無意味~♪ 無意味~♪ 無意味ショッピング~~♪

ちびまるフォイ

これが無価値なわけないじゃないか!

無意味~~♪


無意味~~♪


無意味ショッピング~~♪


『さぁ、本日ご紹介するのはこのお水!

 このお水ですがただの水ではございません!

 なんと、ちゃんと消毒されたごく普通の水なんです!!』


『すごい! どこで取れた水なんですか!?』


『○○県の名水でもなんでもない場所のお水です!

 飲んでみますか!?』


『ごくごくっ……うーーん、お水ですね!!』


無意味ショッピング~~♪



深夜につけっぱなしだったテレビでそれを見てからとりこになった。


最初はふざけて購入し、忘れたころに水は届いた。


「やっぱ味とか違うのかな。

 売るからにはそれなりに違うんだろう」


コップに届いた水を注いで飲んでみる。普通の水だった。


「ほんとに無意味なんだな」


かつてどこかの哲学者は「無知の知」などと言っていたが、

お金を使って無意味であることを知ることに価値があるのかどうか。


無意味ショッピングではまた新しいものが紹介されていた。


『今回紹介するのはこの空気循環装置です!』


『部屋に暖かい空気や冷たい空気を循環させるものですか?』


『いいえ、単に吸った空気を下から吐き出す装置です!』


『なんて無意味!』


無意味ショッピング~~♪



「 買 わ ね ば 」


無意味というものに価値を見いだせる自分は

他の人とは異なる着眼点や価値観を持っていると思いたかった。


実際に届いたものはやっぱり無意味で、

でもせっかくお金を使ったわけだしなにかに使えないものかといろいろ工夫した。


ある日、友だちが遊びにやってくると部屋に置かれているものの数に圧倒されていた。


「なんだよこれ。部屋に見たことないものが溢れてるじゃないか」


「無意味ショッピングのものだからね。あ、また届く」


「これ以上増えるのかよ!?」


「見てくれよ。形だけスマホが届いたんだ。

 電話もできないし、アプリも使えない。

 でもこうすれば……操作しているフリができるだろ!?」


「それ……なんの意味があるんだ?」


あきれを通り越して引き気味の友だちに俺は言ってやった。


「あのな、意味がある意味がないでなんでも判断するなんて寂しいことはないぞ。

 昔はそこらに落ちている棒きれだって伝説の剣として価値を見出していたじゃないか」


「それをいい大人がやっているのが問題なんだよ!」


「無意味、無価値だと言われているものに

 自分で工夫して使い方や価値を見出していく。

 これほど生産的なことがほかにあるか!?」


「じゃあ今度うちの生ゴミをあげるよ」

「ゴミはいらぬ」


それからも無意味ショッピングでの買い物は続いた。

もはや商品がなんであれ購入するようになっていた。


無意味なものを買うのに「これは欲しい」「これはいらない」と

自分で判断するのは購入前に無価値だと決めつけているにほかならない。


俺がやりたいのは"無価値を価値のあるもの"に変えることなのだから。


それからしばらくして俺の家がテレビで紹介された。

無意味通販のヘビーユーザーのご愛顧感謝かと思いきやだった。


「見てください! ここが今近所で話題のゴミ屋敷です!

 家主に話を伺ってみましょう!」


俺にマイクが向けられた。


「え……?」


「家主さんですか。どうしてゴミを集めているんですか?

 こんなにものが溢れている場所でどうやって生活しているんですか?」


「ご、ゴミじゃないよ!」


「でもどれも無意味じゃないですか。

 その6本指軍手なんていったいなんの意味があるんですか?」


質問形式ではあれど、頭のおかしい人として蔑む感じがあった。


「あんたらには無意味には見えるかもしれないけど、

 ここにあるものは全部俺なりに意味や価値をもたせたものなんだ!

