第29話 二人の時間

 あの後、無事にアステラにたどり着き、アンネと合流することができた。

 アンネの婚約式に、ザイザル国王の代理で参列したジークの横の席を用意され、対外的にもジークの婚約者と認識されたらしい。

 前日にウスラとの契約も切れ、同時に娼館から足抜けも完了した。


 ザイザル国に帰国した際、馬車ではなくジークの愛馬の上で横抱きにされ、国の端から王都までまるで御披露目のように練り歩かされたのは……婚約を国民に知らしめる為ではないと思いたい。

 そして何故か、私の住まいが王宮の一室、ジークと続き部屋に移されていたのは……もう逃げられない現実なんだろう。


 国外、国内共に私の地位が確定し、アンネと共に受けていた妃教育が、特別に私専用の時間が足された。主にザイザル国特有の行事やしきたり、ザイザルの王族としての立ち居振舞いなど、つまりは将来ジークの妃になる為の準備ということだ。


「ディタ……もう寝ちゃった? 」


 控え目なノックと共に、内扉からジークが顔をだした。

 最近ジークはヒュドラ国復興の手伝いで忙しい。そのおかげか、この内扉からジークが私の部屋に入ったことはない……私が起きている間は。内扉に鍵はなく、私が熟睡している間にこっそり忍び込み、おやすみのキスをしていることは知っていたけど。


「もう寝た」


 慌てて座っていたソファーに突っ伏して寝たフリをする。


「寝てる人は返事をしないよ」


 クスリと笑い声がして、軟らかくて暖かい感触を頭頂部に感じる。


「寝言です。爆睡中です」


 フワリと浮遊感があり、お姫様抱っこで運ばれる。それでも頑張って目を閉じたまま寝たフリをする。まあ、寝てるから何もできませんしないで下さいというアピールでしかないんだけど。


 無重力な状態でやさしくベッドに下ろされた。

 唇に触れるだけのキスを数回落とされ、最後に髪の毛をさらりと撫でられる。耳元で「おやすみ」と囁きが聞こえ、しばらくしてから内扉が閉まる音がした。


 ジークは約束を破ることはなかった。最近では、私の方にムズムズするようなやるせない気持ちが溜まってきているんだけど、ジークには絶対に内緒だ。


 ……内緒だけど、明日はこっそり首もとに腕を回してみようかな。寝ぼけたふりをして。









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続・娼館に売られたけど、成り上がって見せます! 由友ひろ @hta228

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