【旅立ち】

 「あなたは誰ですか...?」

け、け、け、ケモ耳!!!!や、やべぇ...この世界にはケモ耳種族までいるのか...

あぶねぇ...理性と語彙力がどこかへ吹き飛ぶとこだった。いや、語彙力は一瞬吹き飛んだか...

 「僕はリム。君は?」

 「...私には名前がありません。売られたときに名前との繋がりが切れましたから。」

?名前との繋がりが切れる?どういうことだ?というか売られたって...この世界にも奴隷とかいるのか...

 「そうか。嫌なこと聞くかもだけど、君はここの盗賊団に買われたの?ほかの人とかはいるの?」

 「いいえ前のご主人様に捨てられ盗賊に攫われました。みんなはあのゴブリンたちに襲われてしまいました。」

 「そうか...」

盗賊たちはともかく、何の罪もない人まで...

 「君は大丈夫?怪我とかしてない?」

 「はい。大丈夫です。なぜかあのゴブリンたちは私のほうには来なかったですから。...襲う価値もなかったんですかね。」

 「...ま、まぁ助かったんだしよしとしようじゃないか。」

気になることがいっぱいあるが、今考えても分からないので、考えるのをやめた。

 「とりあえず外に出ようか。今、手錠をはずすね。」

 「はい。,,,でもいっぱい鍵がありますけど...」

ジャラ...

確かにさっきは一発で牢屋のカギを開けられたが、よく見るとたくさんカギがある。

 「...まぁ、さっきもすぐに開けれたし、今回もすぐに開くだろ。」


十分後...

 「んあぁぁ!カギが多すぎる!誰こんなに作ったの!100%こんなに必要ないだろ!」

 「...大丈夫ですか?」

 「だ、大丈夫...もう少し待って」

助ける対象に心配された。こうなったら第六感で!!

 「これだぁぁぁ!」

カチッ

!!開いた!!

 「ぃよっしゃぁぁぁ!」

 「た、助けていただきありがとうございます。なんとお礼を言っていいか。」

ん?ちょっと引かれた?

 「気にしないで。それより君はこれからどうするの?」

 「どうしましょうか。行くあてもありませんし。」

女の子が一人でなんて絶対生き残れない。ましてや武器もない。魔物もいるし盗賊だっている。殺されるか、また捕まってしまうのがオチだ。だからと言って僕がどうしてあげることもできない。僕だって居候で家なしのようなものなのだから。

...居候?

 「そうだ!君!僕についてきて。村の村長に住まわせてくれるか頼んだみるから!」

 「いいんですか?」

 「いいの!僕は死ぬ思いをしたんだ。少しくらいお願いもきいてくれるでしょ。」

 そうだ。僕は死ぬ思いをしたんだ。少しくらいお願いを聞いてくれてもいいじゃないか。てか聞かす。

 「そうと決まれば村に戻ろう。」

 「はい。えと...」

 「僕はリム。カミクラ・リム。君は?」

 「はい。えっと、私には名前がありません。」

おぉう...せやった...

