第4話 不思議な生き物!

「――らん。ぶ……らん、ブラン!」


 はっと目を覚ます。

 そこには、ユラと田神と……狼族の人がいる。


 ユラは心配そうに見ていて、田神は微妙な顔をしていて、狼族の人は……ブランと目を合わせないようにして俯いていた。


「良かった……もう目を覚まさないかと……」

「三日も眠ってたもんなぁ……」

「三日……も?」


 そんなに意識を失っていたとは……

 一日中寝ていた事はあったが、二日も伸びるとは……


 それはごく自然に起こる現象なのだが、その時のブランには知る由もなかった。

 それよりも……


「悪の……組織の人、達が……なんでここに……いるの……? それ、に……泣いてる……その……人……」


 ガラガラ声ではあったが、ブランはなんとか声を絞り出し、思ったことを伝える。

 指さした相手は狼族の人。

 さされた時、一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに申し訳なさそうな顔になる。


「だって……お前、あの時『離れろ』って言おうとしてただろ? だから……その……」

「感謝とお詫びがしたいんだろう? 正直に言ったらどうだ?」


 ユラさんと狼族の人は、いつの間にか仲良くなっていた。

 ユラさんが狼族の人に肘をぶつけて、言葉を促す。


「ご、ゴホン……えっと、ありがとう……気にかけてくれて。それと……こんな小さい子に本気出した私が馬鹿らしくなってきたわ」


 本当に悪の組織なのか……?

 多分この場にいる本人達以外は皆そう思っただろう。

 ブランはどうして良いか分からずに――気がつけば泣いていた。


「ブラン! どうしたんだ!?」


 ユラが心配そうに聞く。

 お姉さんのような……お母さんのようなその温かさに、ブランは堪えきれずに嗚咽を漏らした。


「ううっ……あり、がとう……ござい、ます……ユラさん」


 ユラは驚いた様子でブランを見ていた。

 だが、それは一瞬の事で、すぐに微笑んだ。


「んで、どうしたんだ? 何かあったのか?」

「あの狼族……さん、の……『ごめんなさい』……は、凄く心が……こもってるな……って思って……」


 その続きは、これ以上口に出す事が出来なかった。

 ブランは疲れ果てて、再び眠りに落ちてしまったから。

 父と母にも優しさや温かさは感じられたが、ユラさんや狼族の人の比ではない。

 ブランは不思議と……口角を上げながら眠った。


 そして、ブランは夢を見た。

 とても懐かしいような、悲しいような……

 ここは、どこだろう。


 闇に染まっているこの空間に、一匹の動物……? のようなシルエットが浮かび上がる。


 ここは暗闇のはずなのに、やけにその動物の周りだけくっきりと見える。

 ウサギのような長く立った耳に、キツネのような二つの大きな尻尾が生えている。

 顔や身体や尻尾には、所々縞模様が入っている。


「やぁ、ブラン。やっと会えたね」

「あなたは……誰なの?」


 そう問うと、その子はばつが悪そうにしかめっ面をした。

 数秒後、腹を括ったのか、覚悟を決めたような表情でこちらを見る。


「僕は……メレンゲ」

「メレンゲ…………」


 聞いたことがある気がする。

 それに、声も何処と無く懐かしい。


「君の、使い魔さ。訳あって現実世界では姿を見せられない決まりになっていてね……でも、この世界――夢……って言うのかな? ここでは姿を見せれる事が分かったんだ!」


 にこやかに微笑む。

 その笑顔をブランは知っているような気がした。

 聞くべきか悩んだが……やはり聞いておきたい。


「ねぇ、あなたと私――どこかで会ったことある……よね?」


 そう言うと、メレンゲは俯いてしまった。

 それだけは答えられないんだ……と、独り言のように呟く。


「でも! ちゃんと……いつか、話すから……」


 ――待っててね。


 ☆ ☆ ☆


 翌朝。

 目を覚ますと、そこにメレンゲの姿は無かった。


 記憶があると言うことは、メレンゲはブランから記憶を奪わなかったと言うことだろう。

 それがどういう意味か分からない程、ブランは馬鹿ではない。


「夢の中で、たくさんお話しようね……」


 その様子を、扉の前で見ていた影が立ち去る。

 その影は、「また後でね」と呟いた。

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シシミミ国のブランちゃん M・A・J・O @miku_kura

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