無銘の墓標 - レディ・ウルフ編集後記

加湿器

第1話

 小説というものの魅力は、本来ならば決して知るく事の出来ない人の胸の内を、そっと覗かせてくれることにあると感じています。


 今回は、そういうの投げ捨てました。セリフなしで7000文字てお前。


* * * 


 初めに、今作はこむらさきさん主催の「第一回こむら川小説大賞」に参加させていただいた拙作「レディ・ウルフ」について、ちょっと蛇足ぎみな説明と「それは言わぬが花じゃない?」みたいな解説をさせていただこうと思います。そちらを先に読んでもらえるととてもよろこびます。

 こう……痛々しいかもしれない上、余韻ぶち壊しの可能性があるので、逆にこっち(編集後記)は「それでもいいよ!!」という方だけお読みください。


 第一回こむら川小説大賞、参加者ならびに評議員の皆様、本当にお疲れ様でした。本物川水系への入水はこれが三度目ですが、お祭りのような感覚で書いたり読んだりできるのは本当に楽しいです。次回もよろしくお願いいたします。


 基本的に「降りて」来ないと書けないタイプの上、書けない時は一日中悩んで一文字も書けなかったり、逆に今回のレディ・ウルフは深夜零時に思い立って朝六時半までぶっ続けで執筆&その勢いで投稿・完結させてたりするので、連載よりもこういったスパン短めのコンテストが性に合ってるんだなあ、と思ったりもしています。計画性がないなぁ!!


* * *


「着想」


 こむら川小説大賞に参加を決めた当初は、ルイス・キャロルの「スナーク狩り」を題材に何か一本書けないかと思い、構想ノートアプリ「Qoso」さんでプロットをいいじいじしてました。

 ちょっと煮詰まってきたころに、就寝直前で「降りて」来たのがレディ・ウルフ三話の「女性がもう一人の女性に告白するも、心通じずに去っていく」という場面。そこから想像が膨らんで、またとある人物に関する要素も組み込んで、なんかこう、ガッ!と書いたらこうなりました。計画性!!


* * *


「世界観・時代設定」


 特異な世界観設定はあまりなく、せいぜい女性の戦争での前線参加が史実と比べて積極的なのかな、くらいのところ。一次大戦と二次大戦の間、一九二〇年代~一九三〇年代くらいのドイツ不況をイメージして書いています。


 執筆時間的な都合であまり資料を使わなかったので、時代背景的なディティールはかなりぼかして書いてます。この辺りは次回への反省としたいところ。

 作品を一つ作るとき、読み手側の知識や想像力といった作品外のリソースをどれぐらい求めるか、といった点で前回(第十回本物川小説大賞参加作「JK侍必殺剣」)指摘をいただいていたので、次回こそは反省を活かしたい……。


* * *


「人物」


・ジルフィア

 「夢破れた傷痍軍人」「鉄の女」「狼の女王レディ・ウルフ

 ちょっと属性にまとまりがなかったかもしれない主人公。

 彼女の人生の沿革は、アドルフ・ヒトラーの生涯をモデルにしています。「芸術家の夢を挫折」「戦争出兵」「演説の才能」「最期」あたりの要素を頂いたくらいなので最終的にあんまり類似性はなくなりました。レディ・ウルフの題名も、アドルフ(高貴な狼、の意)や彼が好んで使っていた「ウルフ氏」という偽名からです。

 「仕事場」での苛烈さ・冷徹さとファニトレに見せる忍耐強さ・穏やかさの二面性が、後半で一気にバランスを崩してあんなことになってしまいます。ファニトレに対して、もう少し普段から自分の意思をきちんと言葉にできていたら、きっと結果は変わったのでしょう。


・ファニトレ

 「ほほ笑むファム・ファタル運命の女」「ヒスイの眼」「女神」

 お喋り好きなお隣さん、といった雰囲気のヒロイン。自身の意思とは関係なく、ジルフィアがけだものの王となるためのすべてをあつらえてしまった人。ちょっと頭の回りが遅いかもしれません。

 本編中でジルフィアがああいった行動を起こすまでは、彼女のことは穏やかでカッコいいお姉さんとしてみていたと思います。拒絶してしまったのも突然の行動に驚いたところが大きく、しっかりと時間をかければ、偏見や障害を乗り越えて良い関係を築くことができたのではないでしょうか。

 また、語り部が最後に語る「ただ一人だけが知る最後の話」「親愛なる墓守」とは彼女のことを指しています。


 ファム・ファタル運命の女という概念が書いてみたかったので、この形に。彼女と出会ったことでジルフィアの人生は上向きに変わったように見えて、実はジェットコースターの登り坂。幸運の女神は気まぐれなのです。本人の意思にかかわらず。


・青年

 なんかこう……君、ただのいいやつで終わっちゃったよね?

 本当はZガンダムのパプテマス・シロッコのように、きれいごとを並べながら心の内で周囲を見下している野心家系のキャラになる予定だったのですが、どんどん出番が削られてあの形に。実はファニトレと彼がすでに付き合っていて……というのも考えましたが実現せず。それでも題名回収の役目だけはしっかり果たしていってくれたので、やっぱ君いいやつだよ。

 ジルフィアの政治基盤は追放した彼のものを引き継いでいる想定なので、史実のちょび髭おじさんが苦労した部分は、ほとんど彼がやったんじゃないでしょうか。また、ファニトレがジルフィアの故郷まで隠遁するのにも手を貸している気がします。


・語り部

 微妙に自己主張が強い人。

 (作中世界の)歴史の上でタブー扱いになってしまっているジルフィアについて調べている、若く、野心の強い、売れない歴史小説家。彼がジルフィアについて調べ、その足跡を追ううちにジルフィアと出会い、最期に打ち明けられた話をもとにレディ・ウルフが綴られた、という設定です。その割には主観な部分が多いですね。若さです、ゆるして。


* * *


 ぱっと思い返して、書いておきたいのはこのくらいです。モデルがモデルだけに、あんまり語らないほうがよかった個所もあるかもしれません。

 せっかくイトリさんがこういう企画を立ち上げてくださったので、ちょっとしたにぎやかしにでもなれれば幸い。また、次の川底で会いましょう!!


 あと、今回は使わなかったけど、「Qoso」とてもよいアプリなんで、皆も使ったらいいんじゃないかな!!


ご清聴、ありがとうございました。

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