グッドモーニング!
宵埜白猫
朝日と紅茶と君
窓の横にカーテンがまとめられていたせいで、一切の遠慮なく朝日が僕の顔に降り注ぐ。
目を閉じていても分かるくらいの白が、もう朝だと告げてくる。
広すぎるベッドの中で、ゆっくりと目を開けて隣を見る。
君は早起きだった。
いつも僕よりも早く起きて、カーテンを全開にする。
そして、花が咲いたような笑顔で笑いながら、
「おはよう!」
まどろんだまま、そんな君におはようと返すのが日課だった。
君と一緒だった昨日までは。
いつかこんな日が来るのは分かっていた。
でも、こんなに早いとは思わなかったんだ。
昨日のお昼、買い物に出かけた君に居眠り運転の車が突っ込んだ。
僕が駆けつけるよりも早く、君の命は消えていた。
最後に言葉をかわすこともできずに、ただ下を向いて家に帰った。
君がいないこの家は、いつもの何倍も広く感じた。
そして、ふらふらと家の中を歩き回っていたら、色んな所に君のメモ書きを見つけたんだ。
買い物のリストや、洗剤の分量、まだ年も明けたばかりなのに予定でいっぱいのカレンダー。
そんな何気ない君の字に、まだ日常は続いてるんだと勘違いして、勘違いしたくて、いつもと同じようにベッドに横になる。
これは全部夢で、目が覚めたらまた君の声が聞こえるんじゃないかと思っていたけれど、ベッドの横には家中から集めた君の文字が散らばっているだけで、君の声も姿ももう見つけられない。
のそのそとベッドから抜け出して、棚からカップを二つとポットを出す。
お湯を沸かして、ポットにティースプーン2杯分の茶葉を入れる。
沸いたお湯をポットに入れて、残ったお湯でカップを温める。
砂時計をひっくり返して3分。
いつもはすぐに落ちる砂が、今日はゆっくりと落ちているように感じた。
淹れた紅茶を2つのカップに注ぎ、1つは机の反対側に、もう1つはすぐに口を付けて、喉を潤す。
やっぱり君ほど上手く淹れられないな。
紅茶を飲んで、手早く着替えを済ませた後、コートを羽織って玄関のドアノブに手をかける。
君がいない世界でも、朝は勝手に来るらしい。
だから僕は、机に並んだ2つのカップを振り返って、
「行ってきます」
まだしばらくは引きずるだろうけど、下を向いてばかりもいられない。
開かれたドアから、今の僕には眩しすぎる朝日が流れ込んできた。
グッドモーニング! 宵埜白猫 @shironeko98
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