月が綺麗ですね
ハイブリッジ万生
第1話
「月が綺麗ですね」
白衣の博士が言った。
「口説いてるんですか?」
助手の女性が訊いた。
「え?なんでそうなるの?」
「え?知らないなら良いです。忘れてください」
そう言って助手は顔を赤くした。
「いや、忘れる事はできないよ記憶力は良い方だからね」
「そういえば!この前の月の探索どうなりました?」
助手は話題を変えたいらしい。
「え?この前の?月に飛ばしたスペースドローンの事かい?」
「はい」
この研究施設では秘密裏に小型のスペースドローンというものを開発して宇宙に飛ばしている。
しかし、NASAとかJAXAとの約束で情報は全て非公開。
どんな発見をしても賛美される事はない。
「もちろん成功したんだが……」
「なにかまずいことでも?」
「まぁ、多分まずい」
「どういう風にですか?」
「宇宙人を信じていた人にとってまずい発見だった」
「え?UFOが嘘だったとか?」
「いや、あれは嘘じゃない」
「では宇宙人らしきミイラがヤラセだったとか?」
「いやあれもヤラセじゃない、単なる勘違いだ」
「どういう事です?」
「君は月の不思議について知ってるかね?」
「どのような?」
「月は常に同じ面を地球に向けている、偶然にだ」
「はい、それは知ってます本当にすごい偶然ですね」
「そして月の大きさは太陽のそれとほぼ同じだ」
「本当に凄い偶然です」
「本当にそう思うかね?偶然だと?」
「違うんですか?」
「実は月の裏側に都市が見つかった」
「え?」
「月は人工的に作られたものだったのだ」
「そんなバカな」
「そもそも最初は地球で出たゴミを宇宙に捨てる為に作られたらしい」
「ご、ごみ?」
「そうだ、どうにもならないゴミの捨て場所だったのだ」
「どうにもならないゴミってなんですか?」
「そりゃ今でもあるだろ核のゴミだよ」
「え?核?最近じゃないですか?」
「確かに最近だ、我々にとってはね」
「ではやはり超文明をもたらした宇宙人がいたんじゃないですか?」
「いや、確かに遥か昔に超文明があったんだが、宇宙人だと我々が勝手に思ってただけだったのだ」
「え?宇宙人じゃない?」
「そもそも、他の銀河系から移動するほどのテクノロジーを持っている宇宙人が地球に来たとしたら侵略にしろ友好にしろ支配にしろ一瞬で片がつくと思わないか?」
「まぁ、たしかに……じゃあUFOってなんなんです?」
「昔のテクノロジーの
「そんな」
「月の裏側にある都市はもともとゴミステーションの管理をするために集められた人々用だったらしいのだが、ついに人間の理性が獣性に負けてしまい知性が人類全体に牙をむいた時に緊急非難場所として機能した」
「え?どういう意味です?」
「平たく言うと核戦争が起きた時にみんな月に逃げた」
「最初からそういったくださいよ」
「ご、ごめん。かっこいいと思って」
「続きをお願いします」
「ま、まあ、そういう事が基地のなかの資料を調べてなんとなくわかってきた」
「ほんとに?」
「本当に。それで皆大騒ぎになったんだがよく考えて見ると世界各国に散らばる不思議な残骸はそう考えると全て説明がついてしまう」
「例えばどのような?」
「例えば、核戦争によって滅んだとしか思えない遺跡、はるか古代に存在しない筈の技術で作られた様々なオーパーツ。もともとそんな昔に高度な技術が存在しない筈だという大前提が間違ってたのなら不思議でもなんでもない、もちろん宇宙人の仕業ではない」
「宇宙人でなければ誰なのです?」
「古代地球人だ」
「え?嘘?じゃあ宇宙人は?」
「まだ遭遇してない事になるな」
「そんな」
「まぁ、それもこれもまだ調査中だから絶対ではない」
「ですよねー」
助手はホッとして微笑んだ。
「月より君のほうが綺麗だね」
「え?口説いてるんですか?」
「なぜそうなるんだね?」
「なぜそうならないと思うんですか?」
「……確かに、そうなるね」
博士は自分の非を認めた。
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