指先の演技力

題名:汚された指先

作者:西野ゆう

紹介文より抜粋:

「それでも恨みはまだ黒い。私の指先のように。」


https://kakuyomu.jp/works/16817330653907092533


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 唐突ですが。私、人のパーツの中で描いていて好きなのは、目の次に指先なんです。爪の質感や指腹の膨らみのライン、それから関節を動かして美しい形を探すのも楽しい。

 指って表情豊かだなって思います。

 本作は、タイトルにもなっている「指先」の演技がとても巧みで繊細なところが大きな魅力です。


 戦争で被災した高齢者女性、茂木さんは広島の平和記念式典の映像を老人施設で見ながら、鶴を折っている。その鶴を折る拙い指先や、折られた鶴を醜いと言う茂木さん。そして平和を願う子ども達のメッセージに、枯れた涙を拭う指先からは、凄まじいエネルギーが伝わってきます。

 ああ、彼女は未だ怒っているのだ。

 あの戦火の中に立ち、憤りと虚しさと悲しみの業火に焼かれ続けているのだ、と、折鶴を折る指先だけが語っているのです。


 全ての怒りを昇華させ、全て赦して、全て忘れて、悲しみさえ愛に変えられればどんなに幸せなことでしょう。けれども現実はそうはいかない。そんなやるせなさと、彼女の中に決して消してはいけない核のような炎が揺らめいている…物静かな物語ですが、内面との温度差のコントラストが見事な作品でした。

 指先のその演技や演出、物語を書く上で私も参考にさせていただきます。ありがとうございました。

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