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「美術の宿題どうするよー」
行き先を決めたのは要ではない。グループの誰か。夏休みの宿題は工作と美術展感想からの選択だ。貴重な中学二年生の夏休み、不慣れな工作よりは、現地に行ってそれらしく用紙を埋めれば済むのだから、工作よりは美術展レポートだ、といった空気がその場を支配していた。工作なんかしたかったなあ、といった要の希望は当然受理されない。
顔文字。賛同の意。ぱちぱちぱちぱち。
羊季は要の数すくない小学生からの友人で、彼女の繋がりによって、要の外向性は辛うじて維持されていた羊季が彼らと行くというのであれば断れない。
とんとんと話は決まって、通信料をきにしながら、やりたくもないオンラインゲームに付き合った。つきあっておかないと人間関係は続かない。あまり眠れていない。宿題をやったりやらなかったり、母親の作る昼食と夕食を食べ、冷房のきかない部屋でぼんやり過ごす。夏休み。
不本意とはいえ久しぶりの外出だった。
みっつ先の大きな駅前に着く。ちょうど大規模な改築の途中で、集合場所にたどり着くのもひと苦労だ。鈍行と急行を乗り継いで駅舎の屋根のある場所を出れば、蝉の鳴き声がわんわん響く。
ティッシュ配りを避けながら、駅前で、ぼんやり待つ。おかしいな、誰も集まってくる様子がない。
鞄にいれたペットボトルを取り出す。中身は麦茶。生乾きのTシャツがべたべたする。学校の友達との待ち合わせは恰好に気をつかうけれど、少ないお小遣いでは買える服も知れていて、少し億劫だった。日曜日の駅前は混んでいて、同じ年ごろのグループが通り過ぎるたびにびくりとしてしまう。きゃあきゃあと上がる黄色い声。
のまま誰も来なかったらどうしよう。スマートフォンをいじるふりをしながら、少し心配になる。現実逃避のように、どうせなら、羊季だけが来ればいいのに、と考える。
もしかしたら、願いが通じたのだろうか。
待ち合わせ場所に、いつも通りに、遅れて彼女が来た。
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