第2話
「そ、そういえば!」
「ど、どうしたんだね!」
博士は突然の助手の大きな独り言に驚いた。
「そういえば、この前博士が私を口説いたせいで忘れてまたけど、月の謎がまだ解けてないですよね?」
「え?そうだっけ?」
「そうですよ、なぜ月が太陽と同じ見た目なのかとか、なぜずっとこちらを向いてる面とその逆の面があるのかとか……まあ基地を隠すためって理由があるかもしれませんけど、なぜ隠す必要性があったのか?とか?」
「なるほど、確かにそうだったかもしれない、まず、なぜ見た目が太陽と同じかと言うと、それ以上大きくならない様に法律で決められていたからって事だと書いてあった」
「法律で?」
「その昔も超科学と宗教が混在していて、宗教の多くは太陽を神としていたのでそれより大きなものを作ってはならない、完全に遮ってはならないという……法があったらしい」
「なるほど」
「そして月の向きが常にこっちを向いているのは、もうひとつの意味があったらしい」
「もうひとつの意味?」
「それは地球上の人類を支配する為だったという記述がある」
「ええ!月の人はゴミステーションの管理人じゃなかったんですか?」
博士はうんうんと頷いた。
「最初はそうだったんだけどね……どうやら変わっていったらしい」
「変わったというと?」
「つまり革命が起こったんだよ」
「革命?」
「月はある時を境に非常に立地条件のよい場所として世界中が奪い合う様になったのだよ」
「なぜなんです?」
「そりゃ、ロケットの発射場所としてこれ以上の場所はない事に各国が気がついたわけだ」
「ロケット?」
「そう、ロケットだ、地球の6分の1の重力だからそれだけ打ち上げる燃料はいらないし、もし地球を狙うんなら大気圏さえなんとか突破すればあとは地球の重力が勝手に引っ張ってくれるからね」
「ほんとだ!」
「だから世界中の核保有国が月に発射台を造りたがったのだが……そこで革命が起きて、核兵器ごと月の住人に取られてしまうことになる」
「なるほど、虐げられていた月の人々が反乱を起こした訳ですね」
「そこからは月の住人に逆らうことはできなくなる、何せ常に月はこちらに向かって撃つことができるんだからね」
「こわ!」
「その発射台の場所はインドラと呼ばれていたらしい、太陽の登る場所と言う意味が込められている」
「ま、まさかインドラの矢ってことですか?」
「なんだねそれ?」
「いえ、知らないなら忘れてください」
「前にも言ったと思うけど記憶力は良い方なんでね」
「ラーマヤーナです」
「ラーマソフト?」
「わざとですか?」
「ユーモアだよ。怒った顔も魅力的だね」
「この!……」
そう言ったきり助手は黙った。
助手が何故か黙っているので博士は説明を続けた。
「まぁ、暫くは月の支配が続いたらしいのだが地球の大国も黙って見ている者ばかりではなかった。壮絶な被害をだしながらもなんとか月の発射基地を壊滅させた」
「その痕があのクレーターなんですね?」
「そうなるね」
「その時の人類は殆ど死滅したんですか?」
「まあ、僅かに残った人類もいたらしい、その大部分が地下に逃げたのだが、ある場所以外はだいたい滅んでしまったらしい」
「ある場所とは?」
「天然のバリアに護られた場所だよ」
「天然のバリア?」
「そこでは古代人の作ったと思われる空のショーも残っている」
「空のショー?」
「わからないかね?」
「降参です、どこなんです?」
「南極だよ」
「南極!」
「天然のバリアに守られたそこの地下に逃げた人達が大勢いたらしい」
「今も?」
「さぁ、それはわからない」
「え?ていうかショーってオーロラの事ですか?」
「そう、かつては世界中でオーロラを観る事ができたと書かれている」
「ええ!そんなバカな!」
「今で言う花火みたいなもんだな」
「全然違いますよ!」
「……ま、違うな」
博士はまたまた非を認めた。
月が綺麗ですね ハイブリッジ万生 @daiki763
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