占われる幼馴染百合

「お嬢さん方、ちょいと座っていかないかい?」

 気づけば隣にいた幼馴染と、近所のモールで買い物を高校が休日の何でもないある日にしていると、突然見るからに占い師といった風貌のお婆さんに声をかけられた。

 周りの人に擦り付けでもしようかと見回すと私と幼馴染以外には、姿が見えない。

 先ほどまでそこそこの人の数がいたはずなのだけれど、気付かぬ間に私達は、そんな遠くに来てしまったのだろうか。

「はぁ」

 私はここで無視してもいいのだけれど──隣に目をやると幼馴染が興味津々に目を輝かせているのが見えてしまった。

「ねぇねぇ占いだって、あたし一回本格的なのやってもらいたかったんだよ」

 これが本格的な占いに私には到底思えないほどに、質素な店構えをしているけれど、まぁ時間も持て余していた頃合いだし丁度いいかと私は、お婆さんに訊いた。

「いくらですか?」

「いくらですか?」

 嬉々として私と同じ言葉を繰り返す幼馴染。

「まず座りなさいな」

 言ってお婆さんは丸椅子を手で指し示す。

 私達は一瞬目を合わせると、ほぼ同時に安めの丸椅子へと腰を下ろした。

「それでいくらですか? さっきまで買い物してたんでそんなに持ってないですけれど」

「一人五百円でいいよ」

 言うとお婆さんはさっと手を前に出すとお金が置けるようにそれを広げる。

 占いの相場ってどんな物なのだろうか、この店の五百円ってなんとなく高いような気もするけれど、どうしよう。

 と、考えを巡らせているととんでもから早く早くという圧が押し寄せてくる。

 うーん。まぁ五百円なら多少ぼったくりでも許せるか。

 私は自分の鞄から、私の財布と幼馴染の財布を取り出した。

 幼馴染の叔母さんから幼馴染が、無駄遣いしないようにと注意を受けているので、幼馴染の財布持ちと財布の紐は私が握っている。

 なのにここで紐を緩めてしまうのは、私の甘いところなのだけれど。

「じゃあこれで」

 とお婆さんの手のひらに五百円玉を二枚、そっと置いた。

 するとお婆さんの表情が、にっこりと笑顔になり、フリップのような物でこの店の占いの種類を説明し始めた。

「私の店は、学問、友情、恋、ここに書かれていることならなんでも占えるけれど、今回はどうするかい? 二人の相性占いなんかはするまでもなく仲が良さそうだけれど」

 お婆さんに言われて何か占ってほしい事、考えてみるけれど別段何かあるわけでもないということだけがわかるだけだった。

 なので幼馴染の方に目をやったけれど、そちらも別段特に何かある様子でもない。

「あのさ、占いやってもらいたいって言ったのそっちなんだからなんかないの?」

「ない。言われてみるとあたし占ってほしいことなんて何もない」

「じゃあなんで占いなんて」

「まぁ面白そうだったから?」

「そう。あーお婆さん、なんもないんで適当に私とこの子二人の未来とかって占えたりできます?」

「あーできるよ。けれどそんなんでいいのかい? さっきも言ったけれど、見るからに仲がいいから私にはお嬢さん方の未来なんてこの水晶玉を覗くまでもないって感じなのだけれど」

 お婆さんは言いながら徐に横の鞄から水晶玉を取り出した。

「うーん、いいですよ別にそれで、もう払ったお金こっちの事情で返してもらうのもなんなんで」

「そうかい、まぁそちらが良いならそれでいいのだけれどね。それじゃあお嬢さん方二人の未来占うよ」

 言ってお婆さんが水晶玉に手をかざすと理屈なんてものがどうでもよくなるほどに、それが当たり前であるかのように水晶玉が光出す。

 数秒後。

 光が止まった水晶玉を撫でながらお婆さんが言った。

「うんやっぱり私が思っていた通りだね」

 私と幼馴染は、お婆さんにその言葉の続きを無言で促す。

「あんたらキスしてたよ。今からそうだねおよそ四、五年後、あんたらは今よりもさらに仲がよくなっているよ」

 思わず固まってしまう。

 キス?

 魚の名前だった気がするけれど。

 あんたらキスしてたよ。

 魚の名前だったとしたら文脈がおかしい。

 じゃあ魚ではないのかもしれない。

 ならなんだと言うのだろう。

 キス、キスキスキスキス。

 私とこの子が、キス? は? 意味がわからない。この子と私はただの幼馴染で、そりゃ他の女友達よりは多少仲がいいってだけで、そう言う関係なんてことは一切ないはず。

 すると隣の幼馴染が私の服の裾を引っ張ってくる。

「ねぇ、あたし達ってそう言う関係だったの?」

「違う、絶対に違う。私とあんたはただの幼馴染。そのなんだ、キスとかそういうことをする間柄では絶対にない。あのお婆さんそういういい加減なこと言わないでもらえます? この子すっごく純粋な子なんで言われたことすぐに信じちゃうんですよ」

「嘘じゃないのだけれど」

「嘘です絶対。もし嘘じゃないってんなら証拠見せてくださいよ」

「証拠なんて物は占いにはないのさ。それに占いってのは信じるか信じないかはその人の自由。もし気に入らない未来なら信じなければいいだけさね」

 そりゃそうだ。私は何を言っているのだろう。占い結果のせいで気が動転しているのかもしれない。

 正直、今の今まで幼馴染のこの子をそういう目で見るという発想さえ私にはなかったのだけれど、今こうして幼馴染を見てみると私には勿体ない、そう言い切れるほどに可愛らしい容姿をしている。

 けれど、私達は幼馴染なのだそういう関係にはならない。はずなのになんでだろう胸がドキドキしている。

 それは幼馴染の方も同じようで、幼馴染の頬は真っ赤に染まったいた。

 もうダメだここにいると私達は、お互いの事を意識せざるを得ない。

 無理だキスとか言われたこの場所で意識するなってのが土台無理な話。

 私は、幼馴染の手を握り立ち上がるとお婆さんにお礼を言う。

「ありがとうございました。お婆さんの占いは多分絶対に外れますよ。それじゃあ」

 外れる、そうだそうに決まっている。お婆さんはきっとインチキ占い師だったのだ。そう思っておこう。

 いやそう思わないと、私はダメになってしまうかもしれない。

 はぁ──幼馴染、一回意識してしまうと、何故こうも可愛いのだろうか。

 そんなことを考えながら、私は幼馴染の手を力強く握るのだった。

 

 

 

「はぁ、よかった私がお婆さんじゃないってことがバレなくて、それにしてもあの二人、今まで私が相手にしてきた女の子達の中で一番チョロかったなぁ。はは、はは、はは、百合っていいなぁ」

 モールの誰も寄り付かない隅っこで、二十代半ばの女性が一人天に合掌をしている姿を見る者はいなかった。

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短編集/幼馴染百合は最高だぜ! tada @MOKU0529

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