【銀髪の少女】

長剣の柄を強く握る。緊張が走り足が震える。

それを見て緑色の肌を持つ人型の生物は不敵に笑う。

 「笑ってんじゃねぇぞ。」

 「ウギャァ!!」

戦い慣れていない今では勝ち目は薄く、しかし退路を塞ぐかのように後ろから

ぞろぞろとその生物の仲間が出て来る。

 「まずいな...」

絶体絶命だ。聞いた話ではこんなやつらがいるなんて聞いてなかった。

マジでここで死ぬのか?!

昨日あの後村長の家に行き町の滞在のことを相談しに行った。

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 「ここか。」

最初の村人の所から言われた通り真っ直ぐ進むと大きな家にたどり着いた。

 「すみませーん。」

ゲームだと普通に入っていくがこれは現実なのだ。そんなことはできない。

しかし返事がない。

...いないのかな。恐る恐る扉を開けてみる。

 「すみませーん!誰かいませんかー!」

その時

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 「?!」

家の中から叫び声がした。ただ事じゃなさそうなので急いで家に入り声の主を探す。大きくてもそこまで広い家ではなかったのですぐに見つけた。そこにはうずくまっている老人がいた。

 「大丈夫ですか?!誰かよんできますか?!」

 「......た。」

ん?聞こえなかった。

 「大丈夫ですか?!」

 「...小指...ぶつけた...」

 「...」

しばらくした後村長は復活した。

 「いやぁ、すまんかったな!誰か来たので出ようとしたら机の脚に思いっきりぶつけてしまってな!」

 「よかったです。てっきりどこか悪いのかと。」

 「はっはっ!まだそんな年ではないさ!」

元気だな...この人...

そのあと村長に事情を説明し、しばらく滞在させてほしいことをお願いした。

異世界と言っても信じてもらえないだろうし、そこは割愛した。

 「なるほど。君も不幸だね。ここ最近魔物や盗賊たちの動きが活発になっているからね。」

村長の話によるとこの世界には魔王が複数存在し、そのうちの一人がこの世を征服しようとしているそうだ。ほかの魔王もそうはさせまいと動いているそうなのだが征服しようとしている魔王は魔王の中でもトップクラスの強さらしく、ほかの魔王も手が出せないそうだ。その結果魔物たちは動きが活発になり、盗賊たちもそれに便乗し動きを活発にしているそうだ。

 「君をこの村に滞在させたいのは山々なのだが、最近この近くの洞窟に盗賊が住み着いてしまってね。金品を奪われていくので厳しいんだよ。」

 「そうですか...」

 「そうだ君!旅人なら少しは腕が立つのだろ?よかったら退治してくれないかね。そうすればしばらくこの家を使わせてあげよう。」

 「えぇ?!」

父との旅で剣術を教わったことはある。向こうなら大人複数人でもある程度戦えるだろう。しかしこの世界は僕のいた世界とは違う。魔物もいるので盗賊も剣で戦う術を心得ているはずだ。そんな相手に勝てるだろうか...

 「そこのやつらは盗賊といってもチンピラに毛が生えた程度だ。戦えぬわしらにはどうにも出来ぬがおぬしならどうにかなるじゃろう。」

 「何を根拠に言っているんですか?!」

 「勘じゃ。」

勘?! でもここにいるにはそうするしかないし、現状この村の人たちも困っている。...どうにかしてあげたいが。

 「近くに城がありますよね?そこに救助を求めればいいじゃないですか。」

 「言ったじゃろ。今は魔物が活発になっておる。騎士団も冒険者もそっちのほうでいそがしいのだよ。しかもこの依頼を受けねば君はここにはおれぬのだぞ?」

ほぼ強制じゃねぇか。このじじい人が無一文家なしなのをいいことに...

 「頼む。頼れるのはおぬししかおらぬのだ。武器もこの村で一番のものをやる。だから...どうか頼む。」

村長は深々とあたまを下げる。

「...はぁ。分かりました。その依頼僕が受けます。」

トップが一人の男がみんなのために頭をさげているんだ。断るわけにはいかない。

 「その代わり約束通りこの家を貸してもらいますからね。」

 「そうか!受けてくれるか!ならよし、少し待っておれ。」

そういうと村長は家の奥に行ってしまった。しばらくすると奥から村長が出てきた。

 「これがこの村で一番の長剣じゃ。持っていくがよい。」

 「ありがとうございます。では明日にでも向かいます。」

 「そうかそうか。では今日は存分に英気を養うとよい。」

それから村長の奥さん、息子を加えて夜食をいただいた。この世界の食べ物は向こうとあまり変わらないみたいだ。

そして夜が明けた。


て~れ~れ~れ~てってって~ん


朝になり村長たちの見送りをうけた後、僕はすぐに洞窟に向かった。

途中道に迷ったりしたが、無事目的地に着くことができた。

 「着いたはいいけど、どうしような。」

戦えたとしても追い払うぐらいでいいよな。殺すとか嫌だし。

 「とりあえず侵入だ!」

村の人たちと自分の明日の寝床のために気合を入れ、洞窟の中に足を踏み入れた。

しかし変だな。いくらチンピラに毛が生えた程度とはいえ、入口に見張りくらい置いとかないか?それとも僕の存在に気づいて中に知らせに行ったのか?中で戦う準備とかされてたら面倒だぞ。

