マイルの冒険 3 他

「マイルの冒険」



「ああ、ああ」

「あきた」と言った少女がうめき出した。

 マイルは少女がトロヘイヤに似ていることに気づいた。

 パフォーマンスには熱が入り、もうその場には笑っていないものなどいなかった。

「あーーーーー!」

 叫びと同時に少女の体からドス黒いものが天高く舞い上がった。



「戻れ、ない……?」

 少女は自分の掌を見つめ、そう言った。

「これで終わりだ。トロヘイヤ!」

 マイルは言った。

 トロヘイヤはおとなしく両手を挙げた。

「降参だ」

 マイルたちがトロヘイヤに勝った瞬間だった。

 そして、トロヘイヤは100年後も少女の姿のままだった。



「ミニマル男の行き着く先は?」



 周りの目から見ても、

「変わった」

 と言われるであろう男がいた。

 その名を持田金男と言った。

 彼は現在、貯金の魔物だ。友人が引くほど貯金癖がある。

 それは何故か?

 彼が「変わった」からだ。



 持田金男の変化は突然に訪れた。

 それはインターネットでダラダラと時間を使っているときだった。

「ミニマリスト!?」

 彼は今までミニマリストという存在を知らなかった。

 そして、驚きと同時に抱いた感情が、

「オイラもなりてぇ」

 ということだった。



 貧乏な生まれ、貧乏な育ち、貧乏な今、と一生貧乏なままで人生を終えると思っていた持田金男だったがそれは違うことを知った。

 豊かさは金じゃない。もっと言えば、金「だけ」じゃない。



 あるという豊かさも素晴らしいが、必要最低限というものを突き詰める豊かさもあるではないかと気づいたのだ。

 そこからの持田金男はせっせといらない物を手放していった。

 そこに残るのは彼に必要な物のみとなった。



 しかし、ない豊かさに浸っていた持田金男の元に1つの言葉が舞い込んでくる。

「君のミニマルさはまだまだだ。何故なら君は家を持っているではないか!」

 彼にとって衝撃的だった。



 今まで持田金男にとって目に見える「物」だけを手放してきていたことで家を「物」にカウントしていなかったのだ。

 よく考えるとミニマリストを知らなかったときには絶対に必要なものと思っていたが今はそうではない。



 それどころか、移動という面では大きな足かせのようにも思えた。

 家さえなければどこにでもいける。そんな思いさえ出てきてしまった。

 しかし、そこまで考えても行動には移せなかった。

 持っているものを手放すのが急に惜しくなった。



 やってきた言葉の中には、

「親にでもあげてしまえ!」

 と書かれていたがそれさえ嫌だった。

「ぬあー!」

 と叫んだ持田金男の決断は親に家の空き部屋の使用許可を与えることだけだった。



 しかし、所持品以外もミニマルにできると知った持田金男はやることなすことミニマルにしていった。

 友だちすらミニマルにしているとき1人の存在。金田大介が気になった。



 金には目がないだけでなく金に詳しかった金田大介は学生時代からその実力を発揮していたことを思い出していた。

「おー。カネオ。ミニマリストになったんだって?」

 と相変わらず情報も早かった。

「そうなんだよ」

「でも、お前はまだまだだよ」

「え?」



 その言葉にどこか聞き覚えを感じた。が、掴み取る前に話は再開した。

「俺を金使い荒いだけのやつだと思ってもらっちゃ困るぜ」

「そう思ってる部分もあるけど」

「だろぉ? だから、甘いんだよ。金は貯めるだけじゃなんにもならん!」

「それは何となく分かるけど」



「せっかく使ってない金があるんだから。自分の伸ばしたい能力のためにパーッと使っちゃおうぜ!」

「ダイスケはそうしてるの?」

「おうよ! あったりまえだろぉ!」

「そっか」

 しかし、その後それだけを話したが、特別すぐに何かをしたわけではなかった。



 夕食のときに、

「ダイスケは金はスキルアップに使うべきだって言ってた」

 と持田金男は話題に出した。

「それは大介くんがお金持ちだからでしょう?」

 母は言った。持田金男は親が家に住むようになってから実家ぐらしのような状態になっていた。

「そうかもしれないけど」



「第一、貯金があったほうが安心感が違うだろう」

 父は言った。

「そうよ」

 と母も同意していた。

 確かに、今、スキルアップをしておくのはいいことかもしれない。

 が、貯金を切り崩してまでやることかというとそうではないような気もする。



 今日も、持田金男の貯金額が増えるだけだった。

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