第2話 中編。




  *




「あたしね、誰かにこういうことをやってもらいたかったの」


 そう言って、彼女はニーソックスを脱いでいく。


「こういうこと? なんでそんなことをする必要があるの?」


「だって、あたしはゾクゾクするような体験をしたいんだもの」


 そう言いながら、彼女は右足を突き出した。


 そして――。


「んっ……!」


 なんと彼女は、僕の目の前で足の裏を見せつけてきた。


「ちょ、ちょっと!?」


 突然のことに驚きながらも、僕は目をそらすことができなかった。


 それほどまでに彼女の裸足に見惚れていたのだ。


 そんな僕を見て、彼女はクスリと笑う。


「ふふ、どうかしら? あたしがこんなことするなんて思わなかったでしょ?」


「う、うん……」


 戸惑いながら返事をする僕。


 しかし、そんなことはお構いなしに、彼女は話を続ける。


「でも、これでわかったでしょう? これが本当のあたしの姿なのよ」


 そして、再び足を突き出してきた。


 今度は左足だ。


 それを見て、思わず生唾を飲み込んでしまう僕。


 そんな僕を見て、彼女は満足そうな顔をする。


「ふふっ、やっとわかってくれたみたいね」


「そ、そんなことないよ!」


 慌てて否定する僕。


 それでも、彼女はまったく聞く耳を持たない。


 それどころか――。


「じゃあ、早速やってもらおうかしら」


「え……?」


 そう言うと、彼女はさらに過激な要求をしてきたのだった――。




  *




 それから数分後。


 僕たちは空き教室で二人きりになっていた。


 周りには誰もいない。


 完全に二人だけの世界だった。


 そんな中、僕は彼女に命令されていた。


「それじゃあ、お願いね」


「……はい」


 もう逆らうことはできないと思った僕は、素直に従うことにした。


 彼女に言われるまま、まずは右足を手に取る。


 そして彼女の右足に彼女のニーソックスを被せていく。


(うわぁ……)


 改めて近くで見ると、本当に綺麗な脚だなと思う。


 まるで芸術品のようだとさえ感じた。


 もちろんそんなこと本人には言えないけれど……。


 そんなことを考えながらも作業を続けていく。


(よし……!)


 心の中でガッツポーズをする僕。


 一方、彼女はというと――。


「ふぅ……気持ちいいわね」


 恍惚とした表情を浮かべていた。


 どうやらお気に召したようだ。


 そんな姿を見て、僕も嬉しくなる。


 だが、これで終わりではない。


 次は左足だ。


 同じようにして履かせないといけないので、ここで中断することはできないのである。


(がんばらないと……!)


 気合を入れ直し、次の工程へと進む。


 こうして両足とも履かせると、そこにはとても美しい光景が広がっていた。


(うわ~すごいなぁ……)


 その美しさに見入ってしまいそうになるが、なんとか踏みとどまり、もう片方の足にも同じようにしていく。


 こうして全ての作業をやり終えたときには、すっかり疲れてしまっていた。


 だが、不思議と嫌な感じはしなかった。


 むしろ達成感すら感じていたのだ。


(まさか僕がこんなことをするなんて……)


 自分でも信じられなかった。


 だけど、実際にやってしまったのだから仕方ない。


 それに、とても楽しかったのは事実だ。


 だからなのか、自然と笑みがこぼれてしまう。


 そんな僕の様子を見て、彼女も微笑んでいるように見えた。


 そして、二人は見つめ合う。


 お互いの視線が絡み合う。


 やがて、彼女が口を開いた。


「ありがとう。すごく気持ちよかったわ」


「……どういたしまして」


 お礼を言われて照れてしまった僕は顔を赤くする。


 それを見た彼女はクスクスと笑った後、こう言ってきた。


「ねぇ、また今度頼んでもいいかしら?」


「えっ?」


「まあ、どっちにしろ、あんたに拒否権なんかないんだけどね」


 そう言って笑う彼女を見ていると、断ることなんてできなかった。


 そもそも最初から断るつもりなんてなかったのだけれど――。




  *




 それからというもの、僕は彼女とずっと一緒に過ごすようになった。


 昼休みはもちろんのこと、放課後も時間が許す限り一緒に過ごした。


 それが僕たちにとって当たり前になっていったのだ――。




  *




 そんなある日のこと。


 いつものように彼女と帰ろうとしているときのことだった。


 突然彼女からこんな提案をされたのだ――。


「ねえ、今度の休みに一緒に遊びに行かない?」


 突然の誘いに戸惑う僕。


 しかし、彼女は気にせず続ける。


「どうせ暇なんでしょう? それともなにか用事でもあるのかしら?」


「いや、特にないけど……」


 そう答えると、彼女は満足そうに微笑んだ。


「なら決まりね!」


「あ、ちょっと待って!」


 勝手に話を進める彼女を制止し、僕は聞いた。


「どこに行くつもりなの?」


「それは当日までのお楽しみよ」


 楽しそうに答える彼女だったが、僕には不安しかなかった。


 なぜなら――。


(どこに連れて行かれるんだろう……)


