幸福の消えた世界で、幸福になるために……
題名:神様の胃袋の中
作者:蚕
紹介文より抜粋:
「欲求が消え去り、停滞した世界を作り直すために起動された〈神様の胃袋〉。
何もかも溶けていく街で、僕はまだマグと一緒に溶け残っていた。
「食欲」という彼女の孤独に、触れられないまま。」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892073675
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今回も、自主企画に参加してくださった作品を紹介したいと思います。
これは、とても興味深いテーマと内容の物語でした。世界が終末を迎えて再生される直前に、人々が何を思うのか……失われていく個の孤独を、独創的な世界観で描いた本作は、ユーモアあり、どこか物悲しい雰囲気も纏っています。
私は、人が何かを失っていくときの美学といいますか、欠損や消失に共存する儚さにとても魅力を感じるのです。
お話は、主人公 僕の一人称で語られる一話完結の短編です。
人間から欲求が消え去り、廃退していく世界に生きる主人公とマグとの日常を、終末から新天地創造まで追って描いていきます。
この設定がまた面白くて、欲求がなくなると人はどうやって幸福を感じるのでしょうか?
そもそも「○○したい」という願いがない状態って、「○○できて良かった、幸せ〜」とか思える経験ができないということですよね。「なにもしたくない」っていうのだって願いですから、それすらない人間って、もはや人間と呼べるのでしょうか。人は、幸福を感じない状態で人間でいられるのでしょうか……。
物語では、国連が設立した世界再構築機構WROが、〈神様の胃袋〉という装置をつくり、どのように測るのかはわかりませんが、世界全体の総幸福量が下がってしまった世の中をいったん破壊して、幸福が最大化できる理想の世界をつくる……という、なんともエキセントリックな取り組みが施行されて一週間たった世界。すごいですよね。「神様の胃袋の中」というタイトルもものすごく人を惹き付ける力の強い言葉ですが、設定も興味深く、ぐんぐんとストーリーに引き込まれます。
このお話の中では、欲の中でも特に「食欲」にフォーカスを当てて語られていまして、主人公が影響を受けるマグという女の子は、主人公の周りでは唯一「食欲」を失わずに生きている人間でした。
〈神様の胃袋〉については、真実なのか噂なのか、様々な定説が人々の間で広がっており、しかしながら自分たちが今、危機的状況にあるにも関わらず、この世界の人達はどこか冷めています。マグを除いては……。
主人公は、そんなマグに興味を持ち、次第に強く惹かれていくことになるのです。
この作品を拝読させていただいて、私が強く印象に残ったのは、マグの魅力です。文章表現やエピソードは、ぜひ作品を読んで自らの頭で体感していただきたいのですが、私にはマグが終末世界の天使に見えて、自身が放つエネルギーの神々しさが「食べること」=「生きること」を通して、この物語の「希望」として在るように感じました。
マグは、欲求が満たしてくれる幸福感を、世界の誰とも共有できない孤独な存在です。主人公は、そんなマグの孤独を感じることができた唯一の人間でした。
WROが新しく造りかえた新天地にいける、〈神様の胃袋〉に選ばれる自我の条件とは……。最終的に、誰がどんな形で存在しうるのか……。幸福とは何なのか、について、読者は、主人公の僕とともに考えさせられます。
私は、この「僕」という存在がすごく好きで、マグという人間に自分がどう惹かれていったのか、「食欲」を見せつけるマグを前に、自分の「欲求」とは何かをマイペースに探る旅人のような彼とともに、新天地への旅に同乗できて良かったと思うのです。
最後に、タイトル「神様の胃袋の中」も、ラストで生きてきます。
人により解釈はあるかと思いますが、私的にはハッピーエンド! ですね。
ということで、締めになりますが、私の品評!
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レビューは★★★ Excellent!!!
「自分には書けない」★★☆
「心が震える」★★☆
「なんという余韻」★★★
これが私の最大の褒め言葉^^
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