制服を脱ぐ瞬間は意外に冷静だったりする

 題名:ピエロは制服を脱ぎ捨てた

 作者:更科 周

 紹介文より抜粋:

「友人の綾に誘われ、渋谷ハロウィンに参加する主人公琴。ハロウィンの夜に、彼女は何を見るのか。いつも今の自分以外になりたいままの、たくさんのあなたへ。」


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893395190


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 今回は、私が以前にレビューさせていただいた作品で、自主企画にも参加してくださった「ピエロは制服を脱ぎ捨てた」について、ここで熱く語っていきたいと思います。

 ジャンルは現代ドラマとされていますが、青春、友情、少女から大人への成長もの……あとは、ハロウィンのお祭り感もしっかり味付けされていて、いろんな側面で楽しめる作品だと思います。

 

 物語は、前後編に分かれた短編です。

 主人公の女の子の一人称で語られ、友人とハロウィンイベントに参加するエピソードが主体となっていますが、所々で回想も折り混ざり、最終的に祭り後の現実世界に着地します。

 しっかりしたプロットに支えられた文学作品で、上質な作品だと私は感じます。でも、作品自体が短編ですし、主人公が二十三歳の女の子なので、文体は堅苦しくなく、読みやすいと思います。ライトノベルやケータイ小説しか読まない方にとっては、少々、文字の密度が濃く感じるかもしれませんが……。ぜひ読みましょう!!



 私は、今までにバカみたいに、余韻、余韻……と言っておりますが、私が小説にのめり込むきっかけとなった作品がありまして、中学生のときでした。

 文章から入ってくる情報が、自分の身体を陶酔させてトリップする感覚……。小説を読んでいる最中は、どんなに周りがうるさくても気にならない。だって自分はそこにはいないから――。読み終えて本を閉じたとき、現実世界に戻っても酔いが抜けない感覚といいますか、朝の目覚めみたいに、その感覚をしばらく引き摺ったまま、私は現実をいつも通りに生きていかなければならないのです。

 その、オン/オフの感覚に毒されてしまった私は、どんどんそういう余韻の残る作品を求めるように小説を読んだものです。


 この作品を読んで、そのときの余韻の感覚を、なんだか学生の頃の気分に戻って思い出したような、不思議な気分になりまして、とても魅力を感じたのです。


 学生時代の友人で成人しても遊ぶ子って、本当数人に限られてきますよね。それも、社会に出ると価値観も徐々に変わってきますから、就職、結婚、出産……とイベントを経験する毎にそのとき会える友人もどんどん幅が狭くなっていくものです。

 女の子は特にそうじゃないかな、と感じます。


 物語は、主人公 琴が学生時代の友人の彩に誘われて仮装イベントの会場に向かう場面から始まります。琴は、ハロウィンイベントにはどちらかというと消極的な考えを持っているようです。琴は自分が身を置く状況を始終、滑稽だと思っているんですよね。それでも、彩と一緒にいることに価値があり、心地よいと感じている琴――。

 琴は、彩と自分が共通していることに疑いはなかったし、ずっと続いていくと信じていたんだと思います。自分も彩も変わらない……変わりたくない。

 けれど、悲しきかな、社会はそうはそうはさせてくれないんですよね。さっきも少し話しましたが、いつまでも立ち止まってはいられない。

 主人公がそれを自覚した瞬間と、お祭りが終わった後の空気感を重ね合わせ、しかもお祭りと現実のコントラストを描いていることで、なお一層、ラストに主人公が自分に対して感じた「滑稽さ」が際立っています。


 私が、この物語の主人公に好感を持った理由としては、琴がハロウィン自体や仮装した自身に対して最初から冷静でいる点です。

 成長して変わっていく周りや自分に対しても、自覚した瞬間は寂しい半面、それは仕方のないことなんだと受容して、すっと元の生活に戻っていく……。

 なんで、私が先に自身の学生時代の話をしたかというと、この点を語りたかったからでして、琴が現実に戻っていく様が、まさに私が小説を読み終えたときの感覚にとても似ているなと感じたからなんです。


 いつまでも少女ではいられない。滑稽なメイクを落として、制服を脱ぎ捨て、どんな気持ちのときだって、働くのだ! 世の女性なら、きっと共感できますよね。


 



 ということで、締めになりますが、私の品評!



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 レビューは★★★ Excellent!!!

「自分には書けない」★☆☆

「心が震える」★☆☆

「なんという余韻」★★★



 これが私の最大の褒め言葉^^

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