 「てか、人の気配まったくしないな。もういなくなった後とか?だったら楽だな~。」

最近まで被害があったからそんなことないと思うけど。

そんなことを思っていると、異変に気付く。

 「なんかくさいな...鉄の臭い?」

足もとでベチャという音がいたので思わず下を見る。

 「?!」

そこには真っ赤な血で水たまりができていた。改めて周りを見渡し目を凝らすと、

 「うわぁぁ!!!!」

まわりには、変な方向に腕が曲がっているもの、首がないもの、腹に食われた跡があるものなど、たくさんの死体が転がっていた。

 「うっ...」

思わず嘔吐いてしまうような光景が広がっていた。

 「なんだこれ。ここで何があったんだ...」

その答えはすぐに奥からぞろぞろと出てきた。緑色の肌に小柄な人型、体は腰ミノのみを装備し、手には不格好に削られた棍棒。ゲームで見たことある。あれはゴブリンだ。

 「なんでゴブリンが?!」

?!魔王の影響か!

 「ギェヘヘッ」

気持ち悪い笑い方しやがって...

 「ギャァァァ!!」

ゴブリンどもは棍棒を握りしめこちらへ向ける。

完全にこちらを殺す気だ。

 「殺るしかない...殺らなきゃ僕が殺られる...!」

震える足を叩き気合を入れる。

 「ギャァァァ!!」

 「やってやる!来るなら来やがれ!全員駆逐してやる!...一匹残らずな!」

____________________________________________________________________________


あれからどのくらい時間がたったのだろう。敵からの攻撃を受けることなく何体か殺したが相手が多くなかなか終わらない。それどころか疲労で集中力が切れ、足も震える。このままではさすがにやばい。手に持つ長剣の柄を強く握る。その様子を見ていた一体のゴブリンが不敵に笑う。

 「笑ってんじゃねぇぞ...!」

ちらりと後ろを見ると退路を塞ぐかの様に敵のゴブリンが出てくる。

 「まずいな...」

 「グギャァァァ!!!」

一体のゴブリンが叫びながら突進してくる。それを交わし長剣で切りつける。その時。

 「のわっ!」

血だまりで足を滑らせ態勢を崩してしまった。そして。

 「があぁぁっっっっ!!!!」

背中に鋭い痛みが走る。振り返るとそこにはサーベルを持つゴブリンがいた。

 「ぎぇっへっへ」

 「ぐっっっ!」

あまりの痛みに膝をつく。その隙を逃さずゴブリンたちは一斉に攻撃してくる。

 「っっ」

殴られ、切られ、吹き飛ばされる。もはや全身の感覚がなく痛みも感じなかった。力が入らなくなり地べたに転がった。着ていた制服はぼろぼろになっている。

(あぁ、もう死ぬのか。)

そう思った時、目の前に光るものを見つけた。霞む目を凝らしその正体を探る。

 「?!」

それは、紺色の石にリングに星の模様が刻んである見覚えのある指輪だった。その指輪を見た瞬間、自分が自分でないような感覚に陥った。そして

自分ではない記憶が頭に流れ、いつの間にかその指輪を右手中指にはめ、フラフラになりながら立ち上がり、記憶にないことを口にしていた。

 「こんなとこで死ねねぇよな。約束したんだ。あいつを止めるって。」

力が湧く。

 「こんなところで死んでたまるかよ!!!!」

その時、

 |儂を使え|

声が聞こえた。その瞬間頭に文字が浮かんだ。力を振り絞りその呪文のようなものを詠唱した。

 「あるじたる我が命ずる。まことの名を解き放ち、その力を我に授けよ。獅子宮、真の名をLeo《レオ》」

詠唱が終わった瞬間、持っていた長剣と指輪が光輝く。長剣は刀になり、髪は白く腰まで伸び、後ろで結ばれた。服は白一色の羽織になった。力が湧く。恐怖も感じなくなり、今ならこの状況を打破できると確信した。

 「ンギギィ...」

 「さぁ!第二ラウンドと行こうか!雑魚共!」

 「ンギャァ!!!」

ゴブリンたちが突っ込んでくる。だがそのスピードは遅く見えた。

 「遅ぇ!」

変化した刀でゴブリンを一掃する。攻撃をすべて見切り、的確に攻撃を当てていく。その場すべてのゴブリンを倒すと、奥から自分の二倍はあろうかという緑の巨人が出てきた。

 「トロールか...!」

トロールはこちらを見ると手に持つ大きな棍棒を振り上げた。

 「ンガァ!!」

 「力の差が分からないとは悲しいな...」

ぼそっとそのように呟き、刀を鞘に戻し腰を落とし柄を持ちかまえる。

 「消えろ。斬鉄...!」

一瞬で刀を抜きその巨体を斬りつける。次の瞬間その巨体は崩れ落ちる。刀の血を落とし鞘に納める。

 「ふぅ」

呪文の効力が切れたのか元の姿に戻る。一気に疲労が来るがなんとか耐えた。

周りを見渡すと来た時よりすごいことになっていた。そりゃぁもうすごいことになってる。

 「うわぁ...」

若干引きつつ奥に進むと鉄格子が見えた。そこらを見ると鍵が落ちてたので開けてみた。

するとそこには、

 「ケモ耳ッッッッ!!!!!!」

ケモ耳の銀髪少女がいた。

 「誰ですか...?」

えと、うん、ごちそうさまです。

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