 行き先もわからないまま行くのは正直怖いが、今更どうすることもできないので諦めるしかないだろう……。




  *




 というわけで、週末がやってきたわけだが――。


「……ここってどこなの?」


 待ち合わせ場所にやってきた僕は、辺りを見渡しながら呟いた。


 そこは見たこともない場所だったからだ。


 少なくともこの辺りに住んでいる人ならば一度は行ったことがあるような場所だと思うのだが……。


 そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。


 振り返るとそこには御領さんが立っていた。


「あら、ちゃんと時間通りに来たのね」


「……そういう御領さんは随分と早いんだね」


 まだ待ち合わせ時間の十分前だというのに、もうすでに到着していたらしい。


 相変わらず真面目なんだなと思いながら、僕は言った。


 すると、彼女はなぜか得意げな顔をして答えた。


「当然じゃない! あたしはあんたと違って約束を守る女なんだから!」


「…………」


(それって遠回しに僕のことをバカにしてるのかな……?)


 そんな疑問を抱きつつも口には出さずにいると、彼女は笑顔で話しかけてきた。


「さっ、早く行きましょうか!」


「う、うん……」


(なんだか嫌な予感がするんだけど……)


 そんな僕の思いなど知る由もなく、彼女は僕の手を引っ張って歩き出すのだった――。




  *




 電車で数駅移動し、駅から降りて少し歩いたところで、ようやく目的地に到着したようだった。


「さあ着いたわよ」


 そう言われて建物を見上げる僕。


(ここは一体……?)


 目の前に建っている建物は一見普通のホテルに見えるのだが、どこか違和感を覚えた。


(あれ? なんでこんなところに来たんだっけ……?)


 ここに来るまでの出来事を思い出そうとする僕だったが――。


「ほら、なにしてるの? さっさと中に入りましょう?」


 そう言って強引に引っ張っていく彼女によって阻止されてしまった。


(ま、いっか……)


 思い出せないということは大したことではないのだろうと思い、それ以上考えるのをやめることにした。


 そうして僕たちは建物の中に入ることになったのだが――。


(……!?)


 そこで目にしたものを見て、言葉を失ってしまった。


 なぜならそこには信じられないものがあったからだ。


(これって……もしかして!?)


 僕は思わず目を疑った。


 無理もないことだろう。


 なにせ、そこにあったのは――。


(ラブのホテルじゃないか!)


 いや、正確には違うのかもしれないが、どう見てもそれにしか見えない。


 というか、それ以外である可能性のほうが低いはずだ。


 そんな場所になぜ連れてこられたのか理解できないでいると、隣に立っていた彼女が説明を始めた。


「今日はここに泊まるのよ」


「えっ!?」


 その言葉に驚く僕。


 いや、確かに泊まれることは知っていたけど、まさか今日中に泊まることになるとは思っていなかったから驚いたのだ。


 そんな僕を見た彼女は不思議そうな顔をしていた。


「どうかしたの?」


「い、いや、なんでもないよ……」


(どうしよう……)


 動揺を隠しきれない僕をよそに、彼女はどんどん話を進めていく。


「とりあえずチェックインしてくるわね」


 そう言うと受付に向かって行ってしまったので、仕方なく待つことにした。


 その間もずっと落ち着かない気持ちのままでいたのだった――。




  *




 その後部屋に移動した僕たちは荷物を置き、一息ついていた。


 ちなみに部屋はベッドが一つあるだけのシンプルな作りだった。


(どうして、こうなったんだ……)


 未だに状況を把握できていない僕に構わず、彼女は嬉しそうに話しかけてくる。


「どうかしら? なかなかいい雰囲気の部屋でしょう?」


「そ、そうだね……」


 戸惑いながらも返事をする僕。


 だが、内心はとても焦っていた。


 なぜなら、この部屋にはお風呂がある。


 しかもガラスで、お風呂場が見えるようになっていて、裸が見えるのは避けられない。


(これじゃあ逃げ場がないじゃん……!)


 そんなことを思いながら頭を抱えていると、彼女に肩を叩かれ、耳元で囁かれる。


「ねぇ、せっかくだし一緒に入らない?」


「えっ!? 一緒に入るだって!?」


 僕の反応を見た彼女はクスクスと笑う。


「本気にしたの?」


 からかうように言ってくる彼女に対して、僕はなにも言えなかった。


 ただ黙って俯くことしかできなかった――。

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