 あんたらになにがわかってたまる!」


「でたーー! ゴミ屋敷の家主あるある! そういうのもっとください!」


「必要かどうかだけが価値のすべてじゃなっ……ごほごほっ! ごほごほごほっ!」


「あ、だ、大丈夫ですか? あおりすぎましたか?」

「ごほごほごほっ! げほっ……」


「きゅ、救急車ぁーー!!」


病院で目が覚めると医者からきつくお灸をすえられた。


「あなたのことはテレビで見ましたよ。

 あんなにものが溢れている場所で生活するのは体に悪いんです」


「そうは言っても、自分で価値をもたせたものを今になって捨てるのは

 自分が見出した工夫や利用価値を否定するような気がしてしまって……」


「それにあなたは重度の無意味依存症です。

 無意味なものに傾きすぎています」


「いやいや、俺が変なんじゃなくて、

 価値のあるものだけを集めようとするみんながおかしいんですよ」


「普通の人間はより便利で豊かなものを求めるんですよ」


「道端に転がってる石ころにドラマを与えるのがそんなにおかしいことですか?」


「もういいです、それにあなたはこの会話で終わりがないこともわかってるでしょう。

 会話を長引かせてこの無意味な時間を楽しもうとしている」


「あバレました? 毒にも薬にもない、そんな会話が好きなんです」


「あなたには緊急治療を受けてもらいます」

「え?」


「仮に強引にあなたの無意味コレクションを捨てたとしても

 あなたはきっとまた無意味なものを集めてしまうでしょう。

 それでは根本的な解決にならない。だから治療します、あなたのために」


「それは……意味があることなんですか?」

「意味しかないです」


「いやだーー! 俺は治療なんかしたくないーー!

 無意味に価値をもたせることで心が豊かになった気がしてるんだーー!」


「歯医者に来た子供じゃないんだから腹くくってください!

 あなたのその病気のせいで迷惑している人もいるんですよ!!」


必死の抵抗もむなしく俺は緊急治療を受けることになった。

治療は筆舌に尽くしがたいほどの過酷で非人道的なものだった。


治療が終わるころ、鏡で見た自分の顔はまるで別人だった。


「それでは、本当にあなたの病気が治ったのかテストします」


「はい」


「これは、あなたの家から持ってきた無価値の水です。

 今この場でこの水を捨ててください」


「もう覚えてないんですが、それって何か特別な水なんですか」


「いいえ、ただの水です」


「はあ?」


受け取ったペットボトルの水を捨てた。なにも感じなかった。

むしろどうしてこんなものを溜め込んでいたのかが不思議に思った。


「これでいいんですか」


「おお! 治療は成功だ! ではこちらは!?

 これは空気を吸って出すだけの機械です」


「どう考えてもいらないでしょ」


迷いなく捨てられた。


無意味なものに溢れて体を壊してしまうのだったら、

それは無意味どころか有害じゃないかとさえ思う。


「おめでとうございます。あなたは完全に正常に戻りましたよ」


「あまり"治った!"って感じはないですが……」


「いいえ、たしかに治っています。

 あなたはもう無意味なものに価値を感じることはありませんよ」


「それはよかったです」


家に帰してもらえると、引っ越ししたてのように何もなかった。

治療中の間に溜め込んでいた無意味コレクションは捨てられたのだろう。

むしろ捨てる手間が省けてラッキーだった。


「よし、必要なものを買ってこよう」


空き家同然の家から出て買い物に向かった。

街ではギラギラした看板でたくさんの物が売られていた。


『超高画質! 16K対応の最新テレビを見よう!』

『お湯を入れると色が変わる不思議なマグカップです!』

『本体の熱でパンが焼ける最新スマートフォンをご紹介!』

『着るだけで痩せたりマッチョになれる最新強制下着!』

『アイドルのステッカーが入ったCDなしCD!かさばりません!』

『今若い女性で大流行中のトレンド洋服セットがあります!』




「……必要なものって、なんだっけ?」


俺はなにも買えなかった。

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