第6話

 現れたのは白いフリルのエプロンをつけた黒髪の美少女――――そう、昼間彰人にチキンのハーブ焼きと称した暗黒物質ダークマターを提供した、アルバイトらしき女の子だ。


 その両手にはミカンをたくさん抱え、口いっぱいに何か(ミカンである確率100パーセント)を頬張っている。


 彼女の姿を捉え、怜が驚きの声を上げる。


「ひ…日鞠ヒマリちゃん…?」


 “ひまりん”こと日鞠はごくりとミカンを飲み込み、若干むせながら事情を説明し始めた。


「ごっ…ごめんなさいオーナー。私、掛け持ちでメイド喫茶でもバイトしてて…。昌彰さんは、常連さんなんです。だけど彼、なんていうかその――――」


「ストーカー癖があるのね」


 佳月の言葉に力なく頷く日鞠。


「“君の唇はキャンディーよりも甘そうだね♡”とか、“飴もいいけど、君の秘めやかな蜜も舐めたいな♡”とか、色々セクハラ的なことを言われて…。私、もう…昌彰さんがウザくてキモくて蕁麻疹が出そうで…つい冷凍ミカンで殴ってしまいました」


「君は何も悪くないよ、日鞠ちゃん」


 彰人は日鞠に歩み寄り、優しく頭を撫でた。


「悪いのは、あのストーカー男だ」


「ああ、本当にその通りだ」


 怜も深く頷き、容赦ない眼差しを昌彰に向ける。


「明日、あなたを警察に突き出しますから、そのつもりで」


「な…!私は被害者だぞ!なぜ私が悪者になるんだ!」


 昌彰が立ち上がり、憤慨する。


「殴られたところだってズキズキ痛むんだからな!慰謝料払ってもらお――――うぎゃぁぁぁ!」


 恭也の震棒の責めを受け、昌彰はあえなく床に崩れ落ちた。


「恭也、佳月」


 怜が満面の笑みで二人に呼びかける。


「彼のこと、存分に可愛がってあげなさい」


 二人は快諾し、横たわる昌彰の傍に膝をついた。


「再起不能になるまで責め続けてやるよ」


 麻縄を取り出し、昌彰の両手をギリギリと縛り上げる恭也。


 声にならない悲鳴を上げながら、懸命に身を捩る昌彰。


 ドス黒い薬液入りの注射器を彼の眼前に翳し、佳月が妖しく微笑わらう。


「この薬、一度試してみたかったのよね。ふふ…精神の核までドロドロに溶かしてあげる…」



 三人を残して、彰人と怜と日鞠は食堂を出た。


 果たして昌彰は、無事に明日のお天道様を拝むことができるのだろうか…。




《了》

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蜜柑荘殺人事件?! オブリガート @maplekasutera

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