 「よろしければあな、リ、...あなたが付けてくださいませんか?」

 あな、リ?呼ぶのに抵抗があるのかな?まぁ、会ったばかりだし仕方ないか。

 「いいの?こんな見ず知らずの人に付けてもらって。」

 「はい。あなたは命の恩人です。だから付けてくださるならあなたがいいです。」

お、命の恩人か。なんだか嬉しいな。

 「そうか。なら僕が付けさせてもらうね。」

どうしようか。人の名前だしな。慎重に決めないと。

えーと。どしよ。名前を付けるのは苦手だ。飼っている猫も思いつかず白猫の白になったし。必死に考えていると、風が吹き彼女の髪を撫でた。

 「...うん。よし。じゃあ君はシルヴィアだ。」

 「シルヴィア...ありがとうございます!この名前大切にします!!」

銀髪少女もといシルヴィアはそう言い、僕たちはツクの村に歩き始めた。

シルヴィアのきれいな銀色の髪をきらめかせながら。


____________________________________


 「と、いうわけで。もう一人増えました!」

 「何がというわけでじゃ。」

ツクの村に戻った後、村長の家に行きシルヴィアも居候させてくれるよう頼んでみた。しかし結果とても渋い顔をされた。

 「だめか?一人くらい。」

 「おぬし忘れたのか?今この村はとても厳しいと言ったと思うのだが。」

そういえばそんなことも言ってたな。

 「でも女の子を魔物や盗賊がいるところに一人で行かせるわけにはいかないだろ?」

 「そうじゃが...うぅむ。」

実際今のこの村には僕一人居候するだけでも厳しいだろう。だけどこの子を放っておくわけにはいかない。なんとかしなければ。でもどうすれば。

 「分かった。じゃぁ僕が出ていく。」

 「なぬ。」

 「駄目です!私なんかのためにそこまでする必要はありません!しかもあなたはあの洞窟で武器が壊れたじゃないですか!手ぶらのまま外に出るなんて自殺行為です!」

 しかしそれ以上どうしようもない。死んだらそこまでだが、僕はなぜか無事でいられる自信があった。

 「もともと僕はすぐに王国に行く予定だったんだ。だから大丈夫。武器はまた貰うよ。」

 「勝手に貰うことにするな。」

 「しかし...」

シルヴィアの言葉が濁る。

 「僕が助けた命大切に生きて。」

 「...」

シルヴィアは黙ったまま奥の部屋に行ってしまった。

 「いいのか?」

 「はい。なので武器をください。」

 「おぬしな...まぁよかろう。今日も泊っていくがよい」

 「最後まですみません。ありがとうございます。」

心からお礼を言った。急に来た僕を受け入れてくれ、ご飯や寝床まで提供してくれた。死ぬ思いをしたとはいえ、感謝してもしきれない。なので最後くらいは心から感謝を。

 「今更かしこまるな。気持ち悪い。」

前言撤回。適当でよかったかも。

それでも今日の食事と寝床も与えてくれたからいいか。でもその日あれからシルヴィアと話すことはなかった。食事の時も何かを考えているようで、話しかけても反応せず。会って間もないが最後なので話しておきたかった。うぅん...まぁ、この子が元気でいてくれるならそれでいいか。


そして夜が明けた。


てれれれてっててーん


____________________________________


朝起きてすぐに村長が部屋にやってきた。てか起きたというより起こされた。くっそ早い時間に。しかし内容はうれしいものだった。なんと服をくれた。紺をベースにした革装備だった。こっちに来て元の世界の服しかなかったから助かった。そしてその後朝食をとった。

 「リム。この後私の部屋に来なさい。渡すものがある。」

そう村長に真剣な顔で告げられ朝食後村長の部屋に向かった。

 「渡すものってなんですか。村長。」

 「うむ。少し待っておれ。」

そう言い村長は棚にある本を引っ張った。すると棚は動き、階段が現れた。

なにその技術、すご

 「着いてきなさい。」

そう言い村長はその階段を下っていく。それに恐る恐る着いていくと、小さな部屋に着いた。とても暗いが中心だけが光に照らされている。そこには一本の短刀が置いてあった。

 「おぬしにはこれをやろう。」

 「なんですか?これ。」

 「この村の秘宝のようなものじゃ。」

秘宝か。...え、でもこれをやろう的なこと言ってなかった?

 「秘宝なんてもらえないですよ。」

 「いいのじゃよ。この村の言い伝えでな。この村の危機を救った変な格好の少年にこの刀を渡すように代々わしの家系に伝えられていたのじゃ。」

村長はそういうと、その短刀を手に取り渡してきた。ん?今変な恰好って言った?この人。そう思いながら、その短刀を受取ろうとするが手が止まる。ようやく異世界召喚系のような展開にワクワクしているが、同時に不安もあった。なんせ、代々伝わっていた秘宝を託されそうになっている。魔王を倒せ的なことを言われるのだろうか。

 「なんじゃ。受け取らんのか?」

 「だってなんか魔王倒してこいとか言われそうなんで...」

 「言わぬわ。何人いると思っておるんじゃ。」

なぬ。

 「言い伝えではただ渡せとしか伝えられておらぬ。もらった後はおぬしの好きにせい。」

 「じゃぁもらいます。」

 「おぬしなぁ!」

短刀に触れた瞬間目の前が真っ暗になった。ん?呪い?あのじじぃふざけんなよ?

とか言ってる場合じゃねぇ!

 「おぬし。」

ん?幼女っぽい声?

 「おい!無視する出ない!おぬし!」

そぉと振り返り目線を下におろす。

 「やっとこっちを見たか。」

 「うぉ!びっくりした!幼女?!」

そこにいたのは和服を来た幼女だった。

 「なんじゃ、騒がしい。」

その幼女は顔をしかめて迷惑そうに言った。

 「そりゃぁこんな真っ暗の中に急に人が出てきたらびっくりするでしょ!」

幼女はそのまま顔をしかめなが続けた。

 「ここに来たということは、おぬしは異世界から来たのじゃな?」

 「君は僕が異世界から来たって分かるんだね。」

 「さっきも言ったろう。ここに来たということはと。この場所に来ることができるのは異世界から来たおぬしだけなのじゃ。」

ん?どゆこと?

 「なにも難しいことなど言っておらんじゃろ。そのまんまの意味じゃ。」

 「いまさらっと心の中読んだね?」

全部筒抜けかよ。モラルもクソもないなここ。きゃはずかし。

 「くだらぬことを言っておらぬで次の話に進めるぞ。」

 「あ、はい。」

そのまま幼女は淡々と話す。

 「まずおぬしには世界を回ってもらう。」

 「ほうほう、そのまま魔王を倒せと。」

 「たわけ。何人おると思っておるんじゃ。」

村長と同じ突っ込みをされてしまった。

 「じゃぁ、僕に何をしろと。」

 「この世界を救ってほしい。」

やっぱり魔王を倒すんじゃん!

