死に魅入られた美しき兄弟

題名:俤

作者:白河夜船

紹介文より抜粋:

「僕、どうやら、弟を殺してしまったようなんです。」


https://kakuyomu.jp/works/16816452220232911049


 〜〜〜〜〜〜〜〜


 静寂の中での兄の告白…それは甘い愛の言葉とは真逆の、冷たく暗い死についての話でした。


 本作の文体は全て兄の「僕」が語るセリフのみで、自分の死んでしまった弟について、訪問医である「先生」に打ち明けていくのですが…兄の口から語られるこの兄弟の関係には、不謹慎かもしれませんが扇情というか、エロティシズムを感じてしまう。そんな私は不純でしょうか…^^;


 兄は病弱で死をいつも身近に感じています。そんな兄を慕う弟は健康な肉体を与えられたにもかかわらず「死にたい」と兄へ吐露する…そんな二人の間で密やかに繰り返された、ある行為。

 兄にとって、その行為は、些細な疎ましさや憂さ晴らしみたいな感情から始まったのでしょうが、その後の苦悩が、彼に纏わりつく死のにおいとともに離れない。

 一方で、弟も死の魅力に取り憑かれ、救済を求めて兄にもっともっとと、ねだる…。


 兄の口から語られるだけのその禁断の行為を、読み手は実際に見たわけではないのに、妙にリアルに、そして官能的で耽美とさえ感じてしまう。

 その感じに酔ってしまったら最後。私はこの物語の沼へ引き摺り下ろされて抜けられなくなってしまった。

 やがて兄が弟へ言った「もうやめよう」は、まるで恋人への別れの言葉に聞こえ、それ以降の弟の態度の変化は、読んでいてなんとも切ないです。


 途中、胸が締め付けられ、誰かこの兄弟を救ってほしい。そう願わないではいられませんでした。

 この美しく儚い兄弟にとっての救済とは何かを考えてしまいます。結局は死の傍らにいることでしょうか。それとも死からの解放でしょうか。生からの解放?

…誰かとこの気持ちを共有したい。読んだ後の感想を聞いてみたい。そう思う作品でした。


 結びに一つ、気になることがあったので 書き留めます。

 “僕”の告白を聞いてしまった先生は、この後大丈夫だったのでしょうか。私のように沼に嵌ってはいないだろうか。呪いのように彼もまた死に取り憑かれてしまわないか、不安でなりません。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る