第5話 騎士と夜魔祓い
翌日の週末、カリスト父上と、双子の兄カルロスと兄カジョタノ、そして、姉ブランカに連れられ転移の門をくぐり、僕は、商都ミシュコルの武具店を訪れた。母アンドレアと来週に嫁ぐ長女アネシュカと他の姉妹は、じいさまと親戚の挨拶まわりだった。
☆
武具店には、僕が見たことがない、いろいろな武具があった。剱だけではなく、さまざまな長さの槍から、狩りや弓兵向けのクロスボウ、敵に向けて投げて使うのだという短く尖った暗器など。
僕は戦いというものを経験したことはなく、カンデの中にも、戯れ的な稽古の記憶しかない。でも、こうした武具のいずれかを使いこなすことが、このネオガリア連侯国で生きることなのだと思い、父と兄の言葉を聞いた。
最終的に選ばれたのは、ブランカの剣装と似た、長剣と
このトリガリアの地の騎士の
このことを僕は、
「今宵は頃合いだから、夜魔を斬りに行っても良いな。」
と、おっしゃった。
人々の夢や迷いに取り付き、時として躁に時として陰鬱な気分にする夜魔。沼地などの低地に生じるそれは、人に直ちに害をなすものではないのだけれど、人心を乱すものであるがゆえに見過ごし続けるわけにはいかない。領地の夜魔を斬り祓うことは騎士の責務の一つだという。このことも僕は、
☆
再び転移の門をくぐり、日が傾き始めたハースィン村に戻った。父上と兄上に連れられ、姉ブランカと僕は沼地に向かう馬車に乗っていた。
父上は、
「剣の修業をずいぶんと頑張っているブランカにも、夜魔祓いをまだ見せてやれていなかったな。領内や近隣の地に不穏な動きがずいぶんとあって、なかなか家での時間が取れなくてすまないな。」
と言い、父上は姉と僕に頭を下げてくださった。
姉ブランカが、
「とんでもないことです。今日は私達に騎士の務めであるお祓いをお教えいただくこと、ありがとうございます。」
と、頭を下げた。
僕も一緒になって頭を下げた。夕陽がさらに傾く中、僕は斬り祓いというものを見せてもらうことへの関心を強めていた。
二人の従者が、馬車に積まれていた
夕陽が地平線に重なり、暗さを増していく。カリスト父上と兄カルロスは、剣を
すっかりと薄暗くなり、お二人の身体あたりが見えにくくなったところでは、僕の目は、二人が
☆
帰りの馬車で、父上に見たところを聞かれた僕は、見たままを語った。父上は満足げに
「騎士は精霊と共にある。それは精霊に寄りかかってしまうことではなく、共に生きるということ。
聖霊の眼差しを通じ、この目に見えないものを捉え、悪しきものを祓うこともできるのだよ。」
と、父は教えてくれた。兄カルロスは、仮に悪しき精霊使いと対峙することになったとしても、騎士は内なる聖霊の力で、悪しき聖霊からの攻撃を、さらには悪しき聖霊そのものを斬り祓うこともできるのだと言ってくれた。
姉ブランカは僕と同じように、父上と兄の斬り祓う姿に感動していた。
「いつか、あんな風に祓えるようになろうね。」
と、いつになく優しく語ってくれた姉に手を引かれ、僕は家に帰っていった。
夕飯を終え、今日買ってもらった剣装を眺め直した、ブランカと僕は部屋に入ると、レイナが少しさみしげにするのをよそに斬り祓いの真似事をしたのだった。
☆
翌朝、カリスト父上、母上、兄カルロスは、嫁ぐ長兄アネシュカと共に、ライヒスト侯爵領に向かった。留守を預かる兄カジョタノと共に、僕たちはカリスト父上たちをお見送りした。僕は、僕の内なる聖霊をいつか父上に見てもらいたいと思っていた。
カンデ・ラディール=カンクロウのネオガリア戦記 ~最幸の降霊書を泣き祓いし者。~ 十夜永ソフィア零 @e-a-st
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