ドMな僕がドSな彼女の絶対領域に触れそうな悶々とした日々。

三浦るぴん

第1話 前編。




  *




 僕――常好つねよし玲彦あきひこと、彼女――御領ごりょう衣姫いきの関係は、たぶん、いびつなものなのだろう。


 きっと僕たちは、お互いに必要な存在で、パズルのように組み合わさったような、そんな関係なのだと思う。


 彼女は僕がいないと、自分自身を満足させられないし、僕は彼女がいなければ、自分の存在意義を見出せない。


 それは、まるで主従関係のような感じだ。


 僕と彼女の関係は、対等なんかじゃない。


「今日も始めましょうか」


「……うん」


 そして、今日もまた、僕たちの、いびつな関係が、始まろうとしていた。




  *




 放課後、僕と御領さんは、いつもの空き教室へと足を運んだ。


 そこで、いつものように、彼女と二人きりの時間を過ごしていく。


 僕は御領さんの靴下を持っていて、御領さんは僕のことを誘っている。


「いつも通り、あたしに靴下を履かせてみなさい」


 ある高校の誰もいない放課後の教室で、ある儀式がおこなわれようとしていた。


 それは、僕と彼女だけの秘密の儀式だ。


「早くしなさいよね、このグズ!」


 彼女は僕の目の前で足を組んで座っている。


 そして、その美しい足を僕に突き出している。


「早くしてよ! あたし、足が冷えてしょうがないんだから!」


 僕がなかなか行動に移さないことに苛立ったのか、彼女は声を荒らげた。


「ご、ごめん……」


 僕は慌てて彼女に謝ると、手に持っていた靴下を彼女の生足に履かせようとする。


 ――綺麗だ。


 そう思ったが、彼女は傲慢なので、そんなことを口にすればまた怒られるかもと思い、口には出さなかった。


 彼女の絶対領域が見えそうになる。


 スカートから足のつま先まで伸びる長い脚線美。


 それを目に焼き付けながら、僕はゆっくりと彼女の白いソックスを履いていく。


 まずは右足。


 次に左足……。


「……あっ……!」


 彼女に白いソックスを履かせているとき、彼女の白いショーツが見えてしまった。


 思わず声が出てしまう僕。


 だが、彼女はそんなことなど気にも留めず、ただ黙ってじっとしていた。


 やがて、すべての作業が終わると、彼女は満足そうに微笑んだ。


「うん、これでよしっと」


 そう言って、彼女は椅子から立ち上がり、教室を出ていこうとする。


「じゃあね、また明日学校で会いましょう」


「あ、あの……!」


 僕は彼女を引き止める。


「なに?」


 彼女は面倒くさそうに振り向いた。


「えっと……今日はありがとう」


「なんのお礼? あたしがあんたにお礼を言われるようなことをした覚えはないけど?」


「……いや、なんでもないです」


「そう。ならいいわ」


 そう言うと、彼女は今度こそ本当に帰っていった。


 一人教室に残された僕は、彼女の絶対領域の中にあった白いショーツを思い出していた。


「……はぁ……」


 ため息をつきながら、僕は自分のアレを見る。


 そこは、すでに固くなっていた。


 これが僕と彼女の……放課後の空き教室でおこなわれている、いつもの儀式であり、秘密の行為だった――。




  *




 僕と御領さんが出会ったのは、今から、およそ一か月も前のこと。


 高校に入学したばかりの頃、同じクラスになった彼女と偶然隣の席になり、そこから仲良くなったのだ。


 最初は、特に意識していなかった。


 でも、ある日を境に、僕たちはお互いに強く惹かれ合うようになった。


 そして、僕と彼女は秘密の関係を持つことになったのだった。




  *




 彼女と初めて出会ったときのことを思い出す。


 入学式が終わり、クラスに戻ったときのことだ。


 そのとき、僕は一人で席に座っていた。


 まだ誰も友達がいない僕にとって、それはとても寂しいことだった。


 周りでは、すでにいくつかのグループができあがっていて、楽しそうに会話を弾ませている。


 そんな彼らを見て、僕も早くみんなと仲良くなりたいと思っていたのだが、なかなか勇気が出なくて話しかけられなかった。


 結局、その日は誰とも話すことなく一日を終えた。


 次の日も同じような感じで、クラスの雰囲気についていけずに、孤立してしまった。


 それから一週間くらい経った日のこと。


 その日もまた、僕は一人で席に座り、周りの楽しそうな会話に耳を傾けていた。


 すると、突然一人の女の子が話しかけてきた。


 それが、御領さんだったのだ。


「ねぇ、ちょっといいかしら?」


「……えっ?」


 いきなり声をかけられて驚く僕。


