終章 その後のあれこれ

 その後、焔だけ納めた徹斎は、海沿いの堤防に足を踏み入れた。

 目の前の釣具店で、お金を出してバケツ一杯の撒き餌を買う。

 バケツを提げて、堤防で一人釣り糸を垂れる浮浪者に向かっていく。


「よう、終わったぜ」

「さようか」


 見上げた顔には、目がひとつしかなかった。


「意外にヤバい感じだったなぁ。下手すると第二の弼馬温ひつばおんが誕生してたかもしれないぜ」

「ふむ……それほどとは見誤っていた。貴様の宝貝の影響かね。かの孫悟空と並ぶとは、並大抵の評価じゃ無いが」

「風水の類を高水準で修めてたんだろうさ。それに白面公主―――骸骨の王と名告っていたのも関係あるのかも。骸骨ってのは土とはよくなじむ」

「なるほどな……」


 徹斎が柄杓ひしゃくで撒き餌を撒く。

 すぐさま竿がしなって、青坊主はリールを巻き始めた。

 釣り上がったのは、立派なスズキ。

 針を抜き、予備の針を引っかけて、徹斎に投げて渡す。


「ほい、捌いて食うがいい」

「ありがとよ」


 後ろ向きに手を振り、徹斎はその場を後にした。





 中華街の中心。

 雑貨屋に徹斎が顔を出すと、店主の他に、二・三人の人間が言葉を交わしていた。それぞれに三人ずつ程度、護衛らしき人間が張り付いている。


「おうおう、雁首がんくびそろえて悪巧みかい?」


 ニヤリと笑って、冗談を飛ばす徹斎。実質的に冗談ならない発言に、顔をつきあわせていた老人達が苦笑いする。


「鉄鋼主君、あなたの広げた波紋について、後始末の相談をしていたんですよ」

「有力な組織がひとつ、壊滅してしまった」

「もう一度パワーバランスを調整しなければ、この街はひっくり返ってしまう」

「……談合か。冗談が冗談になんねーのが一番笑えねぇ」


 苦笑いを返した徹斎は、店主に向かってスズキを見せつける。


「これ、今回の一件でもらったヤツだからよ、みんなで食おうぜ。あとそこの菓子屋で桃饅ももまん買ってきたんだよ。これもどうだい」


 ため息をついた店主が、それらを受け取る。


「皆様あがってください。これでは話になりませんでしょう」


 ため息をつきながら、全員が奥にあがる。

 長い話し合いのはじまりだった。





 その頃、天界では千里眼せんりがん順風耳じゅんぷうじの二人が、天帝に報告を奏上しているところであった。


「ご報告申し上げます。現世にて猛威となりかけていた白面公主なる邪仙、かの鉄鋼主君に討ち取られたこと、この目でしかと確認いたしました」

「ご報告申し上げます。白面公主は鉄鋼主君により、完膚なきまでに叩きのめされた後、力の源たる宝貝を取り上げられ、驚異たり得なくなったこと、この耳でしかと確認いたしました」


 御簾の向こうから、天帝が二人に話しかける。


「……さようか。もうよい、下がるがいい。武官の皆々には、念のため下界に降りてきゃつめを捕縛するようにだけ伝えよ」

「「かしこまりました」」


 二人が下がった後、天帝はしばらく動かぬままだった。

 視線や詳細は御簾で遮られ、伺うことはできない。

 今日も天体は、平常運行するのだった。





 デカイ面して地上を闊歩する薬学・鍛冶・細工の達者『鉄鋼主君』を捕り逃した武官達が、あわや反乱を起こしかけたというのはまた別のお話。

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酔っ払った仙人がやらかすとだいたい大事件になる(定期) 竜堂 酔仙 @gentian-dra

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