第2話 タスク

 その後、俺は長い時間をかけ、パメラと夢の実現について話し合った。


 目的達成のために期間ごとに設けられた目標、それに対してやるべきこと、今の能力で出来ること、足りないこと。パメラの口から、とめどなく流れ続ける質問の数々に、俺の頭はパンクしそうだった。


 そうして出来上がったやるべきリストは、膨大だった。リストに書かれた小さな作業を、パメラはタスクと呼んだ。


 それをパメラに見せられた時、俺は再び眩暈がした。今まで雲のようにふわふわしていた夢が、登頂不可能な山へと変わった気がしたからだ。これを登りきれるのか、不安しかなかった。


 しかしパメラは一言、


「やるべきことが見えて良かったですね。視覚化する事で、夢の実現にぐっと近づきますから」


と言うと、身近な目標を達成するために行うべきタスクを示してきた。


「では明日から、これらタスクに応じて動いていきます。どうぞよろしくお願いいたします」


 パメラはそう言って、立ち去った。

 それが昨日の話だ。


 そんな昨日の出来事を思い出しながら、ベッドの中でまどろんでいると、激しくドアがノックされた。


「……ったく、誰だよ、こんな朝っぱらから……、ってパメラ⁉」


 ドアを開けた先には、昨日のノートを開いたパメラが立っていた。相変わらず無表情で、銀縁眼鏡の向こうにある瞳は、何を考えているか分からない。

 驚く俺を後目に、パメラは眼鏡をくいっと持ち上げると、挨拶をした。


「おはようございます、ログ様。今日のタスクを全て実行する為に、この時間から活動する必要があると判断し、呼びにまいりました」


「こっ、こんな朝っぱらから? まだ少し陽が出て来たくらいの時間だぞ⁉」


 いつもの俺なら、まだ寝ている時間だ。しかしパメラは容赦ない。


「しかし今日は、ログ様には筋力トレーニング、そして郊外にモンスターとの実践トレーニングを行って頂く予定です。昼からは、魔法の適性の検査もありますし、戦況の情報収集もありますから」


 確かに、昨日見せられたタスク一覧に、そんな事が書いてあったような……。


「それなら、早く言っとけよな……」


 突然行動開始だと言われ不機嫌そうにぼやいたが、パメラは俺の失礼な態度に文句も不満も言わず、じっと準備が終わるのを待っていた。


 この日から俺の日々の予定は、全てパメラに管理された。


 彼女はいつも側にいて、冷静で無口で時に毒舌で、俺を容赦なく冷静な分析能力とやらで切り付けて来た。


「そんな事で根を上げてどうするのですか。夢を実現するのでしょう? 姫との結婚生活を想像して下さい」


「うー……、そっ、そうだな。俺は頑張れるっ! まだやれるっ‼」


「その調子です。ではそのまま1時間、その荷物を背負った状態で町の外を歩きましょう」


「……もう頑張れない」


 こんな感じで毎日、提示されるタスクをこなす日々が続いた。


 しかし、大変な思いをしながら彼女の指示通りしているのに、結果は中々現れなかった。


 そんな日々に、だんだん俺は嫌気がさしてきた。


 パメラのやり方が間違っているのではないか?

 俺が思うやり方の方がいいのではないか?


 そんな事を考えながら、少しずつパメラに不満を募らせていった。

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