ってるの? って感じでこいつ行ってきやがったぞ。


 「そうよ。 あんた、女の子が増えたからって変な事考えない事ね」


 「するか!!」


 怜奈は自分のゲーミングチェアに座り、わけわからん事を言いながらポテチを食べていらっしゃり、朱莉は怜奈のベッドの上に座って話を聞いていた。


 「和樹さん、変態さんなんですか」


 「違うわ!!」


 怜奈のせいで変な誤解が生まれたじゃねーか。


 「おい、やめろ。変な誤解を生むなよ」


  ふと、明日の時間割が載っている用紙が目に入る。用紙は部屋の壁に貼られており、明日の予定に全学年合同強化合宿と書かれている。


 「そういえば、明後日は全学年合同強化合宿って書いてあるが、上級生とかと戦うのか?」


 「あー、それは二年生と三年生も合同でチームバトルモードで戦うらしいわ」


 「私もそれは聞きましたです。なんでも、BRDの全エリア開放モードで最後の1チームになるまでサバイバルをするらしいです」


 BRDには幾つかのモードが有り、オードソックスなのが4人チームで戦うモードでその他にも7つあるエリア全てを開放して1000人規模の人やチームと戦えるモードのサバイバルモードだ。サバイバルモードはクラフトなども充実されており、自由度が高い事で有名なモードでもある。


 「なるほどな」


 「じゃあ早速、我々Aegisチームの最初の作戦会議を始めるわよ!!」


 いつの間にか怜奈はチーム名を勝手に決めていたらしい。


 「おいおい、いつの間にチーム名決めたんだよ」


 「今よ!」

 

 滅茶苦茶に自信満々に言い放つ怜奈さん。 俺は溜息を溢し、笑ってしまった。


 「何が可笑しいのよ!」


 「いや、おかしくねーよ。 やっとチームっぽくなってきたなって」


 「そうですね、三人になるとチームっぽいですね」


 俺達三人は夜通しで作戦会議を始めた。



 To be continued……。

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