マイルの冒険 2

 マイルたちのもとに襲撃者がやってきた。彼らはもちろん魔のものだ。一瞬の内にマイルたちは砂煙に視界をうばわれた。

「襲撃者だ! 襲撃者に備えろ!」

 リーダーであるモアスがマイルたちに向かって言った。

「わかりました」

 彼らは各々の臨戦態勢を整えた。


「あ、あの」

 どこからか話しかける声が聞こえた。

「何者だ!」

 マイルは言った。

「あの、私はアン。笑いたくてここに来たの」

「そうか、わかった」

 マイルはそうして周囲の状況把握に専念した。

「お兄さん?」

「大丈夫そうだ」

 マイルは安全を確保した。


 しかし、マイルは躊躇した。こんな状況で少女1人、明らかに怪しいと思った。

 そんなマイルのためらいをじれったく思ったのかアンが何かを言おうとしたとき、

「トロヘイヤ様〜!」

 という声とともに見覚えのある赤目の化け物が姿を現した。


「お前はあの時のガキだな!」

 目の前の化け物には見覚えがあった。ラウドが戦った化け物だ。

「ラウドさんはどうした!」

「俺にかなうわけはないのさ!」

 続けて、

「そしてお前もここで終わりだ! この方こそ我が大将! トロヘイヤ様だ!」


 マイルの思った通りアンはただの人ではなかった。アンは魔王その人だった。

「ラィード何故バラす。アイツは気づいていなかっただろう」

 とトロヘイヤは言った。

「トロヘイヤ様のためを思ってのことです! 言えば誰でも怯えるでしょう?」


「その通りだが、今はそれが目的ではない」

 とトロヘイヤが言い、

「すいませー!」

 とラィードは答えた。

「知られてしまったからには、ラィード! ここ任せた」

「わっかりましたー!」

 トロヘイヤはそこに元から何もなかったかのように姿を消した。


 マイルはラィードという名の化け物と対峙することとなった。鋭い爪や尾に対して近くにあったモップで応戦する。

 マイルは笑いの技術だけでなく戦闘術もモアスから教わっていたのだ。

「ハアアアアッ!」

 かけ声とともにラィードを追い返すことに成功した。

「ギャアー」


「みんながいない」

 ラィードを追い返し、砂煙が止むと辺りは見知らぬ場所だった。ここに居てはいけない。そう判断したマイルは仲間を探すため移動を開始した。




「……ハア……ハア……」

 しかし、それは過酷そのものだった。


 マイルは人を笑わせる技術と戦闘術は覚えたもののサバイバル経験は皆無だった。そして、今までは食べ物は誰かが用意してくれていた。

 それが今では自分で用意しなければならない。マイルにとって途方もないことだった。

「ねえ。大丈夫かい?」

「……」


 返事はなかった。

 しかし、幸い少し先には村が見えた。

 マイルは少年を担いで村を目指した。


「すみません」

 マイルは村の入り口に一番近い民家へ入った。

「うちにも食べ物はないですよ」

「いえ、違うんです」

「シク! どこへ行ってたんだ?」


「よかった。知っている人で」

 マイルは言った。

「知ってるも何も、うちの子です」

 村人は返事した。

「それならよかったです。それでは」

「ちょっと待ってください!」

「はい?」


 マイルはシクを無事に村へと返した感謝をされた。


「シク、お前はもう長くはない」

「……はい……」

 マイルは食事の終わり、村を出ようとしたときにそんなやりとりを目にした。

「どういうことですか?」

 マイルは言った。

「シクは不治の病にかかっているのだ」

「……そんな」


「いいんだお兄さん。僕は無理に村を出たのに今、生きている、それで……」

 シクは言った。

「治す方法はないんですか?」

「伝説によれば我が村の山の山頂にあると言われる薬草なら」

「それなら取ってきますよ」

 マイルにとって人のつらそうな顔はほど辛いものはなかった。


 山のふもとについたマイルだったが彼に登山の経験などあるはずがなかった。

「村民でないと駄目だぞ」

「あなたは?」

「オレはマテイン。この山は登らせない。どんな理由があろうと」

 マイルはマテインによって登山を止められてしまった。


「やぁっと見つけたー!」

 マイルとマテインが対話してる間に退けたはずのラィードはマイルのことを追ってきていたのだ。

「何でお前がここに?」

「トロヘイヤ様の命令だ!」

 再度の戦闘。しかし、2度目の相手に苦戦するマイルではなかった。


「覚えてろよー!」

 ラィードはそう言って去っていった。

 マテインも危険を感じたのか居なくなっていた。

 マイルはこれを好機と思い、山へ入っていった。


 マイルは山頂の薬草を手にすることができた。道中慣れない山道に困惑することもあったがラィードとの戦闘ほどの困難ではなかった。

 しかし、その油断が、

「うわあああ〜〜!」

 マイルをどん底へと突き落とした。


 マイルの命に別状はなかった。しかし、怪我から回復したロエスがマイルを助けていなければいのちすら無かったかもしれない。

「いやはや素晴らしい」

 マテインはマイルの戦闘、薬草を手にした事を評価しているらしかった。

「ぜひとも魔のものをこの村に連れてきて欲しいものだ」


「あんた正気か!?」

 ロエスは言った。

「ええ、そうして私が追い返せば村で住むことがかなうはずです」

 ロエスには上記の沙汰とは思えなかった。

 そして、頼もうとしているマイルは今意識は無いのだ。


「あんた正気か!?」

 ロエスは言った。

「ええ、そうして私が追い返せば村で住むことがかなうはずです」

 ロエスには上記の沙汰とは思えなかった。

 そして、頼もうとしているマイルは今意識は無いのだ。


 しかし、マテインは見抜いていた。ロエスがマイルを助けたことから特別な能力を持っていることを。

「この坊やができないのならあなたに頼みましょうかね」

「どうして?」

 ロエスはいぶかしそうな顔をしていたがマテインと目を合わせているうちに次第に焦点が定まらなくなった。


「行かなきゃ」

 ロエスは無意識的に口走っていた。

 ロエスが立ち上がろうとしたときに、引っ張られる感覚があった。

「行っちゃ駄目だ」

「マイル! いや、それはできない」

 ロエスはマイルの手を振り払い村から出ていってしまった。


 マイルはそれから自分の体の感覚が戻るのを待ってから全速力で村を出た。

 ロエスを追っているわけではない。マイルは彼を説得する言葉が見つからなかった。

 その代わりにやるべきことが頭にあった。

 トロヘイヤを討つ。

 ただそれだけだ。


 マイルは山のふもとでのラィードとの戦闘後にヤツが向かった方角を目指した。

 予想は的中し、トロヘイヤと初遭遇した場所まで戻ってくることができた。しかし、様子はひどく、皆、腹を空かせていた。

 そして、危機に瀕してか、神に救いを求める者たちが多く存在していた。


 マイルは彼らに混じり全力でパフォーマンスした。

 一人ではできないことには手を貸してもらった。

 突如、

「つまらない」

 と少女は言い。立て続けに、

「あきた」

 と言った。


 マイルは信じられなかった。

 大人が言っているならまだしも子供が言っていたからだ。しかし、そんな言葉に動じるマイルではなかった。

 パフォーマンスを続けていくうち次第に笑いが伝染し始めた。

「ハハハハハ」

 一人、また一人と笑い始めた。

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