 まさか自分に声をかけてくる人がいるとは思わなかったからだ。


「あたしとお友達になってくれないかしら?」


「えっ!?」


 驚いたのは言うまでもないだろう。


 だって、入学してからというもの、誰にも相手にされず、ずっとぼっち生活を送っていたのだから。


 それなのに、いきなり女の子に声をかけられたのだ。


 驚かないはずがない。


 しかも、相手は学年一の美少女と言われている御領さんだ。


 そんな彼女がどうして僕に声をかけてきたのか、このときはまだわからなかった。


 だけど、僕は嬉しかった。


 だから、その誘いに乗った。


「う、うん……! よろしく……!」


 こうして、僕と御領さんは友達になった。




  *




 彼女と友達になってからというもの、僕の生活は大きく変わった。


 まず、お昼ご飯を一緒に食べるようになった。


 最初の頃は緊張してしまってうまく話せなかったが、次第に慣れてきて、普通に話せるようにまでなった。


 そして、放課後も一緒にいるようになった。


 今思えば、僕たちの関係は恋人のようなものだったのかもしれない。


 しかし、そんな楽しい日々は長く続かなかった。


 ある出来事がきっかけで、僕と彼女の関係は変わってしまったのだ――。




  *




「はぁ……」


 僕はため息をついた。


「どうしたの?」


 隣で一緒に歩いている御領さんが聞いてきた。


 今は下校途中である。


 いつものように、彼女と一緒に帰っているのだが、どうやらため息が聞こえたらしい。


「いや、なんでもないよ」


「そう? なんだか最近、元気がないような感じがするけど」


「そうかな……?」


 自分では気づかなかったが、もしかしたらそうだったのかもしれない。


 確かにここ最近、少し憂鬱な気分になることが多いような気がする。


 原因はよくわからないけれど……。


「なにか悩みでもあるの?」


 今度は心配そうな顔で聞いてくる御領さん。


 そんな彼女の顔を見て、僕は思ったことをそのまま口に出した。


「……うん、実はそうなんだ」


「やっぱりね。それで、なにがあったのかしら?」


 御領さんに促されたので、僕は正直に答えた。


「実はさ……最近、御領さんとの関係が、よくわからなくなってきたんだ」


「……どういうこと?」


 意味がわからなかったのか、御領さんは首を傾げている。


 なので、もう少し詳しく説明した。


「ほら、僕たちって、いつも一緒にいるじゃん? それってつまり、付き合ってるってことなのかなって思ってさ」


「違うわ」


 即答する御領さん。


「あたしたちは付き合ってなんかいないわよ」


「……そっか」


 なんとなくわかっていたことなので、そこまでショックではなかった。


 むしろ、ほっとしたくらいだ。


 だが、それなら、なぜ僕たちはいつも一緒にいるのだろうか……?


 ふと疑問に思い、そのことを聞いてみることにした。


「じゃあなんで、いつも僕と一緒にいるのかな?」


「そんなの決まってるじゃない」


 彼女は当たり前のことのように答える。


「あたしがあんたのことを必要だと感じているからよ」


「……そうなの?」


 僕にはその意味がよくわからなかった。


 いや、本当はわかっているのかもしれない。


 ただ、認めたくないだけで――。


「そうよ」


 彼女は自信満々に言う。


「あんたはあたしの唯一の友達なんだから、もっと自信を持ちなさいよね」


「……そうだね」


 そうだ。


 彼女は僕のことを必要としてくれている。


 それは間違いない事実なのだ。


 きっと、これからもそうだろう――。




  *




 だが、それからしばらく経ったある日のこと。


 事件は起こった――。




  *




 その日の放課後、僕は彼女を待っていた。


 しばらくすると、彼女は現れた。


「遅かったね」


「ごめんなさい」


 なぜか謝る彼女。


 別に謝るようなことじゃないのに――。


「でも、どうしてもあんたに伝えたいことがあって……」


「伝えたいこと?」


 なんだろうと思い、僕は首を傾げる。


 すると、彼女は急にこんなことを言い出した。


「あたし、あんたと、ある関係を結びたいの」


「ある関係……?」


 一瞬なにを言っているのかわからなかった。


 だけど、すぐに理解することになる。


 なぜなら――。


「だから、これからは、特別な関係になろうって言ってるのよ」


 彼女は自分の靴下を脱ぎ始め、それを僕に手渡した――。

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