第1話

 次の日、病室に運ばれてきた朝食を食べていると病室の扉を三回ノックする音が聞こえて来た。

 もしかして、雅楽さんかな。

 そんな事を考えながら「どうぞ」と言うと病室の扉が開いてダークブラウン色の短い髪をした青年が入って来た。青年の左耳には黒い宝石のピアスが付けられていた。

「わぁ、本当に目を覚ましたんですね。一希さん、おはようございます」

「おはよう、ございます」

 挨拶の返事が貰えたのが心底嬉しかったのか青年はふにゃりと子どものような笑みを浮かべた。青年の瞳の色を見て『嗚呼、なるほど』と思った。昨日、雅楽さんは下の名前で呼んで欲しいと言った際、弟が二人いると言っていた。青年は恐らく、雅楽さんの弟さんなのだろう。瞳の色が同じ花笠はなかさ色だ。

「えっと、雅楽さんの弟さんですよね?」

「すごいですね、どうして分かったんですか?」

 雅楽さんの弟さんかどうか確認を取っただけなのに青年はとても驚いたような表情を浮かべて僕に顔を近づけた。

「えと、瞳の色が雅楽さんと同じ色なので」

「観察眼は相変わらずですね! 兄さんと弟が一人居るんですが三人共同じ色の瞳なんです」

 青年はにこにこと微笑みを浮かべて自身の瞳を指差した。取り敢えず、この子はなんて名前なんだろう……。

 一人で困惑していると病室の扉が開いた。扉の方を見ると昨日会ったばかりの雅楽さんが入って来た。

「こら桜都おと、一希さんが困ってますよ。自己紹介はしたんですか?」

「あ、兄さん。自己紹介忘れてた……」

「全くもう。兄さんと昨日の夜約束しましたよね? 今日来たらちゃんと自己紹介するように、って」

「ごめんなさい」

 雅楽さんが叱って桜都と呼ばれた青年はしょんぼりしているところを見ると兄弟らしいと思ってしまった。

「ほら、ちゃんと自己紹介して?」

「うん」

 雅楽さんに促されて桜都さんは僕の方を見て畏まったように、遠慮気味に微笑んだ。

「はじめまして、楪桜都といいます」

「はじめまして、毒島一希です」

 僕は小さく微笑んでそう言うと桜都さんは嬉しそうに笑って雅楽さんの方を見て「兄さん出来た!」とはしゃだ様子で報告していた。というかさっきから見ていたのに。雅楽さんは微笑んで桜都さんの頭を撫でて「よく出来ました」と褒めていた。この場面だけ見ると親と子どもみたい。

 そこで僕は『あれ?』と思った。雅楽さんの弟は二人と聞いていたが今目の前に居るのは桜都さんだけだ。

「雅楽さん、弟さん二人いるんですよね? もう一人は」

「一希さん、さっきから居るよ?」

 何処にいるんですか、と聞こうとすると桜都さんが僕の言葉を遮ってそう言い放った。

「え、何処に?」

「私の後ろに居ますよ」

 雅楽さんはそう言うと自身の背後を指差した。雅楽さんの後ろをよくよく見ると二人よりも若干身長の低い青年が立っていた。

 ブロンドの髪を腰まで伸ばしていて左耳には赤い宝石のピアスを付けていて瞳の色は雅楽さんたちと同じ色をしているので兄弟だとすぐ分かった。

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