何度でも、会いたいから。

@r_s_n_lovkeiai

第1話 第四部榊原(サカキバラ)

その男は、願い続けていた。

「天国」をひたすら求めていた。

自分の何もかもが思い通りになる世界。それが天国だと。

男の名は榊原 敬愛。

多重人格者で、占い師で、ゲーマーで、とにかく優しい人間なのだ。


いや、そうだったと言う方が的確か?

彼が彼でなくなるまでの話をする前に、彼がどんな人生を歩んでいたのか、私は説明するべきだと思う。


彼は誰かを守って死ぬのが本望だった。

彼には大事な人がいたのだが…

…フフ、とりあえずその世界線を、見ることにしよう。


その者は、独り言をつぶやくように、燃えているようにも、凍てついているようにも見える水晶玉のような泡をゆっくり覗き込んだ。




ーーー目の悪い人って羨ましいよな。だってまじまじ好きな人の顔見れるんだぜ!?どう思う?


親友の妹にそう言葉を投げかけながら、いつものようにポテトチップをあさる。

パリパリと音を立てて、刹那。

「そう、なのかな。」

いつもの風景だった。梶が仕事なので帰り、親友ナジの家に泊まりこんで今まで麻雀をしていた牌がまだ机に散らばっている。

だらだらとゲームをしながら、寝ているナジを起こさないように落ち着いた声で喋る。

「いっつもこんな毎日が続いたらいいんだけどな。」

カチカチとコントローラーが音を立てながら榊原の指に合わせて踊る。

「ちっやられたクソがっ!」

クッションにコントローラーを放り投げるとぐったりとうなだれるように寝転んだ。

「ユミ、俺寝るわ。9時くらいに起こしてくれ。」

「わかった、お休み〜」

パジャマにも着替えずそのままいつものようにそのまま寝転んでいた。

床で寝るのも暑い日には悪くないだろう。

明日も少ない手持ちの現金で2円スロットでも行けばいい、でなけりゃいつものゲーセンに行くだろう。

夜11時。榊原は眠りについた。

かつて書いていた自分が主人公の小説を、夢でゆったりと見ていた。

この退屈な毎日は、どうしたら思いどおりになるのかと、頭をめぐらせながら…。


〘 ーーー榊原は自分のした事の禁忌を反省しているーーー〙


榊原は目覚めた。

酷い悪寒、生臭い赤い海、大きなビルほどもある金属の扉。

そして1人の門番。

門番は彼を見ると無言で扉の奥に行くよううながす。


榊原は念じた。

私が持つ銀の鍵を以て、この扉いざ開かんーーーー

鈍く軋む耳障りな音を背にして、

何十メートルを歩き、その者に話しかける。


「ヨグ=ソトース、我があるじよ。お呼びですか。」


その者は今の今死んでいるようで、生きており、いくつもの泡のような水晶玉を辺りに漂わせ、幾重にも絡まった、まるで髪の毛のような見た目で、凍えるような、燃える空気を放ち、喋りかけるような頭に響く声で話し始めた。


⦅アマニエル。最近私に会いにこないから寂しくしていたのだ…今の私にはお前しか話す者がおらんのだ…。⦆

「はは…私でよければ。」

ひざまづきながら、ややうすく、緊張の顔つきをする。

⦅契約のときはまだかな⦆

「すみません…まだ死ぬ訳にはいかないのです。」

⦅知っているとも…私は全てを見透せる。⦆


揺蕩うように人間であればすこし俯くように見えたが、ことの他思っているより落ち込んでいるようにも見える。


⦅私の力が欲しいと言ったのはお前だぞ…?まだいらぬのか?お前の言う天国、求めるものが私の持つ力にあるのだろう?⦆

「ええ、ヨグ=ソトース。しかしね、私が死ぬ前に1度、天国ではなく普通の生活がしたいのですよ。ありとあらゆることが成功するのでは無い世界を噛み締めておきたいと、そう思うのです。」

⦅分からぬ…⦆

そういうとその者は静かに…(人間には巨大な空気砲程の)瘴気を大きく吐いた。


ーーーー分からぬ…。


2話へ続く

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