第15話 怪物
僕は迷っていた。この怪物と戦うか否か。
ここは世界最大の街。恐らく僕がこの怪物を倒さずともこの怪物はいずれ来る戦士たちによって倒されるだろう。
でも、本当にそれでいいのかと思う。
だって、いくら魔物がたくさん現れるからってすぐそこに英雄がいるわけじゃないだろう。
もし僕がここでこいつを倒さなければ、犠牲者は確実に増加し、この壮大な街並みも破壊し尽くされてしまうかもしれない。
僕が倒せばその人たちを救えるかもしれない。
でも。
僕の正体がばれるかもしれない。それに、バレなくても、そもそも僕に、新人の僕なんかに倒せるかなんて分からない。
だから僕はエリシアの手を掴んで、駆け出す。
逃げる選択が、この場では一番正しい、賢い選択だろう。だって、もしそうすれば僕は——あれ? 僕は何を考えているんだ?
混乱で脳が機能を停止する。そして僕の手も振り払われた。
エリシアが逃げることを拒んだのだ。
理解できない選択に、僕は戸惑うことしかできなかった。エリシアはまさか、ここで死のうとしているのだろうか。
バチッ、と脳を揺さぶられるような衝撃にいきなり襲われた。
それをしたのは魔物じゃない。さっきの上機嫌な表情は見る影もなくなってしまった、エリシアだった。
「何ビビってんの。今更殺すのが怖いだなんて」
その一言は、僕にとって弱点をきれいに突かれたようなものだった。自分でも把握できていない弱点だ。
だから僕はそんなことのせいじゃないと反論しようとする。
でも、エリシアさんはそこで優しく微笑んで、でも凛々しく言うのだ。
「あなたは魔物を殺すんじゃない、人を救うの。そうでしょ?」
そうだった。僕は彼女を救うために人を殺した。
何かを救うために何かを犠牲にすることは果たして正義なのだろうか。
一歩間違えれば、ややもすればそれはただの殺人になる。でも、それでも救われる人はいる。
だから、その問いに答えはない。まだ、見つかっていない。
でも、エリシアは願っている。人々を救ってほしいと。
なら、それで十分じゃないか。僕は僕の恩人で大切な人のために戦う。何て単純なことなんだろう、と、一気に晴れやかな気分になった。
「今は、行ってきて。後でいくらでも休ませてあげる」
だから、僕は駆け出す。
怪物がこっちに気づいて初撃を繰り出す。音よりも速く、そして地面が吹っ飛ぶくらいに重い。前の僕だったらやられていたかもしれない。
でも、今は違う。もう、躊躇いはない。
攻撃を最小限の動きで躱しながら、何十倍も、何百倍も大きい図体の相手に突撃する。どんどん、近づいていく。
そうして、僕は。
大きく禍々しく悍ましい、しかしそこはかとなく美しい、靄の大剣を一閃した。
被験体な僕は異世界では悪役らしい 真田そう@異世界もの執筆中 @sanadakyanon
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