 「何も倒すだけが解決する方法ではない。」

なんか難しい話をし始めた?

 「そもそもおぬしにあいつを倒せるとは思っておらぬ。いろんな意味でな。」

 「どういうこと?」

 「それはどうでもよい。とにかく、世界をまわり、世界を見て、この世界をよりよい方へ持ていってくれ。」

どういうことだ?元凶を叩けば終わりじゃないの?

...いや、父さんも言ってたな。世の中にはいろんな正義があると。見方を変えろって。

 「...うん。分かった。世界をまわって、自分なりにこの世界を救ってみる。」

 「よく言った!それでこそおぬしじゃ!」

 「僕を知ってるの?」

 「いやこっちの話じゃ。これから先いろいろな者に出会うじゃろう。出会いを大切にし、仲間を作り、仲間と協力し、世界を救ってくれ!」

いろいろ長かったけど、ようやくここから異世界召喚っぽくなってきた。

...ここから、僕の物語が始まるんだ。

 「そういえば君の名前は?」

 「ワシか?ワシは、いや今から手にするこの刀の名は...」


ツクヨミ、小太刀月詠こだちつくよみじゃ!

よろしくな!リム!

幼女は、ツクヨミは最後に満面の笑みを見せた。とてもうれしそうな笑みで暗闇に消えていった。


____________________________________


 「じゃぁ、行ってきます!」

 「おう。気をつけてな。」

あの後、月詠を受けとった僕はこの後の方針を村長に伝えた。

世界を旅して見て回ること、さすがに世界を救うとかは言えなかった。

...言ったところでなにかいじられそうだ。

たった三日しかいなかったけどずっとここにいたような感じだ。

 「シルヴィアのことよろしくお願いします。」

 「任せておけ。」

結局あれからシルヴィアとは話せなかった。本当はもっと話したかったけど...

生きていればまた会えるさ。

 「それじゃあ、お元気で。」

最後のあいさつをし、村を出ようとした時、

 「待ってください!」

生きてまた会うと決めたばかりの少女がこちらに走ってくる。

 「リムさん。迷惑なのは分かっています。でも、助けてくれたこの命、最後まであなたといたいです!どうか、どうかわたしを連れて行ってください!」

どうしようという顔で村長を見る。

 「リム、おぬしはここいらのことが分からぬじゃろ。この子にいろいろと聞いてみてはどうじゃ?」

 「いえ、私もここら辺のことはちょっと...」

村長の提案を否定するのはまさかのシルヴィアだった。

村長、策破れたり。

 「...この旅は100%危険な旅になる。あの時のゴブリンなんかよりもっと強い魔物と戦わないといけなくなるかもしれない。それでもついてくるのかい?」

 「はい。私は行く場所がありません。あの時死ぬ運命でした。でもそれをあなたは救ってくれた。名前を付けてくれた。だから、次は私があなたの力になります!」

昨日あの後からずっと考えてくれてたんだ。...出会いを大切に、か。

 「よし!一緒に行こう!」

 「ほんとうですか!!」

心底うれしそうな顔。かわいいなぁ...

 「でも、僕も強いわけじゃない。次は君を守り切れないかもしれない。それでも来る?」

 「はい!」

 「あの...ご主人様とお呼びしてもいいですか...?」

 「ご主人様はちょっと...」

そんなこんなで僕に初めての仲間ができた。その瞬間視界の左上にメッセージのようなものが表示される。


       |シルヴィアをパーティに加えました。|


待って!そんなゲームみたいなのあるの?!そんなことに驚きつつ僕たちの冒険が始まるんだった。




____________________________________


 「行ったか。」

村長は顔をしかめ、今旅立った騒がしかった客を見つめる。

 「次こそこの世界を救ってくれ。アスクレピオス。いや、リムか...。」

そう言い残し村長はその場を後にした。



____________________________________




...一時間後。


 「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 「すみません、ご主人様。完全にお荷物になってしまいました。」

 「気にしないで!僕なんてなにもできてないから!」

僕は今シルヴィアを抱えながら全力で走っている。追われている。ゴブリンや、オークよりも恐ろしい魔物に。

 「マジ無理!無理!無理!無理!無理!無理!無理!!!!」

そう叫びながら走っていると、つまずき転んでしまう。その間にどんどんその魔物は近づいてくる。

 「来るなぁ!!!!!!!!!!!」

そう情けない声をあげていると目の前で魔物が真っ二つになる。そしてから出た体液をもろに食らう。そしてその向こうから、

 「あなたたち大丈夫?」

黒髪の巫女姿の美少女がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありきたりな異世界召喚?! kurimu @kurimukuran

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