無口で無愛想と噂の幼馴染は、超可愛い。

池中 織奈

無口で無愛想と噂の幼馴染は、超可愛い。


「神沢さん、一緒に帰らない?」

「……帰らない」


 時雨は今日も仲良くなりたいと話しかけるクラスメイトに冷たい。



「神沢さん、可愛いね! 一緒に出掛けない?」

「嫌」


 時雨は今日も下心満載の男子生徒にばっさり言う。



「神沢さん」

「神沢さん――」



 時雨は今日も人から注目を浴び、色んな人に話しかけられる。けど、時雨はそれに興味がなさそうに、一言でしか返事をしない。表情を変えることさえも一切しないのだ。







「神沢さん、相変わらずだなー。当夜は幼馴染なんだろ? 昔からああなのか?」

「まぁ、そうだな。時雨はそういう子だから」



 俺、大葉当夜(おおばとうや)にとって神沢時雨(かなざわしぐれ)赤ちゃんの頃から一緒に育ってきた幼馴染である。誕生日も一日違いで、同じ病院で出産したことで母親同士が仲良くなったのだ。

 加えて奇跡的に引っ越した先が時雨の家の隣だったというのもあって、両親は今も仲が良い。


 時雨は艶のある黒髪と、キリッとした瞳を持つ美人だ。昔は可愛いという言葉が良く似合う子供だったが、高校生になってすっかり美人になったと思う。




「神沢さん、美人なのになぁ、もっと愛想がよければいいのに。残念だ」

「いや、時雨はあれでいいだろ。寧ろ愛想がよい時雨とか時雨じゃないし」



 うん、それにただでさえその見た目から注目を浴びている時雨が愛想よくしたら益々騒がれそうだしなぁ。

 それに時雨は時雨だから良いのであって、愛想がよい時雨とか時雨ではないし。



 そんなことを思っていたらツカツカと時雨がこちらに歩いてきた。



「当夜、帰る」

「ああ。帰ろうか」



 さて、周りに冷たいと言われて、人に興味がなさげな時雨だけれど、幼馴染だというのもあって俺と一緒にいつも通学している。

 

「今日も当夜と神沢さんは仲良いな」

「……頼まれているから」



 時雨はからかうようにいったクラスメイトの言葉に、冷たい視線を浴びさせる。クラスメイトは「こわっ」と口にして、こちらに同情したような目を向けてくる。

 きっと通学路で俺が時雨に冷たくされているとでも思っているのかもしれない。

 それに苦笑しながらも俺は時雨と一緒に帰宅するのだった。





 時雨と一緒に並んで、歩く。




「時雨、今日の夕飯なんだろうな」

「カレー」

「カレーか。楽しみにしている」

「うん」



 時雨の両親は共働きで家にいないことが多いので、いつも俺の家に来て夕飯を食べている。母さんと一緒にいつも時雨は俺の家で料理をしている。というか、たまに時雨がメインで母さんはぐうたらしているときもある。



「時雨のご飯は美味しいからなぁ。材料買いに行くか?」

「うん。買う」



 時雨と一緒にスーパーに寄る。俺が買い物かごを持つ。そして時雨が入れていく。それもいつもの事である。



「時雨、お菓子食べたい」

「食べ過ぎると太る」

「ちょっとならいいか?」

「うん」



 太ると言われたけれど、時雨は買うことを許してくれた。母さんも面倒くさがりだから、買い物をよく俺と時雨に頼むんだよな。

 時雨は俺の母さんから信頼を得ているので、財布を握っているのは時雨である。俺は余計なものを買うしな。



 会計をして、時雨と一緒にスーパーから出る。

 そして家へと戻った。




「ただいま」

「ただいま帰りました」

「おかえり!! 当夜、時雨ちゃん」



 時雨の家には誰もいないので、時雨は俺の家に当たり前のように帰宅する。

 そこに母さんが満面の笑みで迎えてくれる。


 時雨はそれに対しても無表情だけど、母さんに手を引かれても振り払うことはしない。時雨は母さんのことを慕っているからな。




 時雨が母さんとカレーを作っている間、俺はのんびりしている。以前、手伝いをするといったこともあったが、俺が不器用なのもあって、食べる係でいいと言われてしまったのだ。その代わり皿洗いとかはするけれど。




 父さんは今日は遅くなるということで、三人で夕食を食べた。



「時雨、母さん、カレーうまいよ。いつもありがとう」

「うん」



 小さくだけど、時雨の表情が変わる。分かりにくいけど、喜んでいるのが分かるので、俺もにこにこしてしまう。




 夕食が終わった後、部屋へと戻れば時雨がついてきた。

 時雨は結構、俺についてくる。学校ではこんな風な行動はしないけど、時雨は家では結構俺の傍にいる。



「時雨、どうした」

「どうもしない」



 ただそれだけ言って、俺のベッドに腰かけのんびりスマホをいじりだす。

 俺が椅子に座って動画を見ていたら、寄ってくる。



「面白い? それ」

「面白いぞ」



 時雨が立ち上がって、俺の後ろに立ったけれど敢えて動画をじっと見つめる。時雨からの視線を感じる。


 しばらくそうしていれば、時雨は我慢が出来なくなったのかもっと近寄ってくる。至近距離である。後ろから動画を覗き込む形だ。



「当夜」



 こっちを向いてとでもいう風に、肩をちょんちょんとされる。



「なんだ、時雨」

「……」



 時雨が何を望んでいるか分かるけど、敢えて分からないふりをする。そしたら時雨の顔が歪む。

 



