存在証明


「待って!」


その声で、一気に現実に引き戻された。

腕を強く引っ張られ、バランスを崩す。


そのまま、その人と一緒に地面に倒れこんだ。

空は白に染まっていた。

今日は曇天。天気予報によれば、涙の雨は降らないらしい。


「よかった、まだ生きてる……」


その人は私を見て、安心したように息をついた。

何が起きたのだろうか。

突然の事態に、頭が追いつかない。


「いや、目の前で飛び降りようとしていたもんだから、びっくりしちゃってさ。

大丈夫、ケガとかしてない?」


答える代わりに、ぶわっと涙があふれ出てきた。


何で助けてくれたのとか。何でここにいたんですかとか。

ていうか、あなた誰なんですかとか。

聞きたいことはいっぱいある。


ただ、息が詰まって、言葉が出てこない。


「え、ちょっ……本当に大丈夫?」


完全に心は冷え切っていたのに、熱い涙が流れ出てくる。

その透明な涙さえ、命の色があるように見えた。


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