自体が、プルースト現象を引き起こす古書のような作品

#プルースト現象ってご存知でしょうか? 

#匂い #古書店 #昭和感

#異世界 #インパクトある言葉たち 

#ノスタルジック #硬派な純文学 #追憶


題名:跡形

作者:深川夏眠

紹介文より抜粋:

「春の訪れを感じさせる風に吹かれると、蘇る記憶。ひととき旅をした覚えは確かにあるけれど、その場所には二度と辿り着けないかもしれない――そんな想いを綴ったショートショートです。」


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893795283


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 プルースト現象ってご存知でしょうか? お恥ずかしながら私は存じ上げておらず、ネット検索しました……^^

 なになに、『ある特定の香りから、それにまつわる過去の記憶が呼び覚まされる心理現象』だそうです。今回ご紹介する作品「跡形(あとかた)」は、春風による学生時代の追憶を描いています。

 昔に嗅いだことのある匂い、例えば青々した風の匂い、雨の日のアスファルトの匂い、好きだった子の香水の匂い……などなど。確かに、ある特定の香りから、記憶の引き出しは思いがけず開いたりします。


 本作は、書店がまだ生き生きしていた時代――私も本屋(古本屋も含めて)めぐりが大好きな子どもだったので、マンガも含めて自分のお気に入りを探す冒険に出るような気持ちで本屋に向かっていた記憶があります。そんな記憶の雰囲気を短編で味わえる秀作でした。

 なんか、昭和の匂いがぷんぷんと漂うのですが、その光景はどこか異世界のような雰囲気を醸し出しており、読んでいて不思議の国に迷い込んだ気分にもなります。

 「跡形」に出てくるワードには、すごくメッセージ性の強い言葉が多くて、例えば、「銭湯の女将さん」「柱時計」「栞紐スピン」「トレーシングペーパー」「粋な名刺」などの言葉たちからも、匂いだけではなくその他の感覚に訴えかけてくるものが多く鏤められています。この、宝石の痕跡も、本作を形作る上で重要な要素の一つとなっていて、この物語自体の質をぐんと引き上げているように思えます。(あくまで私の感想です)


 今はもう失われてしまった記憶の中の光景だからでしょうか、すごくロマンチックかつノスタルジックな読了感を堪能できました^^


 個人的に、主人公が少しイヤなやつで、小使いの少年とのやりとりや主人公のたくらみが、喉に小骨が刺さる状態というか、何とも絶妙な余韻を残させ、いいなと思いました。

 カクヨムではなかなか出会えない硬派な純文学の短編で、出会えて良かったです。

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