「……私と、話す。私いるから、動画禁止」



 表情はあまり動いていない。けど、その言葉とその態度で時雨が何を考えているかは案外分かりやすい。

 学校の連中は時雨のことが分かりにくくて、無口で無愛想で――そんな風に言っているけど、俺にとって時雨は分かりやすい。もっと愛想が良ければいいのにとか、もっと表情豊かなら可愛いのにとかよく言われているけど時雨は今のままで可愛い。いや、今のままだから可愛い。超可愛い。



 通学もわざわざ一緒に行っているのも母さんに頼まれているからって言っているけど、いつも俺が準備を終えるまで待っているし、俺が遅刻しそうになるとなると先に行ったりせずに起こしてくれるし、そもそもそんな頼んだのなんて小学生低学年の頃だからもう時効と言えるし。

 

 通学路で冷たくされているのでは、会話が気まずいのではとか心配されるけど、そんなことは全くない。時雨は俺にはちゃんと答えてくれる。寧ろ俺がしゃべらないと時雨から話しかけてくれる。


 買い物を一緒にするときも、俺が駄目か? と頼み込めばなんだかんだいいよって言ってくれる。俺が好きなものばかり買おうとするし。


 いつも俺の家で料理を作るのも(母さんがさぼっている時も)、俺に食べさせたいからって言ってたの聞いたことあるし。美味しいもの食べてほしいって料理の勉強しているのも知っているし。



 しかも、今も俺についてくるのって俺と一緒に居たいからだし。俺が家で何処か行くと結構な頻度でついてくる。俺の家族と時雨の家族で出かけた時も俺の傍にくるし。うん、同じ高校なのも「……腐れ縁ね、一緒の高校なんて」と言っていたけど、俺の志望校知ってそろえたのも知っているし。

 俺が時雨に構わずにいると、構ってほしいと寄ってきたり、今みたいにちょんちょんってしてきたり、構ってほしいって動画禁止とか言うんだぞ。

 超可愛い。可愛い時雨が見たくてたまに分からないふりをしてしまう。というか学園でも話しかける機会あれば俺に話しかけてくるし、じっとこちら見ている時あるし、可愛い。



「ああ。時雨が構ってほしそうだし、見るのやめるよ」

「……構ってほしくなんてない」

「じゃあ続き見る」

「……」


 あ、不服そうな顔した。可愛い。どれだけ俺に構ってほしいんだか。

 あまり虐めると嫌われるかもだし、この位にしよう。



「ごめんごめん、冗談だよ」

「それでよし」



 あ、少し嬉しそう。表情はかわってないけど、声がちょっと弾んでいる。



 それから時雨と一緒に会話を交わす。時雨は短い返事ばかりだけど、ちゃんと返事をする。

 人によっては、居心地が悪いと思うかもしれないけれど――幼いころからずっと一緒に居たというのもあって、こういう空間が心地よい。



 というか、本当に時雨は可愛い。

 ……愛想が良ければなんて冗談じゃない。俺にだけこういう風な態度をする時雨だから可愛いのだ。そもそも時雨の可愛い所を知られたら、時雨に変な虫がつくし。今も男子生徒間で綺麗だと騒がれているのに。

 見た目は確かに美人になったけど、時雨は中身は滅茶苦茶可愛いんだぞ!! と言いたくなる時もあるが、そんなことしたらライバルが増えるのでやめている。





「なぁ、時雨」

「なに」



 時雨との幼馴染としてのこんな穏やかな空間も俺は好きだ。

 けど――、時雨は年々美人になって、異性にもてている。時雨に告白すると言っている声を何度も聞いてきた。

 ――だから、俺はこの関係を壊すことにした。




「俺は時雨の事が好きだよ。時雨、俺と付き合おう」



 何気ない日常を過ごしている中で、ぽつりと言った言葉。いつも通り話している中で告げた言葉に時雨は目を見開く。




「……」



 時雨は何も言わない。けど、こくりと頷いた。そして、その顔は赤く染まってる。俺がじっと見つめれば、恥ずかしいのか俺の方を見ることは出来ないらしい。



 マジ、可愛くない?

 時雨が俺のことを好きなんだろうなーっていうのは態度で分かっていたけど、無事に頷いてくれてよかったとほっとする。大丈夫だとは思っていたけどな。



「時雨、顔上げて」

「……恥ずかしい」

「俺は時雨の顔を見たい」

「……うん」



 恥ずかしいと言いながら顔を上げた時雨。可愛い。マジ可愛い。これが他の奴相手だったら「何で」とか「は?」とか絶対冷たいからな。

 俺にこんなに素直とか、本当可愛い。俺、可愛いしか思ってない。でもマジ、可愛くない?



「時雨は可愛いなぁ」



 益々時雨の顔が赤くなる。赤みがかった顔に何だかときめく。何で時雨はこう、俺のことをときめかせる天才なのか。

 やっぱり時雨は学校ではツンツンしている方がいいよな。こんな可愛い時雨を他に見せたらヤバい事になる未来しか見えない。



「なぁ、時雨、キスしていい?」



 多分、言わなくても口づけを時雨は許してくれる気がするけど、敢えてきいた。だって聞いた方が絶対時雨は可愛い。



 俺の予想通り、時雨は可愛い反応を見せた。

 息をのんで、顔を赤くする。益々赤くなった顔。時雨は戸惑ったような表情で、だけど「……うん」と小さくうなずいたのだった。



 初キスは最高でした!! とだけ言っておこう。

 時雨、本当可愛い。







 ――無口で無愛想を噂の幼馴染は、超可愛い。

 (無口で、無愛想な幼馴染。けど、俺にとっては分かりやすくて、俺の前では超かわいい)




 

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無口で無愛想と噂の幼馴染は、超可愛い。 池中 織奈 @orinaikenaka

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